私のミッション・ビジョン・バリュー2025年第4回 吉田賢太郎コーチ「自然体」
多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。
その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。
ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針
原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。
2025年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2025年第4回は吉田賢太郎コーチです。
(取材・構成 佐藤拓也)
「沖縄キャンプから戻ってきて少し経ってからはじめて、合計5~6回行いました」
Q.話をしてみて、いかがでしたか?
「そんなに大きな発見はありませんでしたけど、こういうことを言葉にすることは大事だなと思いました。キャリアコーチに助けてもらいながら、一つひとつ言葉にしていきました。水戸に対する思いが自分の中で整理できたかなというところはありました」
Q.選手だけでなく、指導者が面談を行うこと自体、珍しい取り組みだと思うのですが。
「クラブとしての取り組みとして、本当に珍しいと思います。ただ、以前はJリーグの方で指導者向けの研修を行ってくれていて、フレームに沿って、自分の考えをまとめていくような研修を経験したことはありました。その経験があったので、担当していただいたキャリアコーチの助けもありましたけど、スムーズに進めることができました」
「指導者としてのMISSIONは仕事ですよね。何をする仕事かというと、コーチなので、手助けをすること。何の手助けをするかというと、選手やクラブの価値を高めること。それがコーチとしての第一の仕事だと思っています」
Q.そのために意識していることはありますか?
「邪魔をしない」
Q.それはどういったことでしょうか?
「選手の邪魔をしないことですね。自分が出すぎないこと。育成年代の指導者も経験しましたし、いろんなクラブでコーチをしてきましたけど、そこはポリシーとして持ってきました。主役は自分ではないんです。監督ではないですから。では、何をするかというと、チームと選手の価値を高めること。選手個々がJ1や海外、日本代表で活躍できるであろうという評価を得られるようになることが、自分の仕事の評価につながると思っています。だからこそ、価値を高めることを大切にしています」
Q.これまでいろんなチームでコーチを務めてきましたが、チームによってコーチの立ち位置や役割は変わってくると思います。
「若い頃は自分よりも年上の選手がいたこともありました。以前、5つ年上の選手がいるチームでコーチを務めたときには、年上のキャリアと実績のある選手と向き合わないといけい難しさを感じました。その都度いろいろ考えたり、話し合ったり、ぶつかり合ったりしてきた中でやっぱりコミュニケーションが大事だなと思うようになりました。本当にいろんな経験をさせてもらったことが今に生きていると感じています」
Q.コーチとして経験して見えるものも変わってきましたか?
「いろんな監督の下で仕事をしてきて、いろんな学びがありました。今は選手時代から一緒に戦ってきた森監督から呼んでもらって一緒に仕事させてもらいながら、新たな学びを得ることができています」
Q.森監督とはどういう関係ですか?
「森監督が3歳年上で、向こうは自分のことを『生意気なヤツ』と思っているかもしれませんが(笑)、選手時代から仲良くしてもらっていますし、ご飯もよく連れて行ってもらいました。今回も森監督から誘ってもらって、水戸に来ることになりました。本間幸司さんが引退をしたタイミングもあって、いろんな思いがあって、水戸に戻ってくることができました。おかげでいいシーズンを過ごすことができています」
Q.今季、昇格争いを繰り広げており、実際にクラブの価値を高めることができています。やりがいや手ごたえを感じているのでは?
「やりがいと手ごたえを日々実感していますし、『いいサイクルだな』と思うことができています。でも、それが簡単に壊れることも知っています。その危機感を常に持ちながらやっています。森監督ともそういう危機感を共有できているという実感もあります。締めるところをしっかり締めていますし、僕もそういうところを感じ取って、選手と接することを意識しています。距離感も含めて、常にアンテナを張るようにしています」
Q.選手時代から一緒にプレーしていただけに、監督が考えていることも分かるのでは?
