日本代表コラムシリーズ公開!

チーム・協会

将来のラグビー日本代表選手を育成する「JTS」プログラムと、U23日本代表豪州遠征を総括する

ラグビー日本代表を率いるエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)就任後、昨年の4月から始めた大学生を中心とした若手選手の育成を目的とした「JAPAN TALENT SQUAD(ジャパンタレントスコッド)プログラム2025」。今年は国内での6回の合宿を経て、4月になるとU23日本代表を編成してオーストラリア遠征も敢行。同プログラムは年間を通して実施されるもので、2月から4月まで行われた、同プログラム合宿&U23日本代表活動を振り返りたい。

◇「JTSは最も大事なプログラム」(ジョーンズHC)

JTSの意義や目的について話すジョーンズHC 【©JRFU】

昨年、日本代表の指揮官を再び任されたエディー・ジョーンズHC。オーストラリア出身の世界的名将が「おそらく日本代表が発足させた中でも最も大事なプログラムです」と語気を強めて、肝いりでスタートさせたのが「JTS」こと「JAPAN TALENT SQUAD(ジャパンタレントスコッド)」プログラムだ。

同プログラムはS&C(ストレングス&コンディショニング)および、栄養面における年間を通したサポートを行いつつ、大学の公式戦を除いたシーズンに実施される合宿で、ジョーンズHCや日本代表スタッフの指導を受けて、2027年に控えるワールドカップやその先の将来において、桜のジャージーを背負い世界の舞台で活躍するワールドクラスの選手育成を目指すものだ。

昨年の同プログラム合宿は、大学生の選手計15名が参加して4月に2日、6月に1日という短い日程で行った。今年のプログラムは、よりバージョンアップされて大学生年代(一部高校生も参加)を中心に、23歳以下の選手を対象に50名ほどの選手が選抜され、国内合宿や遠征も行いつつ、年間を通してサポートする。

◇代表指揮官が若手を直接指導する意図は?

日本代表を率いるジョーンズHCがなぜ、自らが先頭に立って、大学生を中心とした若手育成プログラムに力を入れるのか--。

その意図を本人にあらためて聞くと、「現在の世界のトップ4チームとそれ以外のチームとの差は広がっている。強豪が若手選手の育成を加速させているのは決して偶然ではない。高校日本代表は本当に強い一方で、大学ラグビーは良いコンペティションだが、エリート育成ではない。そこで私たちは19歳から22歳までの若い選手たちに、ハイパフォーマンスなトレーニングと試合を体験してもらうことを目指している。そしてJTSから日本代表でプレーできるだけの実力を持つ選手を、1人か2人輩出できれば、すぐにでも日本代表の選手層は厚くなる」と言葉に力を込めた。

1月にJTSの選手が発表され、2月から3月、国内で2泊3日の日程で計7回の合宿が行われた。本家の日本代表同様、早朝6時からコンタクトセッションを行い、ウェイトトレーニングはもちろん、FW、BKに分かれてのユニット練習、ジョーンズHCが直接指導する全体練習、さらに栄養面の指導もあれば、夜にもオンラインで日本代表選手を招いて座学を行うなど充実の内容だったという。 JTSに選ばれた約50名から毎回35名ほどが合宿に参加し、リーグワンチームとの2回の練習試合や、高校日本代表との合同練習も実施された。 ジョーンズHCら日本代表のコーチ陣が、主体的、積極的に関わることで、世界の舞台で活躍するポテンシャルを持つ大学生選手を育成しているというわけだ。

U23オーストラリア遠征直前、国内合宿でトレーニングするU23日本代表のFW陣 【©JRFU】

◇19年ぶりに敢行されたU23日本代表の海外遠征

さらに、JTSプログラムの合宿に参加した選手たちをジョーンズHCらが35名(FW20名、BK15名)選抜し、U23日本代表を編成して、4月2日から16日の日程でオーストラリア遠征も敢行した。U23日本代表が海外遠征を行ったのは実に19年ぶりのことだったという。主将はHO清水健伸(早稲田大3年)、副将はSO上ノ坊駿介(天理大4年)が指名された。大学3~4年が中心だったが、「年齢は気にしておらず、プレーの能力で見ている」と指揮官が話した通り、2年生になったばかりのHO田中京也(立命館大)、FL中森真翔(筑波大2年)、WTB田中健想(早稲田大)、白井瑛人(明治大)の4人も選出された。

