私のミッション・ビジョン・バリュー2025年第2回 知念哲矢選手「ギバー(GIVER)」
多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。
その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。
ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針
原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。
2025年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2025年第2回は知念哲矢選手です。
(取材・構成 佐藤拓也)
「1回1時間の面談を6~7回ぐらい行いました」
Q.今までサッカーへの思いや自分の内面、自身の過去について第三者に深く話したことはありましたか?
「プロ1年目からメンターの方に話をする機会は設けてきたんですけど、しっかり自分の指針を言語化する経験ははじめてだったので、すごく面白かったです。何のためにサッカーをしているのかとか、自分のやるべきことは何かといったことをしっかり考えて言葉にしたことで、メンタルの波がなくなったような実感があります」
Q.面談を通して、新たな発見はありましたか?
「高校時代の監督が『サッカーを通して人間性を育む』という考え方を持つ方で、その方の考えにすごく共感したというか、生き様や言葉に嘘がない人で、すごく影響を受けました。ただ、その方の考えを理解できたのは高校を卒業した後で、年齢を重ねるごとに『すごい人だったんだな』という思いが強くなっていきました。自分の中でその考えを持っておこうと思うようになりました。僕も人間性を大切に生きてきて、プロになることができた。なので、今回の面談でそういったことを言語化したとき、『自分のため』よりも『周りの人のために動ける人間』なんだということを認識することができました。それは自分の中の発見でした」
「面談をしたとき、最初は『サッカーを通して人間性を育む』という言葉を考えたんですけど、それはサッカーにしか当てはまらないと思ったんです。もちろん、サッカー選手なので、それはそれでいいんですけど、サッカー選手である前に一人の人間であることを考えると、自分の根っこは『人としてどうあるか』だと思い、そこで大切にしていることは何かということで、言葉を探しました。僕は『周りの人に影響を与える・気づきを与える』ことのアンテナを大切にしているつもりです。それを現状の環境でどう表現するかを考えたとき、この言葉になりました。これをサッカーに限らず、1人の人間としての価値にしていきたい。そういったところを求められて、今年水戸からオファーをいただいたと思っています。そのタイミングで、自分の考えをこうやって言語化できて良かったです。こうやって言語化することによって、自分の役割もはっきりしましたね。すごくいい機会になりました」
Q.水戸は若い選手が多いチームだけに知念選手の経験を還元する役割を求められていると思います。
「ほかのチームならば、中堅ぐらいの年齢だと思うんですけど、水戸では“上”の立場になります。大学を出て、琉球に入って、そこから浦和、大宮、仙台と移籍して、今回水戸に来ました。年齢の割に多くのチームでプレーしてきました。日本代表選手とも一緒にプレーしましたし、いろんな経験をしてきました。だからこそ、水戸に来て、プレーはもちろんなんですけど、それ以外の振る舞いでどういう立ち回りをすればいいのかを最初は探り探りだったんですが、MVVの面談を通して、それがはっきりしました。元々、客観的に物事を見る習慣があったので、そうした自分の性質を活かしながら、メンバーから外れた選手やしんどそうな選手がいたら、声をかけるようにしています。状況によって厳しい言葉をかけるときもありますし、そういったことがこのチームにおいて自分が求められている役割だと感じています。自分で言うのもなんですが、それを体現できている実感はあります」
Q.外からチームを見ていて、知念選手は常に前向きに取り組み、周りに対してしっかり声掛けをしているのが伝わってきます。「知念選手の存在が大きい」と口にするチームメイトは少なくないです。もちろん、試合に出て活躍をしてチームを引っ張りたいという思いはあると思いますが、そうした役割を全うできていることに、自身の成長を感じることができているのでは?
「1試合も出られなかった浦和での2年目が今までで一番しんどかったのですが、その中で自分の強みは、どんな環境でも、どんな状況でも逃げずに向き合い続けて、やり続けられることだと気づきました。そのシーズンを経験したからこそ、出場機会に恵まれなくても下を向くことはなくなりましたし、同じような経験をしている選手の気持ちが分かるので、自分が試合に出られなくても、自分のことばかり考えるのではなく、周りを引き上げていくという意識で取り組むようになりました。水戸に来て、もちろん試合に出ることが一番ですけど、それ以外のところでの充実度はプロになってから一番高いです。自分のサッカー選手としてのスタイルを確立できている実感があります」
Q.そういった境地にたどり着くまで、今まで影響を受けた選手はいますか?
「浦和では酒井宏樹選手や西川周作選手。仙台では長澤和輝選手。琉球では李栄直選手。それこそ、元水戸の福井諒司選手からも大きな影響を受けました。プロ1年目でチームメイトになって、同じポジションだと、ライバル視する選手も少なくないんですけど、諒司さんはそんなことなく、いろんなことを教えてくれました。一緒にプレーして、すごく成長できたと思います。浦和では、ACLに出場した際、帯同したスタッフが少なかったことがあったんですけど、そのときに周作さんが率先して片付けの手伝いをしていて、本当に小さいことなんですけど、チームのために状況を見て動ける姿勢に感銘を受けました。今まで上の選手たちが示してくれる姿勢を見てきたからこそ、今水戸で自分がそうなりたいと思って行動するようにしています。それが僕のMISSIONです」
「自分の価値観だけでなく、他の人の価値観も理解することによって、視野が広がると思うんです。それを周りの選手に伝えていきたい。そのためにも自分がどんな状況でもぶれずに行動し続けないといけない。そうすることによって、言動にも説得力が増すと思うんです。チーム全員がチームのことを考えて行動できるチームは強い。そして、選手個々の成長にもつながると思います」
Q.主力選手が好調の要因の一つとして「紅白戦の質の高さ」を挙げていました。出場機会に恵まれていない選手たちがチームのためにという思いを持って取り組んでいることも、水戸を支えているのでは?