「性格は分かりますよね。2人ともほぼ同じ時期から指導者になりましたけど、ここまで違うプロセスを歩んできた中でも定期的に連絡を取り合って、情報交換をしてきました。コーチは常に監督の考えていることに対して敏感でないといけない。監督が言えないことをコーチは察して伝えないといけないときもある。選手に対してだったり、マスコミに対してだったり、監督の手が届きにくいというか、気づいているけどできないこともあると思うので、かゆいところに手を届かせるように動くことがコーチの仕事だと思っています。そういった意味では、僕だけではなく、今季の水戸のコーチングスタッフは本当にしっかりアンテナを張れている人ばかりなので、すごくいいチームワークを築けていると感じています」
「今自分が指導者として活動できているのも、選手時代から応援してくださる方々の助けやサポートがあったからこそだと思っています。サッカー選手は愛されて生かされる側面があると思っています。社会の中で認めてもらうためにも、愛されるクラブになることは大事だと思っています。そういう集団になることが水戸ホーリーホックが発展するために絶対に必要なことだと思っています。たぶん、それがゴールになると思っています。僕の見えているビジョンは、今も昔も変わっていなくて、地域をはじめ多くの人に愛されるクラブになることが最終的な目標だと考えています。それはどこのクラブも一緒だと思うのですが、ストーリーが違うんですよね。僕には僕の水戸ホーリーホックのストーリーがあって、本間幸司さんには本間幸司さんのストーリーがある。それぞれの違うストーリーが紡ぎ合って、紡ぎ合って、クラブは大きくなっていく。大切なクラブの発展に対して、少しでも貢献したいという思いがあります。自分の在籍なんて、クラブの歴史においてほんの一瞬だとは思うんですが、その一部になれていることを誇りに思えています。今年、水戸に来て、クラブの発展ぶりに驚かされました。僕がいた頃は練習場もクラブハウスもなかったですし、今は昼食も提供してもらっていますけど、当時は先輩方も生活が苦しかったと思いますけど、後輩たちに食事をおごってくれていました。それこそ、地元の方々が食事を提供してくれることもあって、なんとか生活できていました。20年ぶりぐらいに水戸に戻ってきましたけど、よく消滅せずに残ってくれたなという思いもあります。そう考えると、今年あらためてこのクラブに関わらせてもらって、このバトンをしっかりつないでいかないといけないという使命感を強く感じています」
Q.特にアツマーレという施設はその象徴ですよね。
「本当にそうですよね。クラブを離れてからも、水戸のことはずっと気になっていましたし、森監督をはじめ、いろんな人と情報交換をさせてもらっていて、水戸の情報は常に入ってきていたんですけど、その中でもアツマーレができたという話を聞いたときは本当に嬉しかったです。実際、こうやって使用させてもらって、本当にありがたく思っています。選手にとっては素晴らしい環境だと思いますし、最新の施設ではないかもしれませんけど、みんなの気持ちがこもったクラブハウスです。本当にありがたいです」
Q.現在の選手はこの状況を当たり前だと思っています。だからこそ、“当時”を知る人たちがこの環境が当たり前ではないことを伝えられる人の存在は大きいと思います。
「そういう意味でいいタイミングで戻ってきたと思えています。本間さんがそういうことを伝える役割を続けてきて、本当に屋台骨としてチームを支えてきてくれました。本間さんから引退するという電話をもらったとき、『そろそろ水戸に戻るタイミングかな』と思ったこともありました。そのタイミングで森監督から声をかけてもらえて本当に良かったです。ただ、僕らだけでなく、たとえば、西村卓朗GMはMake Value Projectを行うなど、若い選手に対してすごくいい影響を与えてくれている。本当にいろんな人がクラブをつないできてくれたんだなと感じています。水戸にしかできないことをしてこなければ、なくなっていたクラブだと思うんですよ。他のクラブとは違う取り組みを続けてきた結果が今季の結果につながっているように感じています」
Q.森監督から誘われて、水戸に来ることが決まったとき、どんな思いでしたか?
「責任を感じました。でも、森監督だからこそ、助けたいとか、支えたいと思うことができました。他のチームからもオファーがあったので、監督が違ったら、もしかしたらオファーを受けなかったかもしれません。でも、森監督の存在や本間さんの引退などもあり、水戸に戻るタイミングだと思って、オファーを受けることにしました」
Q.クラブの歴史を知っているからこそ、昇格争いをしている現状に感慨深い思いがあると思いますし、この戦いにストーリーを感じているのではないでしょうか?
「それはありますね。毎日ワクワクさせてもらっています。そういう点で本当に選手に感謝しています。だからこそ、選手の価値を高めるための力に少しでもなりたいという思いもより一層強くなっています」
「僕は引退が早かったので、比較的若いうちに指導者の道に進むこととなりました。はじめのうちは、どうしても子どもたちに『教える』というスタンスだったんです。でも、気づいたことがあって、教えるのではなく、気づいてもらうとか、そういうことがコーチの仕事だと思ったんです。誰かに押し付けるのも嫌だし、それこそ、自分も『こうだ』『こうしろ』と言われるのが嫌なタイプだったんです。その人の意見もあるし、その人の思いもある。そこはしっかり聞かないといけないと思うようになりました。ある研修に参加したとき、『傾聴』の話を聞き、耳を傾けることの大切さに気づきましたし、観察することで気づくこともある。それもコーチとして大事だなと思うようになりました。そのうえで手助けをして、価値を高めることがコーチの仕事だと思っています。それがVISIONを達成するための手段であり、自分にとって大事なスキルだと信じてやっています」
Q.練習中、選手たちの表情を常に見ているわけですね。
「めちゃくちゃ見ています。うまくいっているときはいい表情を見せてくれますが、やっぱり感情はあるので、うまくいっていないときとか問題を抱えているときの表情はすぐ分かります。そのときにどう対処するかが大事だと思っていて、自分が直接対処した方がいいのか、誰か他のコーチに接してもらった方がいいのか、それとも監督から直接言ってもらった方がいいのかなど、そういったジャッジを一つひとつしていくことを意識しています」
Q.そのジャッジは常に監督に相談するのですか?
