9年越しに咲いたサクラ|日本代表テストマッチレポート
日本代表は10-24とリードされていた。
北九州での劇的な勝利から一週間、かつて世界最強と恐れられ、ワールドカップでは4度の4強入りを数えるウェールズ相手に連勝を狙った日本代表だったが、この日は前半からリズムに乗れない展開。
それでも、前週は最後の時間帯に逆転したという自信が、日本代表にはあった。
グリーンはフルバック(FB)で先発していた中楠 一期との交代で、FBの位置に入った。同時にクボタスピアーズ船橋東京ベイのスクラムハーフ(SH)藤原 忍が入る。より攻撃的な布陣へのシフトチェンジ。
試合を前に、グリーンは抱負を語っていた。
「日本を代表する機会をいただき、心から光栄に思い、感謝しています。2016年に日本に移住してから、この瞬間を夢見ていました。そして、明日のウェールズ代表戦のメンバーに選ばれるなんて、信じられない気持ちですし、家族、チームメイト、そしてクラブの皆さんに支えていただき、この瞬間にたどり着くことができました。明日はこのジャージのために全力を尽くします」
19分、日本代表の若きロック、ワーナー・ディアンズが相手のキックをチャージしたところから日本代表が相手陣に攻め込む。
グリーンはフルバックから積極的にスタンドオフ(SO)の位置に上がってファーストレシーバーとなってバックス(BK)にパスを送り、必要と判断すれば密集をオーバー。すぐに起き上がると再びSOの位置に戻って右で待つディラン・ライリーに鮮やかなパス。入ってすぐのアタックで長短3本のパスを通し、ワーナーのトライにつなげた。
さらにその3分後の22分には相手BKがファンブルしたボールを拾った埼玉ワイルドナイツのセンター(CTB)ディラン・ライリーが約55mを独走してトライを返す。先頭を切ってサポートについていたグリーンがライリーに飛びついて祝福する。
李 承信のコンバージョンキックも決まり、22-24。日本代表が追いつき逆転するのは時間の問題に見えた。
日本は何度も相手陣に攻め込みながら、蒸し暑さで滑るボールをコントロールできず、陣地を戻され、35分には逆にトライを献上。猛然と追い上げを見せた日本代表だったが、最後は詰め切れないまま逆に突き放され、敗れてしまった。
連勝ならず。
「しっかり戦って、勝てるぞというところまで行っていたのに、自分たちのミスで負けてしまった。悔しいけど、これを良い学びにして、次の機会には勝てるようにしたい」
グリーンは悔しさを飲み込んで言った。
「良い準備はできていたと思う。ゲームプランにも自信はあった。ただ、試合の中でこぼれ球が相手に行ったり、不運もあった。これからタフにレビューをしていかないといけない。でも、素晴らしい雰囲気の中で、目標だったジャパンのジャージを着て試合ができたことを誇りに思う」
一方で、ワーナーのチャージからトライに至る一連のアタックで、積極的にSOの位置に上がってボールを動かした臨機応変さには、エディー・ジョーンズヘッドコーチが掲げる『超速ラグビー』への適性を感じさせた。
試合の強度が上がった現代ラグビーでは(とりわけ消耗の激しい夏季の試合では)複数のポジションで計算でき、自ら意志的に動ける選手の必要性が増していくはずだ。
そしてグリーンは付け加えた。
「また、このジャージーを着たいですね」
日本代表の2025年夏シリーズはこの試合で活動を終えた。だが8月中旬には、30日のカナダ戦から始まるパシフィックネーションズに向けて再集合する。9月には米国の3都市を転戦するタフな日程が待っている。
「今日もスタンドにはブルーレヴズのファンがたくさん来てくれていて、感謝しています。来シーズンが待ちきれない。ただ、この先には(パシフィックネーションズの)試合もたくさんある。先のことはあまり考えずに、まず今日の試合をレビューして、次に向けて準備していきたいです」
2年後のワールドカップは母国オーストラリアで開かれる。もしかしたら、故郷のブリスベンで日本代表の試合が組まれるかもしれない。
21歳で来日し、愛知から静岡へ居を移し、30歳になるこの夏、初めてサクラのエンブレムをつけたオールドルーキーにとって、世界への挑戦は故郷への凱旋にもつながっているのだ。
頑張れサム。レヴニスタは応援しているぞ!
大友 信彦(おおとも のぶひこ)
1962年宮城県気仙沼市生まれ。早大第二文学部卒。1985年からフリーランスのスポーツライターとして活動。『東京中日スポーツ』『Number』『ラグビーマガジン』などで取材・執筆。WEBマガジン『RUGBYJapan365』スーパーバイザー。ラグビーは1985年から、ワールドカップは1991年大会から2019年大会まで8大会連続全期間を取材。ヤマハ発動機については創部間もない1990年から全国社会人大会、トップリーグ、リーグワンの静岡ブルーレヴズを通じて取材。ヤマハ発動機ジュビロのレジェンドを紹介した『奇跡のラグビーマン村田亙』『五郎丸歩・不動の魂』の著作がある。主な著書は他に『釜石の夢~被災地でワールドカップを~』『オールブラックスが強い理由』(講談社文庫)、『読むラグビー』(実業之日本社)、『エディー・ジョーンズの日本ラグビー改造戦記』(東邦出版)など。
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