【ドラフト候補へ】堺シュライクス・中圭佑 シーズン中の投手転向~苦悩と決断~
苦悩
当たれば飛んでいくパワーもある。
酒田南高校を卒業し、2024年に地元からほど近い堺に入団。昨年はシーズン前のソフトバンクホークスとの交流戦でいきなりヒットも放った。
大西宏明監督が「ポテンシャルお化け。新庄(剛志)さんみたいになる可能性がある。今どこかの二軍の外野手に混じっても遜色ないレベル」と称するほどの身体能力の持ち主だ。
「超」がつく堺のプロスペクト外野手。昨年の開幕戦で頭部に死球が当たったこともありしばらく結果が出なかったものの、44試合に出場し打率.224、25打点、19盗塁。この年ライトを守っていた脇屋紀之と強肩の右中間コンビを結成し、失点を幾度となく防いだ。
オープン戦最後の試合ではライト方向にホームランをかっ飛ばして見せた。
「今年は僕のこと注目してほしいです」と、自信ありげに私に声をかけてきた。
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しかし、開幕するとピタッとあたりが止まった。
4月8日のオリックスとの交流戦では外野への浅い打球を猛チャージして取るなどの好プレーを見せた。しかし、バットから快音がなかなか響かない。
4月19日の試合、兵庫ブレイバーズの久保康友投手に2三振を喫した。
試合後バットを見つめて中がポツリとこぼした。「なんでも打てる球に見えてしまって手を出してしまうんです」
しばらく無安打が続いた。ヒットが出たのは開幕から一か月がたった4月30日。今までの鬱憤を晴らすように3安打を固め打った。
打率を.273まで上げた。これから調子を上げていくのかと思ったところで思いもよらぬことが起こった。
投手転向
8時45分。球場前で堺の選手たちが円陣を組んでいる。その輪が解けた後、投手と野手に分かれて再び円陣が組まれる。ふと見ると野手の輪に中がいない。投手の方に目をやると、いる。
どういうことだ。怪我でもしたのかと思っていたら、畑康裕球団代表が種明かしをした。「明日付で投手登録に変更になります」
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酒田南高校で投手をしていたことは知っていた。堺に入団した時も、そのあとも二刀流を打診されていたが、野手をやりたいという希望もあり「投手・中圭佑」は実現していなかった。
その分野手として打ち込んでいる姿は見ていた。このタイミングでの転向。何があったのか。
「練習中遊びみたいな感じでブルペンで投げたら145キロが出て…」
聞けばアップもそこそこに、ボロボロのスパイクで投げていたらしい。それで145キロ。高校時代は140キロそこそこだったとのこと。投げていない間に伸びていた。
「それで3日前ぐらいに決断して今は投手の練習一本でやっています。二刀流?いや、それは監督からも「やるなら投手一本」って言われたんでやらないですね。調子が上がってきて野手で目立とうとしていたところだったので、めちゃくちゃ悩みました」
豪球の片鱗
後片付けをした後アップをはじめ、川合祐聖捕手を相手にキャッチボールを始めた。
「まっすぐメチャメチャいいですよ。多分今いる選手の中で一番球速いんじゃないですか?」
川合がボールを受けながら言う。「変化球はまあまあ…まだまだですけど」
立ち投げが始まる。すっぽ抜けてあさっての方向にボールが行くこともあるが、だんだんまとまってくる。
そしてキャッチャーを座らせる。
投手陣や首脳陣が集まってきた。川合のミットから「バシーン!」という音が鳴る。
投球はバラけていたが、川合が声を掛けに行くと、最後の3球、低めにものすごい音を立てながら川合の構えたところにボールが向かっていった。
大西監督がニコニコしながらその投球を見ている。
集まった選手から口々に「ナイスボール!」の掛け声が飛ぶ。
中が投球を振り返った。バラけていたと言ってもこの段階でまだ投手転向3日目なのだ。
しかし、堺のチーム編成上、外野手は3人のみ。そのうち石毛陽己は怪我が治りきっていないため、出場するとするとDHか代打しかない。
中以外となると、内野が本職の佐藤太紀や久保地一馬が外野に回らざるを得なくなる。この日もセンター徳永光希、ライト佐藤、レフト久保地という「ファイヤーフォーメーション(某投手談)」が組まれていた。
それでも「投手・中圭佑」の未来に賭ける。ただチームとして勝つより、個人がより大きくなれるほうへ。
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5月21日、中は紀三井寺球場の先発マウンドに立っていた。投手としてのプロ初出場だ。
1人目の打者・和歌山ウェイブスの檜谷積をポップフライに打ちとった。しかし、保田渉太にヒットを浴びると、続く殿田大和の打席で暴投。そのままヒットを浴びたところで降板。投じたのはすべて直球。最速は143キロ、平均球速は141キロ。直球のみのため徐々にタイミングを合わされてヒットを打たれたような印象だった。
ここから「投手・中圭佑」の大逆襲が始まるのか。楽しみに見ていたい。
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