「もちろんです。自分が気づいたことを隠すことなく、話すようにはしています。今までいろんな監督のもとでコーチを務めてきましたけど、どの監督も何か異変があったときや気づいたときには『なんでも言ってほしい』と仰られますよね。そういったときにすぐに、正直に伝えられることが信頼関係だと思うので、そういった意味で森監督とそういう関係を築けていますし、僕だけでなく、他のスタッフもそういった関係で取り組むことができていると思います。チーム状態が悪くなったら変わってくることもあるかもしれませんが、そうならないように日々コミュインケーションを取りながらやっていくことが大事だと思っています」
Q.特に水戸は若い選手が多い分、コーチの関わりが重要視されるチームです。
「最近の若い選手は『どうすればいいですか?』と聞いてくることが多い。そういうときには『どうした方がいいと思っている?』と聞き返すようにします。僕から何かを伝えることは簡単なことなんですよ。だけど、彼らがどうしたいかが一番大事なことなんです。『こうやってプレーしろ』と伝えることはできますけど、そうなると、僕が描いた選手にしかならない。でも、選手には個性がありますし、それぞれの考えがある。それが選手の特長を形成していくんです。なので、『こういうプレーをしたかった』という話を引き出した上で、『ならば、こういうことができたよね』といったアドバイスをするようにして、そこから彼らが答えを出していくことによって、より選手として幅が広がると思いますし、成長速度も速くなると思っています。そういう指導方法でアプローチしているつもりです」
Q.今季、変化を感じる選手はいますか?
「津久井匠海(大宮)は最初に会うまでプライドの高い選手なのかなと思っていたら、意外と気さくでなんでも受け入れられる選手でした。でも、受け入れすぎて考えすぎちゃうところもあったんです。なので、そういうときに開放してあげることを意識しましたし、ときにはベテランの選手から声をかけてもらうようにすることもありました。そうしたら、一気に成長していきましたね。(齋藤)俊輔は気の強い性格なので(笑)、ちょっと距離を取ってアプローチをするようにして、失敗したときにアドバイスをするようにしました。それぞれ選手によってアプローチを変えながら、より価値を上げるための手助けをしてあげたいと思っています」
Q.新加入選手だけでなく、既存の若手選手の変化はいかがでしょうか?
「たとえば、鳴り物入り的な感じで加入した森村俊太は、スピードという誰にもない圧倒的な武器を持っている。そのスピードのコントロールができるようになれば、変わると思っています。そういった課題に関して、しっかり取り組めている。チームの中で自分の立ち位置を理解して、日々のトレーニングに打ち込んでいるように感じています。このチームにとって大きいのは、先ほども話しましたが、週に一度Make Value Projectのような座学に取り組んで、しっかり考える習慣ができていることだと思っています。それは他のクラブにはない取り組み。特に若い選手はそういったことで頭の中を整理できているように感じています。自分が現役だった頃はそんな取り組みはなく、自分でいろんなことを気づかないといけなかった。でも、今の水戸の選手たちは気づくチャンスがたくさんある。そこはとてもいいと思います」
「自分の人生経験上、あまり考えすぎると良くないし、欲をかきすぎても良くないという考えがあるんです。いろいろ失敗もしてきたので。常に自分のままでいられたらいいと思っていて、それが自分も幸せだし、周りも幸せにすると思っているので、その言葉を選びました」
Q.指導者は選手から常に見られる立場です。精神的な浮き沈みがあると、チーム状態にも大きく関わると思うんです。だからこそ、指導者が常に自然体でいることは大事だと思います。
「サッカーの仕事をしていると、サッカーだけのことしか考えなくなる人もたくさんいます。ただ、コーチである前に人間であるということを忘れないようにしています。やっぱり、この仕事は人との関係が大切な仕事だと思っているので、そこはぶれないようにしたいと思っています。そのメッセージでもあります」
Q.メンタルがいい状態ではないと、いい仕事はできないですからね。
「そうですね。それが難しいんですけどね。人生はいろいろありますから(笑)」
Q.最後にリーグ戦に向けての意気込みを聞かせてください。
「何も変わらないです。目の前の試合に向けて、いい準備をして、その試合が終われば、その次の試合に向けていい準備をする。その繰り返しだけだと思っています。それは監督とも話をしていて、シーズン開幕からずっと続けることができています。首位にいて、周りが騒がしくなっているからこそ、そこがぶれないように気を付けないといけないと思っています。クラブと選手の価値を高められるように、これからも続けて頑張っていきます」
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