“日常に開かれたスタジアム”とは?スマート・ベニューが変える都市と地域の未来-行政から民間へ。スタジアム・アリーナ改革は都市と地域をどう変えるか?
びわこ成蹊スポーツ大学では、スポーツ政策・産業・観光の専門家によるスマート・ベニューの意義と可能性を探るクロストークを開催した。『エスコンフィールドHOKKAIDO』や『長崎スタジアムシティ』といった先進事例をもとに、スポーツを起点とした都市・地域づくりの最前線を共有したものである。
本企画には、同大学の学生チーム「プロスポーツコアチーム」が企画・運営に参画した。理論と実践を結びつける教育の一環として位置づけられ、学生主体による学びの場としても意義深い取り組みとなった。
民間主導への転換と政策的背景
同大学研究科長の間野義之氏は、こうした状況の変化について次のように語る。
「少子高齢化による財政制約の中で、行政が単独で施設整備を担うことは困難となった。民間資本の活用が不可欠となり、スポーツ産業の自立と収益化が進む中で、プロチームが自ら施設を建設・運営する流れが加速している。」
この民間主導の潮流は、スポーツ庁と経済産業省が推進する「スタジアム・アリーナ改革」政策とも連動しており、地域活性化や都市再生の手段としても位置づけられている。
多機能化と「選ばれる施設」への設計思想
同大学准教授で元・経済産業省スポーツ産業室長の吉倉秀和氏は、「施設がプロスポーツチームにとって収益源となるだけでなく、地域住民にとって日常的に利用可能な場であることが重要。ジムやカフェ、イベントスペースなどを併設することで、365日稼働する施設となることで価値が高まる」と述べる。
また、元・福岡ソフトバンクホークス職員で、現在は同大学専任講師としてスポーツビジネスと観光を研究する明世熙氏は、「近年の施設は、テナントが自由にカスタマイズできる設計が主流である。ライブイベントや地域行事など、スポーツ以外の用途にも対応できる汎用性が、施設の稼働率と収益性を左右する」と、設計段階から収益性と柔軟性を両立させる工夫が必要であると指摘する。
地方都市におけるスマート・ベニューの可能性
明氏は「地方では人口密度が低く、集客が課題となるため、観光資源との連携や多機能集約による地域拠点化が鍵となる。『長崎スタジアムシティ』では、ホテル・商業施設・オフィスを併設し、日常的な利用を促進している」と述べる。
吉倉氏は、SNSやバーチャル技術の活用によって施設の魅力を拡張する可能性について、「インフルエンサーによる発信やVR体験が、若年層の共感を呼び、来場のきっかけにつながる。チームや施設の情報発信力が、集客とブランド形成に直結する時代である」と語る。
アスリート支援と「日常に開かれた施設」の思想
加えて、日本型ともいえるスマート・ベニューの特徴として「日常に開かれた施設」という概念を強調する。「『長崎スタジアムシティ』では、スタジアムの一部が24時間開放されており、地域住民が朝の散歩や仕事の合間に立ち寄ることができる。ピッチ横のコンコースでノートパソコンを開いて仕事をする人もいる。こうした“公園のようなスタジアム”という発想は、治安の良い日本だからこそ実現できるモデルであり、地域に根差した新しい公共空間のあり方を提示している」と述べる。
地域と産業をつなぐ未来のハブへ
施設は観客や地域住民だけでなく、アスリートの支援環境としても進化しており、体験価値の向上がスポーツの社会的意義を拡張している。日本型モデルとしての「日常に開かれた施設」は、地域に根差した新しい公共空間のあり方を提示しており、今後の国際的展開にも注目が集まる。スタジアム・アリーナは、スポーツの舞台を超えて、都市と人をつなぐ未来のハブとして、その可能性を広げている。
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