「そこにつながっていたら、嬉しいですね。ただ、そういう雰囲気は僕一人で作ることはできません。みんなが感じて行動してくれているんだと思います。ただ、若い選手たちもいろいろやろうとトライしているけど、うまくいかないことも多い。そういうときにアドバイスをするようにしています。ただ、水戸は不貞腐れるような選手はいないんです。不貞腐れていたら、厳しく言いますけど(笑)。だから、出場機会に恵まれていない若い選手もどんどん伸びているんです」
Q.板倉健太選手と鷹啄トラビス選手の若いセンターバックが起用されることが多いですが、2人にアドバイスすることもあるのでしょうか?
「試合中のプレーについて、『あそこはどうだったの?』と聞くこともありますし、アドバイスすることもあります。逆に僕の方からアドバイスを受けに行くこともあります。2人とも全然満足してなくて、伸びしろがたくさんあると思います。このチームには誰一人満足している選手がいなくて、常に貪欲なんですよね。だから、アドバイスを聞きに来る選手も多いですし、意見をぶつけ合うことも多い。それも好調の要因だと感じています。ただ、大事なのはこれからだと思っています」
「自分本意にならない。そして、俯瞰的に現状を見ることが大事だなと思っています。サッカーは団体競技ですし、生きていく上で必ず誰かと関わりあっている中で、自分のことも大事ですけど、まずは周りの人のことを考えて行動することによって、組織としてうまく回るようになると思うんです。そういう環境や状態になれば、強い集団になれる。その結果、いい結果がついてくるようになるんじゃないかと思っています。少なくとも、悪い方向には進まないと思っています」
Q.「率先して」という言葉がポイントだと思います。
「1人1人が思っていても行動できないことがあるんですよ。もちろん、全員が率先する必要はないと思いますけど、自分がそういう立場ですし、自分はそういうことができるタイプの人間だと思っているので、先頭に立って行動していくことが大切だと思っています。自分ができることをしっかりやって、できないところは誰かに補ってもらう。そういう関係が組織としての理想なんじゃないでしょうか」
Q.知念選手はミーティングのときに常に一番前に座っていますね。そういった姿勢からも周りの選手に伝わるものがあると思います。
「それこそ、僕の理想形は無意識にそういう行動をすることです。だから、ごみが落ちていたら、何も考えずに拾うとか、そういった行動ができるようになれば、より人として高みに行けるのかなと感じています。ミーティングの席に関しては、最初はアピールの気持ちもありましたが、今では無意識に座っているので、それはいいことだと思っています」
「偉そうに思われるかもしれませんが、自分が周りに姿勢を見せて、影響や気づきを与えられるようになりたい。率先して、みんなを引っ張っていく。影響力を与えて、すべてをプラスの方に持っていけるようにしたい。そういう意味を込めて、『GIVER』という言葉にしました。自分の考えを、うまく言葉にできたと思っています」
Q.与えたことが循環して、チームとしていい結果につながることも大きな目的ですね。
「自分が試合に出られればベストなんですけど、そうでなくても、チームとして結果を出すことが大事。そこに影響を与えることができている実感が自分の中にはあります。たとえば、松本山雅FCに期限付き移籍した(川上)航立が『テツ君の存在は大きかったです』と言ってくれたことは嬉しかったですね。自分の独りよがりのアドバイスになってしまっているのではないかという不安もあったんですけど、そういった言葉を受けて、『もっとやっていいんだ』と思えるようになりました。試合に出ていても、出てなくても、チームを引っ張っていく存在になっていきたい。自分がしんどいとき、ネガティブな感情が出そうなこともありますけど、そういうときこそMVVに立ち返って、気持ちを切り替えるようにしています。MVVを作成したおかげで、精神的な成長を感じています」
Q.ここからリーグ終盤に突入します。ここからピッチ上でも貢献したいという思いが強いのでは? 心身ともに成長した姿を見せたいというか、自分に期待しているところもあるのでは?
「あとは試合に出て活躍するだけですね。それが一番の理想です。今までどんな状況でもぶれることなくやってきたつもりなので、試合に出たら自分のプレーを表現できる自信はあります。あとはコンディションに気を付けながら、いい準備をして、自分だけでなく、周りも引き上げていきたい。なおかつ、自分がピッチに入ったとき、周りと連係を高めるためにより一層コミュニケーションを図っていきたいと思っています」
Q.シーズン終盤に向けての意気込みを聞かせてください。
「チームとして自動昇格を目指しているので、そこにしっかりベクトルを向けないといけない。今まで通りでは達成できないと思うので、個人としても、チームとしても一皮むけるようにやっていかないといけない。個人的にはいつでも試合に出る準備はできていますし、チャンスが来たら死に物狂いでつかみ取る気持ちでいます。みんなの力でJ1昇格の景色を見たいと思っています」
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