高卒でNPBに育成枠で入団するのは正しい選択か? 人生に重要な「キャリアアップ」の視点

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【©西田泰輔】

NPBで2005年オフに導入され、今年20年目を迎えたのが育成選手制度だ。

ソフトバンクからメジャーリーグに羽ばたいた千賀滉大(メッツ)や侍ジャパンでも活躍する甲斐拓也(巨人)が台頭するなど一定の成果を出している一方、現状のあり方に異を唱える声も少なくない。

「スカウトに会うたび、『せめて4年の在籍期間を与えて、(大学の)通信制をつけてください』と言っています」

そう話したのが、広島県で「Mac’s Trainer Room」を運営する高島誠トレーナーだ。

東広島市の武田高校で強化メニューを担当する高島トレーナーは右腕投手の谷岡楓太を2019年育成2位でオリックスに送り出したが、3年間の在籍で戦力外通告を受けた。

「現役を終えた後も面倒を見てくれたらいいけど、なかなかそこまで抱えられる球団は限られています。面倒を見てくれたとしても、その子がやりたい仕事かどうかとなると難しい。大学で教員免許を取得していれば、『やっぱり指導者をやりたいな』とか、いろんなチャンスが出てきますよね。

そう考えると、森井翔太郎投手がアスレチックスと結んだような契約をすると、海外人気が一気に沸騰しますよね。アメリカの球団は大学の学費も出してくれるので。英語を話せるようになればキャリアアップにもつながるので、仮に野球でうまくいかなくてもメシを食べていけます」

【©西田泰輔】

野球で人生の可能性を開拓

上の世界を目指して熱心に練習する少年にとって、“野球=キャリアアップの手段”という意味合いは強い。

実際、高校進学を見据えて中学の硬式野球クラブを選ぶ選手や保護者もいる。優秀な高校生は、大学の授業料が免除されるケースもある。
なかには家庭の事情で東京の大学に通うための学費を捻出できず、授業料が免除になる地方大学で野球を続け、上の世界を目指す選手もいるという。

逆に言えば、そうした事実があるからこそ、選手自身や保護者側も「野球=キャリアアップの手段」と捉えたほうがいい。高島トレーナーはそう伝えている。

「進路の選択は生涯年収にも関わってきます。そこまで考えている保護者は少ないですが、大学の入学金まで免除になれば400〜500万円単位の話です。野球の実力があれば、行ける大学のレベルも変わってくる。大きな話なので、そういうことを狙っていくべきではと話しています」

人生において、お金やキャリア形成は極めて重要だ。

【©西田泰輔】

大学進学で膨らむ“チャンス”

では、高校生でNPBの育成ドラフトにかかるか、どうかという実力の選手の場合、果たして高卒でプロに行くべきだろうか。

あくまで個人の選択になるが、「育成ならプロに行かせたくない」という高校の監督も少なくないという。

アマチュアからプロまで担当する高島トレーナーは、もう少し先まで目を向けることが必要だと語る。

「例えば育成選手でNPBに進み、年俸約300万円で3年間過ごしたとします。その後、キャリアはどうなるかわかりません。
そのレベルの選手なら、大学に授業料免除で入れてもらえる可能性もある。500万円の免除をもらえたとして、教員免許を取得すれば、先々に食いっぱぐれることはなくなります。
しかも4年後に向けて頑張れば、ドラフト1位なら1億円の契約金をもらえます。でも高卒で育成で行けば、1億円をもらえるチャンスはありません」

どちらの道を選べば、自分は幸せになれる可能性は高いか。目先のことだけではなく、中長期的に考えることも重要だ。

外部トレーナーならではの“刺激”

高島トレーナーは自身のジムにいち早くラプソードを導入、ブラストを用いて打撃指導するなどテクノロジーの活用に積極的だが、じつはここにもキャリア形成という視点が含まれている。

「今はプレーヤーだけど、後にアナリストになる可能性があるかもしれません。もしテクノロジーに触れていなかったら、そういう選択肢がなくなると思うんですよね。
『ああ、なんか測ったことあったな』か、『ラプソードって面白かったな』となるのか。後者なら、『その分野でキャリアを築きたい』という気持ちが芽生える可能性があります。

どうしても高校生は職業の選択肢が狭くなるじゃないですか。だからこそ、アナリストというジャンルもあると知ってほしい。今、どんどん伸びてきていますしね。将来に向けて、可能性を膨らませておくことが大事だと思います」


高校まで野球に熱心に取り組んだ後、どういうキャリアを築いていくのか。選手たちの先を見据えて、高島トレーナーは少しでもプラスの影響を与えられればと考えている。

「野球を続けてくれれば、それはそれでいいし。続けなくても、例えば何かの話がきっかけで海外に行ってくれてもいい。若いからこそ、多様なキャリアの可能性に触れておくことが重要だと思います。

外部から関わる立場だからこそ、学校の枠を超えた新しい刺激や価値観を提供できると思うので」


野球人生は短い。だからこそ現役生活を充実させることは重要だが、同時に、野球を人生にどうつなげていくかという視点も大切になる。


(文:中島大輔、撮影:西田泰輔)
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著者プロフィール

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