鹿島ユースがクラブユースで初優勝。最高の形で結実したアカデミー強化の成果。中野洋司監督が小笠原満男、本田拓也たちと目指す「トップで主役になる選手育成」の正体。
“個の技術向上”に特化した成果。「1、2年では絶対にできない」
「優勝できたことは嬉しいことです。ただ、目標はトップで活躍する選手を育成することです。これで終わりではなく、選手たちに“もっと良くなるんだ”という向上心を持たせて、引き続き“トップで主役になる選手育成”をしっかりと進めていきたいと思っています」
アントラーズアカデミーでは、2010年に作成した各ポジションごとでどんな選手を育成していくかの指針となる「アカデミーDNA」(詳細リンク記事より)をベースとして、ジュニアからユースまでの指導体制は一貫した方針で進められている。個の技術向上に特化し、トップチームで活躍する選手育成を目指す。ハード面でも2019年に選手寮となるアカデミーハウス、2021年に専用グラウンドのアカデミーフィールドが完成し、日本トップクラスのユースの生活拠点として、また有望な選手の練習参加を可能にする拠点として、アカデミー強化に寄与している。
同時に、指導体制の強化も余念がない。
2019年、その前年に現役引退した小笠原満男がアドバイザーとして加わり、柳沢敦・現トップチームコーチはユースコーチに就任(2021年からユース監督)、その後に曽ケ端・現トップチームGKコーチがアカデミーの指導者として加わった。もう一人、今のアントラーズアカデミーを中心となって引っ張る鈴木修人アカデミーマネージャーの存在も欠かせない。現役引退後、明治学院大学で監督コーチとして結果を残し、2019年にアントラーズ強化部スカウトとして現役時代以来となる復帰を果たした。
「僕がアカデミーのスタッフになって今年で6年目になります。同じタイミングで(小笠原)満男さん、ヤナさん(柳沢)がアカデミーに加わった。今のユースの高校2年の平島大悟たちが当時小学5年、高校3年の大川佑梧たちが当時小学6年でした。そこから6年間の積み重ねだと思っています。正直、やっとここに来て、しっかりとサッカーができるようになってきた。1、2年では絶対にできないことだと思うし、きちんと個の強化に特化して技術ある選手を育て続けてきたからこそ、今があるのだと思っています」
小笠原満男、本田拓也の教えが生きた“福岡のひと蹴り”
アントラーズユースは試合立ち上がりからペースを握って試合を進めた。前半18分、ペナルティエリア左からFW吉田湊海がシュートすると相手がブロック。マイナスにこぼれたボールにすかさずMF福岡勇和が反応した。ペナルティエリア中央にスルッと侵入するとワントラップして右足一閃。綺麗な放物線を描いたボールは、ゴール右に吸い込まれていった。
「マイナスが空くのはミーティングで言われていて、そこに入っていこうと話していました。自分は守備が特徴の選手。そのなかで攻撃面はロングボールやミドルシュートの質を上げることを意識して日々取り組んでいます。いつも練習では満男さんや本田拓也コーチから教わっているので。練習で見てもらっている成果が出ました」(福岡)
同37分には、MF平島大悟の左からのクロスに飛び込んだFW髙木瑛人の見事なヘッドがゴールに突き刺さった。
「岡崎慎司さんが好きで手本によく動画を見ていて。今年ユースに入ってからレベルも上がり、ただ突っ立っているだけでは勝てないことが多くなったので、相手DFの視野外から入っていくことを意識するようになりました。今日は平島選手と目が合って、最初に相手の背中を取って、平島選手の顔が上がった瞬間に前へ入ったらいいボールがきた。助走があれば負ける気はないので、いい形で決められて良かったです」(髙木)
鈴木優磨、レオ セアラとマッチアップする日常が生んだ成長
二種登録で日々トップチームの練習に参加するキャプテンのDF大川佑梧とDF元砂晏翔仁ウデンバのセンターバック二人を中心に、付け入る隙を与えなかった。相手の突破を止め続け、深さのあるスライディングでスタンドを沸かせた元砂が振り返る。
「大川選手と相手の9番を抑えようと試合前から話していたし、監督からも言われていました。他の選手も含めて自分の守備や足の長さを生かしてボールを取り切って、自分のプレーも出せて嬉しい。トップの練習に参加することで、一対一はレオ セアラ選手や鈴木優磨選手とマッチアップしていますけどとにかく強い。もちろんユース年代ではいないし、Jリーグでもトップレベル。そういった相手と日々対峙することで、どう勝つのかを考えることで、成長できているなと思います」(元砂晏翔仁)