あらためて若手選手が海外遠征する意味について尋ねると、ジョーンズHCは「若い選手たちにとって、初めてトップクラスのラグビーをプレーすることになるので価値が高い。大学のシステムの中では、彼らはビッグスターかもしれないが、それをワールドレベルで、同じポテンシャルを発揮できるかを知らないといけない。だから、この3試合は、選手たちをしっかり評価するのに良い試合だと思う。 今回のチームはU23日本代表です。(遠征で)個々の選手が、自分のチャンスをつかまないといけない。若い選手たちは、日本のどのチームも成し遂げたことのない経験をする機会を得ている。日本のシニアの代表チームは、まだオーストラリアに勝ったことがないので、彼らは新しい歴史を作るチャンスがある」と説明した。

U23日本代表ランドウィック戦前に選手たちを見つめるジョーンズHC 【©JRFU】

◇1勝2敗に終わったが歴史的白星を挙げた!  

U23日本代表は、飛行機に乗る日の午前中も練習を行って、オーストラリアへと旅立った。

まず1戦目は、オーストラリアンバーバリアンズとの一戦だった。前半から前に出るディフェンスが光り、FW、BK一体となったスピードのある「超速ラグビー」も披露。WTB白井の4トライを挙げる活躍もあり、43-31(前半31-7)で、オーストラリアの地で歴史的勝利を挙げた。 2戦目はU20オーストラリア代表との試合だった。前半、モールを起点にHO清水主将のハットトリックで19-14とリードして折り返した。ただ試合前の取り決めもあり、相手が後半からFW8人、BK1人の計9人を替えてきた影響は否めず、後半は相手の圧力とフィジカルに対して後手に回ってしまい26-54と敗戦した。 3戦目はジョーンズHCのホームクラブである、地元クラブのランドウィックと対戦。前半は相手にリードされる展開となったが、後半は一時逆転に成功した。勝つチャンスはおおいにあったがラストプレーで相手にトライを許し31-36(前半7-19)で敗戦して遠征を終えた。

オーストラリアンバーバリアンズ戦でハットトリックを達成したU23日本代表WTB白井 【©JRFU】

オープンサイドFLとして3戦連続出場した筑波大2年の中森 【©JRFU】

歴史的勝利を挙げた後、ジョーンズHCは「前半は特にジャパンらしいプレーができた。U23だけでなく、ジャパン全体でも言えることですが、試合の中でカオスなシチュエーションを作りたい。その中で相手よりもいかにはやく、自分たちの秩序を作ってアタックすることができるかをいつも優先して考えています。特に、ターンオーバーからと、キックリターンからのアタックに優先的に取り組んできました。2027年に迫るワールドカップに向けて、オーストラリアンバーバリアンズ戦の勝利は重要な意味を持ちます。私たちがこのツアーで期待しているのは、2027年のワールドカップへの代表候補となる、3~4人の選手を新たに発掘することです」と満足した表情で振り返った。

豪州の地で歴史的勝利を挙げたU23日本代表 【©JRFU】

◇U23日本代表の中から10名がJAPAN XVに招集された!

オーストラリア遠征を終えて、35名の選手は各大学へと戻り、春シーズンを戦っている。5月15日に発表された40名の「JAPAN XV」(ジャパン・フィフティーン)の中には、U23日本代表選手10名も選出された。リーグワンの選手だけでなく、U23日本代表選手を含んだ「JAPAN XV」は5月に大分で、ニュージーランド学生代表(NZU)とホンコン・チャイナ代表と強化試合を行う。 NZUはニュージーランドの現役の大学生や近年卒業して大学のクラブチームの選手で編成されており、1908年にニュージーランドで設立され世界の強豪チームと対戦を重ねてきた伝統があり、日本との対戦の歴史は1936年に遡る。

