【NHKマイルC】陣営が明かしたパンジャタワー距離克服の戦略、松山騎手改めて実感「すごい馬だな」
パンジャタワーは今回の勝利でJRA通算5戦3勝、重賞は昨年のGII京王杯2歳ステークスに続き2勝目。騎乗した松山騎手、管理する橋口調教師ともにNHKマイルカップ初勝利となった。
なお、アタマ差の2着には武豊騎手騎乗の3番人気マジックサンズ(牡3=栗東・須貝尚介厩舎)、さらにハナ差の3着にはマイケル・ディー騎手騎乗の12番人気チェルビアット(牝3=栗東・高野友和厩舎)が入り、3連単は150万5950円の高配当。1番人気に支持された川田将雅騎手騎乗のアドマイヤズーム(牡3=栗東・友道康夫厩舎)は落鉄の影響で直線失速し14着に敗れた。
距離克服へ、調教で加えた変化の一手
「正直、朝日杯の時も出来はすごく良いと感じていたので、どうして負けたのか、いまいちピンと来ていなかったんです。勝負になると思っていたので、原因の一つは距離だったのかなと色々なことを考えました。でも、今日はこれだけ強い競馬をしてくれて、改めてすごい馬だなと思いました」
東京1400m芝のGII京王杯2歳Sを勝って挑んだ昨年12月のマイルGI朝日杯FSがまさかの12着大敗。ならばと、再び距離を短くして臨んだ今年の始動戦、前走の中京1400m芝GIIIファルコンステークスは勝てなかったとはいえ0秒1差の4着と上々の結果だった。1200m芝で勝ち上がったデビュー戦を含めてのこれまでの戦績、そして父がスプリンターズステークスの勝ち馬タワーオブロンドンという血統を見れば、やはりマイルは長いと感じてしまうのは当然だろう。その認識は厩舎サイドにもあった。橋口調教師が語る。
「すごく筋肉質な体をしていて、追い切りも動き過ぎるくらい動く。完全にスプリンターの動きという印象なんです。朝日杯は通ったコースの差はあったかなと思いましたが、一番の敗因は距離かなとも思いましたので、今回も心配はありました」
もちろん、何もしないでGI当日を迎えたわけではない。前走後から今日に至るまで距離を克服するための手は打ってきた。
「できるだけ距離を持たせるような調教をしてきました。具体的には馬場での追い切りを増やして、通常ならレース当週は坂路で追い切りことが多いのですが、今回は最終追い切りもCWコース。また普段からもコースで長めに乗るようにしていました」
ポジションよりも馬のリズムを大事に
「あまりポジション、ポジションと意識して最後におつりがなくなるよりは、馬のリズムを重視して行こうと、橋口先生ともレース前に話していました」
その意識の表れが、道中はちょうど中団、外よりのポジション。スタート直後は先頭争いにも加わりそうなくらいの好ダッシュだったが、ここで周囲に合わせて好位を取りに行かず、事前のプラン通りにパンジャタワーのリズムに合わせる形でスッと引いた。ここが一つの勝負の分かれ道となった。というのも、前半600mの通過が33秒4、800mが44秒6という先行馬総崩れのハイペース。もし、ポジション取りの方に重きを置いていたら、この日の勝利はなかったかもしれない。
また、位置取りそのものは特に気にしていなかったとのことだが、外めの6枠発進から終始外を回り、最後の直線は大外から豪快に差す――これは京王杯2歳Sを勝った時と同じ形であり、「京王杯がすごくいい脚で差し切ってくれたので、のびのびと走らせてあげたいなとは思っていました」と、松山騎手はイメージを持っていたようだ。その“最高の形”が大一番で再びズバリと決まった。
「最後は無我夢中。どっちが勝ったか分からなかった」
「最後は抜け出すのが早かった分もあったかなと思いますが、内から詰められていたのでもう必死でした。自分でもどっちが勝ったか分からないくらい無我夢中でしたので、(勝ったと分かった時は)すごく嬉しかったですね」
単にスピードで押し切っただけでも、展開に恵まれただけでもない。大外から先行勢を一気に飲み込み、返す刀で後続を封じる。この日のレース内容を見ると、本当に朝日杯FSの大敗は何だったのかと思ってしまうほど、パンジャタワーの見事なまでのマイル走破だった。
また、松山騎手にとってはこれが2021年にテーオーケインズでチャンピオンズカップを勝って以来、4年ぶりのJRA・GI制覇。ただ、本人としては橋口調教師とともにGIを勝てたことが何より嬉しいと語る。というのも、橋口調教師は池添兼雄厩舎で調教助手としてのキャリアを積んでおり、松山騎手は同じ時期に同厩舎から騎手デビューを果たしている。いわば“兄弟弟子”の間柄でつかみ取ったビッグタイトルだった。
父子制覇の橋口調教師「どの馬にもスピードは負けない」
パンジャタワーに関してはデビュー前の調教の動きから「かなりの素質を見込んでいた」という。ただ、前述通りに距離の不安から「将来はスプリンターとして大成させようと思っていた」。それだけに今後の選択肢、そして可能性が広がったのは嬉しい悩みともなるだろう。一つ、トレーナー、ジョッキーともに共通している見解は“まだまだこれからの馬”ということだ。
「一番いいところはスピード。どの馬にも負けないくらいのスピードを持った馬だと思います。でも、まだトモ(後肢)の緩い馬で、完成している感じはしないですね」(橋口調教師)
「まだまだ成長してくれると思いますし、まず乗り味が素晴らしいものを持っています。それに最後まで諦めずに一生懸命走ってくれる馬。距離は千二から千六まで対応できると思っているので、今後は幅広くいい条件があればなと思います」(松山騎手)
この日は9番人気、伏兵の1頭としての勝利だったが、秋は3歳を代表する1頭として古馬に挑むことになる。松山騎手が語る通りスプリントからマイルまで対応可能となれば、オールマイティーな短距離王者としてのこれからが楽しみだ。(取材・文:森永淳洋)
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