イギリスにおける学校スポーツ
本文:財部 憲治(笹川スポーツ財団 国際チーム)
学校スポーツに関する国家戦略の経緯
そして2008年には「Physical Education and Sport Strategy for Young People」 (子どものための体育・スポーツ戦略)を定めました。対象となる子どもの年齢層に違いはあるものの、前戦略から継続して週2時間の体育実施に加えて週3時間、合計週5時間の運動・スポーツの実施を目標に掲げ、学校スポーツパートナーシップスをさらに発展させました。そして、学校での体育・スポーツを促進する全国キャンペーンである「National School Sports Week」(全国学校スポーツ週間)の実施などを推進しました。
しかしながら、2010年の政権交代により上記戦略に関連する予算が削減され、特に学校スポーツパートナーシップスは漸次廃止されました。代わりに、2012年に開催するロンドンオリンピック・パラリンピック大会開催のレガシーとなるように、学内や学校対抗のスポーツ大会である「School Games」(スクールゲームズ)の開催に注力しています。
学校スポーツと運動に関する行動計画の概要
<ガイドブックの主な内容>
● 体育の運営体制、授業時間の確保、学校内での理解促進アプローチや体制強化案
● 学校施設の活用案
● 性別に関係なく平等にスポーツに参加できる仕組み
● 子どものニーズの把握方法
● 体操着の経済的負担の軽減案
● 特別な教育支援や障害をもつ子どものスポーツ参画など
経済的な支援に関する取り組み
政府は2024-2025年度まで補助制度を継続し、総額6億ポンド(約1,170億円※)を教育省および保健・社会福祉省が共同で支出することとなっています。学校への具体的な補助額は、たとえば400名在籍している学校の場合、2万ポンド(約390万円)の補助を受けられます。政府は、補助金の効率的な活用を促進するとともに、補助金の使途に対する学校の説明責任の強化を図り」、情報公開のためのデジタルツールを導入する予定です。
バーミンガムにある在籍生徒が400名を超える特別支援学校のカルソープ・アカデミーでは、同補助金を活用して、教員が専門的な技術やコミュニケーション等の外部講座を継続的に受講する機会を確保し、子どもたちが新しいスポーツを体験できる機会を創出しました。その結果、子どもたちの体育への参加意欲や学校自体への満足度が高まり、チャレンジング行動とよばれる自身や他者を傷つける、ものを壊す、突然奇声をあげるといった行動障害の回数が減りました。
※1ポンド195円で換算。
学校施設を有効活用する取り組み
生涯スポーツを推進する公的機関であるスポーツ・イングランドの「Active Lives Children and Young People Survey」(アクティブライブス子ども・青少年調査)の2023-2024年度の調査結果によると、学校施設を地域スポーツのために一部でも開放している公立学校は、公立の中学校と小学校のうち55.4%を占め、公立中学校のうち89%、公立小学校のうち45.7%がそれぞれ施設を開放しています。学校施設開放プログラムを通じて特に公立小学校の開放が進むことで、子どもたちのスポーツへのアクセス向上につながります。
※スポーツ・イングランドが創設したイングランド全域に53ある地域スポーツを推進するサポート組織
中央競技団体と連携した取り組み
※アクティブライブス子ども・青少年調査の2023-2024年度の調査結果では、小学校の最終学年(Year 6)のうち69.7%が、25メートルを泳ぐことができると回答しています。
その他の取り組み
また、小学校のナショナルカリキュラムに「Relationships and Health」(人間関係と健康)の教科を追加し、健康的なライフスタイルや精神的なウェルビーイングの重要性を学ぶほか、健康とウェルビーイングに向けた学校の取り組みを評価する制度も開始しています。
まとめ:学校スポーツの役割の拡大に向けて
本稿で紹介した「学校スポーツと運動に関する行動計画」にあるとおり、学校スポーツの役割を子どもの運動・スポーツの推進だけにとどめず、格差やウェルビーイングといった現代の子どもを取り巻く社会的な課題に対する取り組みにまで拡大することが重要です。
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