一昨年はNZUが来日し、U20日本代表が52-46で競り勝ち、昨年はU20日本代表候補が現地で戦い、31-43、38-66で敗れた。そして今年は再び、NZUが来日することになった。 今年のNZUの来日シリーズは3試合行われる。まずは5月16日(金)にU20日本代表がNZUと対戦(@大分スポーツ公園クラサスサッカー・ラグビー場Aコート)。20日(火)の2戦目はJAPAN XVが対戦(@別府市営実相寺多目的グラウンド)し、24日(土)の3戦目もJAPAN XVが対戦(大分スポーツ公園クラサスサッカー・ラグビー場Aコート)する。 31日(土)、JAPAN XVは大分・豊後企画フィールドで、24日から大分市で合宿をしているホンコン・チャイナ代表とも試合を行う。

昨年、JTSを経由して日本代表に選ばれた矢崎(早稲田大3年)※写真は一昨年のNZU戦 【©JRFU】

◇JAPAN XVで活躍し、日本代表に昇格する選手は現れるか?

豪州遠征3試合で大きな経験を得た若き日本代表の選手たち 【©JRFU】

JTSプログラムは通年を通して行っていくもので、U23日本代表にも選ばれていた大塚 壮二郎、中森 真翔、李 智寿といった若き選手たちは、5月もJAPAN XVの一員として、再び、ジョーンズHCの下、海外勢と対戦することになった。

桜のジャージーを目指す若きタレントたちは、NZU戦やホンコン・チャイナ代表戦で、オーストラリア遠征で個々に出た課題をしっかり修正し、JAPAN XVの一員としてしっかりと白星に貢献したい。 またU23日本代表の選手たちは、オーストラリア遠征ではジョーンズHCが掲げる「超速ラグビー」に慣れてきて高速アタックを披露した場面も多かったものの、疲れてきたときのアタックの精度は課題であり、JAPAN XVの一員として戦っても、特に後半終盤に正確性、実行力などを見せたいところだ。

個々の選手を見ると、2月からのJTSプログラムや合宿、遠征で、選手たちは平均3kgほど体重が増えて、FWの中には8kgほど増えた選手もいるという。ジョーンズHCの指導やミーティングで、名将の本気の熱意に触れて、「ワールドクラスの選手になる」「2027年のワールドカップに出たい!」とメンタルチェンジし、ワールドクラスを目指す覚悟を決めた若手選手も多いという。

5月に大分で行われるNZU戦やホンコン・チャイナ代表戦で、再びジョーンズHCにアピールし、昨年のFB矢崎由高(早稲田大3年)のように、今後控える日本代表合宿に呼ばれる選手が現れるか、大いに注目してほしい。
(文・斉藤健仁)
<JAPAN XV 試合予定(5月)>

■5月20日(火)16:00キックオフ
JAPAN XV vs ニュージーランド学生代表(NZU) 
会場:別府市営実相寺多目的グラウンド(別府市)
※配信: 15:50~ J SPORTSオンデマンド(LIVE配信)

■5月24日(土)14:00キックオフ 
JAPAN XV vs ニュージーランド学生代表(NZU) 
会場:大分スポーツ公園 クラサスサッカー・ラグビー場Aコート(大分市)
※放送/配信:
5月24日(土)13:50~ J SPORTSオンデマンド(LIVE配信)
5月26日(月)23:00~ J SPORTS 1(録画放送)

■5月31日(土)15:00キックオフ 
JAPAN XV vsホンコン・チャイナ代表 
会場:豊後企画フィールド(大分市)
※放送/配信:
5月31日(土)14:50~ J SPORTSオンデマンド(LIVE配信)
6月3日 (火)21:00~ J SPORTS 1(録画放送)

上記4試合とも現地では無料で試合をご観戦頂けます。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

(公財)日本ラグビーフットボール協会は、日本におけるラグビー競技の普及振興に関する事業を行い、その健全なる発達を図るとともに国民体力の向上と明朗なスポーツマンシップの涵養につとめ、もって社会文化の向上発展に寄与することを目的とした競技団体です。 1926年に日本ラグビー蹴球協会として設立されて以降、ラグビー競技の普及発展のための国内唯一の統括団体として活動を続け、2013年に公益財団に移行しました。詳細はこちら(https://www.rugby-japan.jp/jrfu)

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント