このジャージーが紡いできたもの

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ボロボロの挑戦者が見せた決意とプライド

スピアーズは選手たちからの要望を受け、決勝戦で創部当時のジャージーをイメージした3rd.ジャージーを着用した。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

衝突と同時に、体中の神経に雷が落とされる。
四肢はまるで自分のものではないかのように重く、思うように動いてくれない。
肺は酸素を求め、激しく収縮と膨張を繰り返す。
これが単なる痛みか、それとも明らかな負傷か、ここまで戦ってきた者なら自らわかる。だが、それが例え深手の傷でも、プレーに戻らない理由にはならない。
1分だ、いや30秒だっていい。少し待てば痛みは落ち着く、またタックルできる、まだ走れる。
この舞台でこのジャージーを着て、プレーをやめるという選択肢はない。

前半の負傷から立ち上がり、テーピングでスパイクごと固定してプレーに戻った紙森選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

相手ボールに絡むマルコム・マークス選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

6月1日の国立競技場、今シーズンのフィナーレとなる決勝戦には、鮮やかなプレーと華やかなトライで主導権を握る昨シーズン王者・ブレイブルーパスと、倒れては芝生を握りしめながら立ち上がる挑戦者・スピアーズの姿があった。試合スコアは13対18の1トライ差。だが内容を振り返れば、点差以上に劣勢の80分だった。

今季最少失点のディフェンスも、得意のフォワード戦も、エリアやポゼッションといったスタッツ面でも、ほとんどの時間帯で相手が制した。
武器を奪われ、策も封じられ、まるで手足を縛られたかのようにもがく挑戦者だが、その目にはどんなに小さくなろうとも消せない炎があった。
試合でボールや陣地を奪われようと、自分たちには決して奪わられないものがある。それは勝利を諦めない決意、そしてこのチームで戦うというプライドだ。
どんなにやられてもひたむきなプレーを繰り返す。トライラインを幾度超えられようと、すんでのところで耐えしのぐ。
そうして乗り越えた後半33分。ついに残り5点まで相手を追い詰めた。だが時間は足りなかった。ノーサイドの笛とともに選手たちを濡らした雨は、「もう戦いは終わったよ」と優しく肩を叩くようだった。

試合終了直後のファウルア・マキシ キャプテン 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

苦しい展開が続くも僅差を保って逆転を狙う

スピアーズボールでキックオフした前半は、マキシ選手の強烈な先制タックルで始まった。

フォーリー選手が高いキックで相手キャプテンにボールをキャッチさせると、狙いすましたようなタイミングでマキシ選手がタックルを浴びせた。
「ファーストコリジョンでチームのスタンダードを示す、これをキャプテンとして試合前には言い続けました。フォーリーがいいところにキックしてくれました」
マキシ選手はその言葉通り、この試合最初の接点で相手選手を押し返す。その後にはさっそくゴール前まで迫るチャンスを作った。

しかしそれ以降はなかなか敵陣に入りこめない時間が続く。逆に相手は8分に先制トライを奪うとスピアーズは追う展開となり、17分と32分に2本のペナルティゴールで6点を追加するも、チャンスらしいチャンスを作れないまま6対8の2点差で前半を折り返した。

見事なバックセービングでピンチを救う藤原選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

後半はさらに苦しい展開に。開始早々に自陣に迫られるとトライラインを超えられる。ここをなんとかしのぐも、藤原選手やボタ選手が負傷。試合状況も体力的にも苦しくなった後半7分に、センタースクラムから相手10番に突破を許し7点を追加された。
さらに10分にはハラトア選手が反則により一時退場となり防戦一方の状況が続く。

20分過ぎにスクラムで反則を誘ったことをきっかけにやっと敵陣に入ると、一度は退けられたゴール前の機会をあきらめることなく攻め続け、後半30分過ぎにフォワードの連続攻撃からバックスに展開し、立川選手がトライを奪った。
このタイミングで、残りのリザーブ全員を投入し逆転を狙うスピアーズだったが、最後まで得点のチャンスを作ることができず13対18で敗戦となった。

試合中に負傷するも、この試合でスピアーズ唯一のトライを奪って活躍した立川選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

試合後に見せた選手たちの力強い眼差し

12月の開幕から21試合、開幕戦からこの決勝まで、心身をすり減らすような激戦に身を投じてきた。戦えば戦うほどチーム力は増し、同時に優勝への思いも強くなる。
だからこそ、この決勝でも勝ちたかった。試合直後は打ちひしがれ、肩を落とした。
それでもいつものチームらしさは変わらない。仲間を労い、勝者を称え、審判に敬意を表し、観客席に感謝を示す。
そしてなにより、選手たちの目には力があった。

試合後、相手チームの表彰式を見つめるオペティ選手とラピース選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

決勝で着用した3rd.ジャージーのモデルとなった創部当時は、勝つよりも負けることのほうが多かったという。未経験者も在籍しながらなんとか試合メンバーを集めて行った公式戦。スピアーズの創始者である和崎嘉彦さんが残した手記には、そうした選手たちのプレーに対して「誠実さと力強さがあり、チームの原動力となった」と記されている。

決勝戦後の選手たちが見せた、力強い眼差し。きっと47年前にこの白と黒のジャージーを着て戦ったOBたちも、同じような目で敗戦を噛み締めていたはずだ。

勝利を掴む者は、最後まで戦うことをやめなかった者だ。大切なことは、打ち負かされたかどうかではなく、立ち上がったかどうかだ。
このチームには47年前からこれまでずっと、敗戦してもなお目には炎が宿る。
この試合後に見せた力強い眼差しの果てには、真の勝利が写っている。

試合後には雨がピッチを濡らした 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

フォーリー選手はこの試合3本すべてのキックを成功させた 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

試合終盤に出場した江良選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

押川選手は今シーズンフルバックとして活躍した 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

後半出場しチームに勢いを与えたラピース選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】

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文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

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著者プロフィール

クボタスピアーズ船橋・東京ベイは、日本ラグビーの最高峰「ジャパンラグビーリーグワン」に所属するラグビーチームです。。1978年創部し1990年にクボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市の(株)クボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備しました。「Proud Billboard」のビジョンの元、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っています。またSDGsの推進や普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進しています。

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