真の意味での「ONE FAMILY」へ…清水エスパルスが国立競技場で示したかった“らしさ”

清水エスパルス
チーム・協会
 2025年5月3日、清水エスパルスはサッカーの聖地『国立競技場』でホームゲームを開催した。同じ“オリジナル10”の名門・名古屋グランパスとの試合は0-3の完敗で終わり、結果だけを見ると苦い記憶の残る1日となってしまったが、その裏では、クラブスローガンである「ONE FAMILY」を体現する一つの施策が行われていた。
 その施策とは、選手だけでなく、クラブで働く一人一人の笑顔が掲載された巨大ビジュアルを、選手がロッカールームから出てきて、入場前に整列するロビーに展示したこと。言葉にすると安っぽく聞こえてしまうが、このビジュアルには今のクラブの“らしさ”が込められている。

実際に掲出されたビジュアル 【©S-PULSE】

 このビジュアル制作が実現した背景には、いくつもの偶然があった。時はシーズン開幕前の鹿児島キャンプまで遡る。キャンプ開催期間、クラブは公式Instagramにて、選手一人一人が笑顔で映るバストアップの写真を、「ニックネーム」、「趣味」、「ファン・サポーターの皆様へひとこと」という紹介文とともに毎日投稿していた。撮影の風景を見て「FUNKY MONKEY BΛBY'SのCDジャケットみたいな写真だね」などと世間話をしたこともあったが、時は流れて『国立競技場』でのホームゲーム開催が近付くと、スペシャルゲストFUNKY MONKEY BΛBY'Sによる試合前のライブ開催が決定。当初は関連性がなかった写真が一つのきっかけで結びつき、このビジュアルを使って何かできないかという動きが盛んになった。
 その傍ら、クラブの広報を務める西部洋平氏は、クラブオフィシャルフォトグラファーとの話の中で、ある写真を目にしていた。それは、クラブに勤める社員の方々が、笑顔で映った写真。前述の選手写真の、社員バージョンといったところだ。現役時代に清水エスパルスのGKとして長らく活動し、昨年からは広報という立場でクラブを支える西部氏は、この写真を見て、とあるアイデアが閃いた。

「社員の方々が、とにかく良い表情をしていたんです。その当時、クラブ内ではファンモンさんが来てくださることもあって、『関連したクラブのビジュアルを作ろう』という企画が動いていました。当初、ビジュアルは選手の写真だけで作る予定だったのですが、社員の方々の素敵な笑顔もバッチリとハマっていた。完全にファンモンさんのCDジャケットみたいに仕上がりましたね」

【©S-PULSE】

 通常、入場前に選手の目に入る場所に掲載されるビジュアルは、今から戦いの場に出ていくことも相まって、凛々しい表情で闘争心を掻き立てるものが多い。だが、実際に作られた写真は“笑顔”が前面に押し出されたもの。この意図を、同企画の発起人である西部氏はこう語る。
「1番は、今のエスパルスの“クラブカラー”や “らしさ”を形として残したかったんです。中継に映るような場所に、表に出る選手だけではなく、クラブ社員の方々を掲載する意義はそこにあります。選手だけでなく、社員の方々も一緒に戦っていますから。今のエスパルスのありのままの雰囲気を最もわかりやすく示すには、笑顔の写真がいいと思っていました」

 現役時代の西部氏は、2004年から2010年まで清水エスパルスでプレーし、湘南ベルマーレ、川崎フロンターレを経て、2016年から2020年まで、再び清水エスパルスのゴールマウスを守った。計12年間もの期間、清水エスパルスに在籍したわけだが、1度目に在籍した頃と今とでは、クラブが纏う雰囲気が異なるという。

「正直、今とは全然違いますね。今ほど、選手と社員の距離は近くありませんでした。けれども、それは決して悪いことではなく、それが当時のエスパルスのカラーだったと思います」
「広報として戻ってきてから感じるのは、選手と社員の距離感は明らかに近くなっていました。選手と、社員のみなさん、強化部の方々など、良い意味でアットホームな雰囲気があります。社員の方とコミュニケーションを取る時、異なる一面を見せてくれる選手もいて、この距離感は昔になかったものだと感じています」

 今現在、選手はクラブハウスを出る時、少なくとも1回はオフィスを通ることとなるが、このオフィスを通る文化も、かつては存在しなかったもの。コミュニケーションが増えたことで、クラブに関わるすべての人々が一つの家族となっていった。このような日々を過ごしているからこそ、今のクラブには「ONE FAMILY」というスローガンがぴったりだ。同時に、西部氏には、広報の立場になって見えてきた真実がある。

「私が現役の時もそうでしたが、裏方の仕事って、なかなか選手たちには見えないんです。僕は広報を務めるようになってから、ホームゲームの時に、こんなにも多くの人々が動いてくれていることを実感しました」

 当然ではあるが、このクラブにいる人々は選手だけではない。クラブに関わるすべての人々が、それぞれの役割をまっとうすることで、清水エスパルスは構成されている。 清水エスパルスの“顔”として表に出るのが選手たちであることは紛れも無い事実だが、クラブスローガンの「ONE FAMILY」を胸に日々を過ごすのは、社員の方々も同じだ。だからこそ、笑顔の写真を掲載する上で、社員の方々からのネガティブな反応は皆無だった。
「『ONE FAMILY』と口にするのは簡単ですが、実際の反応はどうなのか心配でした。ただ、社員のみなさんはすごく協力的で、自分はそこにびっくりしました。みなさんも一緒に戦っている感覚を得られましたし、それが自分としてはすごく嬉しかったですね。完成したビジュアルを楽しみにされている方も多かったです」

 こうして名古屋グランパス戦の開催日、このクラブの“今”を示す施策の一つとして、『国立競技場』には、選手だけでなく社員全員が笑顔で映るビジュアルが掲げられた。制作過程を通しても、実際の制作物を通しても、スローガンである『ONE FAMILY』を体現することが叶ったのだ。

【©S-PULSE】

 だが、今回の施策を終えて、アイデアを提案した西部氏には一つの悔いがあるという。

「本来であれば、あのビジュアルにも、もっと多くの清水エスパルスに関わる方々を入れたかった」

育成組織で奮闘する選手たち、彼らを指導するスタッフの方々、具体例を挙げれば枚挙に暇がない。もちろん、清水エスパルスを支えるファン・サポーターも対象だ。西部氏に言わせれば、「こうした人々も含めて『ONE FAMILY』」なのだから。


 このビジュアルは、25日に控えた2025明治安田J1リーグ・第18節ヴィッセル神戸戦の西サイドスタンド側コンコースに改めて掲載される。このビジュアルを見て、何を感じるかは、十人十色だろう。西部氏は控え目に「『清水エスパルスって良いチームだな』と思っていただけるのかどうかはわかりませんが、今のクラブの雰囲気を感じていただくと同時に、自分もその一員であることを感じていただけたら嬉しいですね。僕の中では、これが今の清水エスパルスの“らしさ”なので」と言葉を紡いだ。

【©S-PULSE】

著者:フットボールライター=榊原拓海
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著者プロフィール

チーム名の「S-PULSE」は、「サッカー・清水・静岡」の頭文字Sと、サッカーを愛する県民、市民の胸の高鳴りとスピリットを表現するため、英語で「心臓の鼓動」を意味するPULSEを組み合わせて名付けられました。 1993年に「オリジナル10」の一つとしてJリーグ開幕を迎え、クラブの歴史がスタートしました。 こちらのサイトではチームや試合、イベントなど様々な情報をお届けいたします

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