【浦和レッズ】あの寒空の埼スタで渡邊凌磨が受け止めたメッセージ「力を合わせて闘っていきたいって、心の底から…」

浦和レッドダイヤモンズ
チーム・協会

【©URAWA REDS】

 浦和レッズが5連勝する契機になった明治安田J1リーグ第10節のFC町田ゼルビア戦を終えて、渡邊凌磨はこう語っていた。

「あらためてサッカーって11人でやるスポーツだということを再確認した試合でした」

 そう表現したのは、あのメッセージの答えに辿り着いたからで、自分自身に向けられていた。

 思い起こしたのは2024年12月8日——リーグ最終節だった。試合を終えた埼玉スタジアムでは、興梠慎三に続き、宇賀神友弥の引退セレモニーが行われていた。チームを牽引してきた偉大な先輩たちの言葉を聞き逃すまいと、渡邊は寒空の中で耳を傾けていた。


 家族への感謝と浦和レッズへの思いを告げた先輩は、スピーチを続けた。

「今ここにいる選手、特に名前を挙げさせていただくと、(渡邊)凌磨はすごく強い覚悟を持って浦和レッズに来たと思っています。そして関根(貴大)、原口(元気)の2人には、このクラブを強くするんだという、誰よりも強い覚悟と気持ちを持って、闘ってもらいたいと思っています」

宇賀神友弥 【©URAWA REDS】

 チームメートとして過ごした期間はわずか1年だったが、生え抜きである原口や関根とともに、自分の名前を挙げてくれたことが純粋にうれしかった。同時に、「あえて名前を出してくれた意味」について熟考した。

「単純にその年に一番試合に出ていた選手として名前を挙げてくれたのか、それとも1年間の行動や立ち居振る舞いを見てくれて言ってくれたのか。名前を挙げてくれた意味をずっと考えていました。

 そのどちらでもうれしいはうれしいけど、前者であれば、それほど自分に課すことは多くはないなと思いました。でも、後者であれば、チームの中心になっていくことを期待されている。自分にとって、その差や違いは大きいだけに、意味についてはかなり考えました」

 幸運にも引退した翌日、宇賀神に話を聞く機会に恵まれた筆者は、その意味を尋ねていた。

「この1年間、ほとんどの試合をスタンドから見ていましたけど、彼のプレーに、どれだけの覚悟を持ってこのクラブに来たかは表れていた。日ごろのトレーニングにおいても、自分に厳しく、周りにもレベルの高い要求をしていた。


 ただ、今はまだ、その熱量がひとり歩きしているときもあるように感じたので、彼には他の選手を巻き込みつつ、チーム全体を引き上げられるような選手になってほしいと思って、あえて名前を挙げさせてもらいました」

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 昨季、子どものころから憧れていた浦和レッズに加入した渡邊は、自分を証明するために走り、闘い、そして結果を追い求めた。リーグ全試合でピッチに立ち、記録した6得点5アシストは自身のJ1リーグにおけるキャリアハイだった。

「今季も結果を残し続ける気持ちに変わりはないけど、でも今季のほうが、よりいろいろなことを理解してチームに入っている分、見られ方が変わると思った。それは監督、コーチからの目はもちろん、チームメートからも。

 自分自身もそこを自覚するようになったし、キャンプのときから、自分自身も何か変わらなければいけないという意識は芽生えていました」

 その思いが、怪我から復帰した第7節のセレッソ大阪戦での同点ゴールにつながり、勝利を呼び込んだ第8節の清水エスパルス戦でのゴールにもつながった。

 トップ下にポジションを移してから重ねたリーグ5連勝の要因については、次のように語る。

「前線からのプレス。やっぱり守備だと思います。そこは今季を闘う浦和レッズの強みだと、自分は思っている。どうやって相手をはめて、どうやってカウンターを仕掛けるか。それを考え、実行できるだけの戦力が浦和レッズにはいるので、2〜3人でもカウンターを成立させることができる」

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 最前線を務める松尾佑介とともに、前線からプレスを掛けるスイッチャーとしてチームを導いている。

「相手が少しでも自信なさげにボールを持っていたら、多少はセオリーを崩してでも、ボールを奪いに行っています。それができるのも、自分が飛び出していったとしても、チームメートがカバーしてくれると信じてプレーできているから。

 自分がプレスを掛けにいって、パッと横や後ろを見たときには、(金子)拓郎や(松尾)佑介も続いてくれている。ときには自分が、ときには佑介がランニングでスイッチを入れていますけど、それがうまくいっていたことも大きかった」

 一方、攻撃では「個人的にミスをしないこと」を大前提にプレーしている。

「当たり前かもしれないですけど、ミスをしなければ、攻撃時も相手にボールを奪われることはない。必然的に、前線まで到達できる回数も多くなります。浦和レッズには、能力が高い選手たちが揃っているので、お互いにミスせずにプレーすることができれば、そのなかでコンビネーションも生まれる。そうなれば鬼に金棒みたいな感じで、どんどん攻撃を繰り出していける」

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 5連勝した試合で生まれたゴールは、カウンターやセットプレー、はたまた意外性のあるシュートが多かったが、渡邊が言うコンビネーションから相手を脅かしている回数も増えている。