キャプテンの大川も手応えを感じ、試合後はホッとした表情を見せた。
「相手の9番がキーになる選手だったので、自分と元砂選手で何もやらせないようにしようと話していました。結果として無失点に抑えられたのは良かったです。二人とも年代別日本代表に選んでもらっているので、二人で守り切れたのは良かったです」(大川)
日々、トップレベルを体感する日常が糧となり、個の成長へと紐づいていった。
優勝前、最後のロッカールームでの中野監督の言葉
チームとして、組織としての成長が、今のアントラーズユースの勝負強さにつながっている。
「3点目を取るまでは、引き続き前から行こう」
2点をリードしたハーフタイムのロッカールーム。中野監督は、選手たちに最後の45分をどう戦うのか。方向づける言葉を送った。
「2点差は何が起こるか分からない。守備的になるな」
その言葉通り、後半も個々の局面勝負で圧倒してペースを掴むと、後半13分に左からのクロスをMF中川天蒼が頭で決めて突き放した。
「今大会、点を取れていなかったなか、絶対に取ってやろうと臨みました。平島選手がいいボールをくれたので、あとは頭で押し込むだけでした。決勝でみんながチームのために同じベクトルを向いてやれた結果が3-0を導いた。同じ方向で戦う大切さを実感しました」(中川)
大会10日前の準備が生んだ“教訓”
チームメートたちがベンチ前で喜びを爆発させる端で、DF大川佑梧キャプテンは中野監督はじめ小笠原アカデミーアドバイザー、本田コーチとすり合わせた。
「同じ失敗を繰り返さないようにしよう」
大会10日前のことだ。練習試合での出来事を大川が振り返る。
「前半で4点を取ったにも関わらず、後半に追いつかれたんです。この戦い方はダメだと。(3点目を奪った直後に)その確認をしました。練習試合での教訓が今日に活きました」(大川)
無理に前へ出ず、ボランチの福岡、大貫琉偉を中心にゲームをコントロールし、タイムアップの笛を聞いた。試合後、中野監督は勝因の一つにチームとしてのタイトルへの思いを挙げた。28年ぶりのクラブユース決勝進出。アントラーズユースがまだ獲ったことのないタイトルだった。それを手にして歴史に名を刻みたい。常勝を義務付けられたクラブならではの思いは、チームをさらに大きくした。
「大会前からクラブとして獲れていないタイトルということで、選手たちにも意識させました。そのなかで、選手たちは試合前からいい準備をしていたし、歴史を変えたいというモチベーションを感じました」(中野監督)
ジーコが常々語る、「サッカー選手の価値はタイトルの数にある」
「サッカー選手としての価値はタイトルの数にある。引退後は獲得したその数が履歴書となる。タイトルを獲ってクラブに名を刻むことが選手として目指すべきことだ」
決勝当日、長くアントラーズアカデミーを支えてきた監督コーチはじめ現スタッフやユースOBまでが試合会場に集結して、スタンドからチームを後押しした。ゴール裏にはサポーターとともにアカデミーのスクール生からユースまで多くの未来のアントラーズ戦士たちがピッチへ声を送り続けた。アカデミー全体で勝ち獲ったタイトルだった。
「アカデミースタッフみんなで見て、みんなで育成している環境が作れています。それは今のアントラーズアカデミーの強みだと思っています」(鈴木アカデミーマネージャー)
試合後、中野監督は「プレミア(高円宮杯 JFA U-18サッカープレミアリーグ 2025)で優勝するぞ」と選手たちに声をかけたという。
指揮官もまた貪欲である。それに常に危機感を胸に次へ向かい続けたクラブのスピリットと相通ずる。タイトルを獲れば、また欲してしまう。常にそんな欲を掻き立たせる環境づくりのため、その準備に余念がない。
「アントラーズの歴史に名を刻めた。次はプレミアリーグのタイトルを獲りたい」
これまで、アントラーズトップチームの選手たちはタイトルを獲得すると、すぐに次のタイトルへの欲を口にした。クラブユース決勝で初優勝をつかんだ選手たちからは試合後、口々にタイトルへの欲を見せていた。
初タイトルによって、新たなユースの歴史が刻まれた。頂点に立ったアントラーズユースの描く景色。それは、まだまだ先にある。
アントラーズユースにとっても、そして選手たちにとっても。
記事内の『アカデミーDNA』詳細は下記関連リンクから!
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