【週刊グランドスラム304】バルセロナ五輪の四番打者・徳永耕治さんが指導する川崎西リトルシニア

チーム・協会

「厳しさがありつつも、年齢を問わずに兄弟のような雰囲気を作っていければ」と語る川崎西リトルシニアの徳永耕治監督。 【写真=横尾弘一】

 5月10日、神奈川県川崎市周辺の天気予報は雨のち曇り。前夜から降っていた雨が止み、正午に川崎市のENEOSとどろきグラウンドへ向かうと、この地に縁がある人物の姿が目に入ってきた。昼食を摂っていた手を止め、出迎えてくれたのは徳永耕治さんだ。
 徳永さんは、1987年に千葉工高から捕手として日本石油(現・ENEOS)へ入社。甲子園出場など目立つ実績がなかった不安を抱えており、「チームメイトであっても敵」と思いながら必死に練習を重ねたという。そうした取り組みが実を結び、2年目の1988年から四番に抜擢され、指名打者として出場した日本選手権では3本塁打を放つ。
 その後は内野手に転向し、天性の長打力を発揮し続ける。1991年の日本選手権では24打数12安打の打率.500、3本塁打10打点をマークして打撃賞を獲得。チームの初優勝に貢献した。
 そして、日本代表に選出され、1992年のバルセロナ五輪では四番ファーストで全9試合に先発出場。14安打、4本塁打、13打点といずれもチームトップの成績を上げ、銅メダルを手にした。
 しかし、1993年春、それまで好調だった打撃に異変を感じたという。
「春先に必ず感じてきた“打てる”という感覚を、その年はつかめなかった」
 オリンピックのような大舞台を経験すると、燃え尽き症候群に陥るアスリートが少なくない。「秋からオフにかけて練習をサボった」と振り返る徳永さんも、手応えを得られないままスタートを切ったからか、打撃の調子がなかなか上がらない。そんな状態でもチームは都市対抗出場を決めたが、スタメンには補強選手が名を連ね、徳永さんは控えに回った。試合に出られず、悔しかった。それでもチームメイトたちとともに、「仲間を助けることは、チームを助ける」と言い合いながら悔しさを抑え、優勝に辿り着いた。
 2年後の1995年には自身2度目となる都市対抗優勝を経験し、翌1996年限りで現役を引退。社会人での10年間を振り返り、「日本選手権では打席からボールがよく見えたけど、都市対抗の東京ドームでは見えなかった。ドーム球場とは、相性が悪かったのかな」と苦笑した。

川崎西リトルシニアの監督となって目指すのは

 現役引退から29年経った現在、徳永さんは2009年に設立された中学硬式の川崎西リトルシニアで監督を務めている。40代半ばから少年野球の指導に携わるようになり、ヘッドコーチを経て監督に就任したのは2024年1月。60名ほどの選手たち一人ひとりに、どんな言葉をかけたらいいかを常に考えているという。
 この日の練習で、徳永さんが選手たちに繰り返し言っていたのは、ボールの片づけだった。シートノック中にボールを転がしてカゴに戻そうとした選手には「転がしたら、どうなる?」と問いかけ、ブルペンで足元にボールが置かれたままミットを構えた捕手には、「足元を見て」と声をかける。選手自身はもちろん、仲間にも不注意なケガをさせず、練習に打ち込めばチームは強くなる。それはまさに、徳永さんが日石時代に肌で感じた「仲間を助けることは、チームを助ける」なのである。
「私がいた頃の日石のような、厳しさがありつつも、年齢を問わずに兄弟のような雰囲気を作っていければ」

川崎西リトルシニアは、多摩川河川敷を中心に、時にはENEOSグラウンドも借りて練習に励む。 【写真=横尾弘一】

 このように、徳永さんの指導やチーム作りは、社会人時代の経験がベースとなっている。
 人工芝のグラウンドを一生懸命に走る選手たちを見ながら、「かわいいですよね。彼らの存在が生きがいです」としみじみ語った徳永さん。練習終了時間が近づき、片づけを始めたスタッフから食べかけの昼食をどうするか聞かれ、「最後まで食べますよ」と答えた徳永さんはこう続けた。
「明日の試合に勝つために、験を担いでカツ丼にしたんだからね」
 笑みを浮かべた徳永さんは、ずっとそうやって勝負の世界で生きているのだ。
【取材・文=岩崎実幸】

【写真名鑑のカラー掲載は52チームです】

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著者プロフィール

1949年に設立した社会人野球を統轄する(公財)日本野球連盟の公式アカウントです。全国の企業、クラブチームが所属し、中学硬式や女子野球の団体も加盟しています。1993年から刊行している社会人野球オフィシャル・ガイド『グランドスラム』の編集部と連携し、都市対抗野球大会をはじめ、社会人野球の魅力や様々な情報を、毎週金曜日に更新する『週刊グランドスラム』などでお届けします。

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