 カウンターが対策されてきている今、その形から得点を重ねていくことで、チームは再び自信を取り戻していく。

「本当におっしゃるとおりで、お互いの距離感が良い試合では、周囲とのつながりでゴールまで持っていけるので、今までなかったような攻撃もたくさん増えている。もちろん、まだまだな部分もありますけど、時間が経てば経つほど、試合を重ねれば重ねるほど、そうした攻撃は増えていくと思うので、そこにチームとしての可能性を感じています。

 だって、浦和レッズはこれまでもひとりのFWに頼るのではなく、慎三さんがゴールを決めていたときも、李忠成さん、武藤雄樹さんの3人の連係からたくさんのゴールを決めていましたよね。たぶん、それが答えだと思います」

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 昨季とは異なり、話の主旨が個人ではなく、チームになっているところも明らかな変化だ。言葉の端々から感じられるのは、チームメートへの信頼であり、ピッチ内においてもチームメートを信じていることが伝わってくる。

 その変化はプレーだけでなく、行動や姿勢にも表れている。


 オフ明けの全体練習が終わり、試合に先発しなかった選手たちが居残りでトレーニングを続けていた。先発出場していた選手たちは、自身のケアや回復を優先して次から次にクラブハウスへと引き上げていった。

 しかし、渡邊はピッチの脇に座り込むと、ドリブルで勝負するチームメートを見守っていた。

「自分自身がリカバリーするのは大前提だし、居残りでトレーニングしているところを見ているのも、好きで見ている部分もありますけど、そこに自分がいることで、途中出場していた選手たちと会話して、コミュニケーションを図ることができる。それはチームメートだけでなく、コーチや監督とも。

 そういう一つひとつの積み重ねによって示しがつくと思うし、ワンチームで闘っている雰囲気につながるかなと。自分がチーム全体にポジティブな要素を与えることができるのではないかと考えたうえでの行動のひとつです」

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 ガンバ大阪戦で6試合ぶりに味わった敗戦は、個人的に精神的なダメージも大きく、心を揺さぶられた。

「次の日がオフで、ひとりで考える時間がたくさんあると、余計に堪えますよね」

「でも」と言葉は続いた。

「オフが明けて練習場に来て、みんなの顔を見たり、会話を聞いていたりすると、安心した自分がいたんです。みんなの表情を見ていたら、自分が想像しているよりも、このチームは逞しいんだなって思えたし、チームメートが自分を安心させてくれたのであれば、自分もそれをしてあげたいなって」


 さらに言葉を紡ぐ。

「サッカーって11人でやるスポーツだから、ひとりが良くても勝てるわけじゃない……ってことをあらためて気づいたのかもしれない。浦和レッズに加入した昨季は、客観的に自分が闘っているんだぞってことを見せるのも大事だったと思うけど、ウガさん(宇賀神)に言われたことが、今、身に染みて分かります」

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 宇賀神が名前を挙げた理由については、渡邊自身も直接、言われたことがあった。

「『ひとりで何とかしようとしているよね』って言われたことがあったんですけど、そのときは、褒め言葉なのか、アドバイスなのか、その真意を図りかねていたんです。でも、今なら分かります。あれは褒め言葉ではなく、愛のある叱咤だったと。

 お前がひとりで頑張っているのは分かるけど、それが必ずしもチームのためになっているとは限らない。そういうことをオブラートに包んで言ってくれていたんだなって」

 裏を返せば、自分次第でチームを変えられるということでもある。チームメートに助けられて、自分が再び前を向いて闘えているように、自分の行動や姿勢でチームを導くことができる。

「浦和レッズでプレーしている選手たちは本当にすごいってことだけは分かってほしいというか、伝えたいというか。他のチームも同じことを思っているかもしれないですけど、それがより浦和レッズは強いと思っていて。だから、その選手たちが噛み合ったときは、強さがより一層増す。


 結果が出たり、出なかったりすることもありますけど、それを教訓にして、新たなことにトライできると思うし、そういうチームにしていきたい。だって、浦和レッズには良い選手がたくさんいるんで。試合に出ている選手も、出場機会を得られていない選手も、ここ大原サッカー場で練習しているみんなに力がある。その力を合わせて闘っていきたいなって、心の底から思います」

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 チームメートから頼られ、そしてチームメートを頼ることで、チームの力を大きくしていく。1人ではなく11人、もっといえばチーム全員で勝利を目指していく——。

 あの日、寒空の埼玉スタジアムで先輩が送ったメッセージは、ちゃんと届いていた。

 まだまだ試行錯誤を重ねている途中であり、ときには迷うこともあるだろう。ただ、背番号13はしっかりと思いを受け取り、浦和レッズを牽引していく選手としての歩みを進めている。そして、リーグ5連勝から一転、2試合勝利から遠ざかっている今こそ、チームを引っ張っていく存在としての力は問われている。


(取材・文/原田大輔)
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著者プロフィール

1950年に中日本重工サッカー部として創部。1964年に三菱重工業サッカー部、1990年に三菱自動車工業サッカー部と名称を変え、1991年にJリーグ正会員に。浦和レッドダイヤモンズの名前で、1993年に開幕したJリーグに参戦した。チーム名はダイヤモンドが持つ最高の輝き、固い結束力をイメージし、クラブカラーのレッドと組み合わせたもの。2001年5月にホームタウンが「さいたま市」となったが、それまでの「浦和市」の名称をそのまま使用している。エンブレムには県花のサクラソウ、県サッカー発祥の象徴である鳳翔閣、菱形があしらわれている。

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