米シンシナティ大・サイモンズ准教授が大阪体育大学拠点に日本のプロスポーツビジネスを調査 徳山教授と対談
1カ月のサバティカル(研究休暇)として、日本のプロスポーツを研究するため、4月から大阪体育大学に滞在した。甲子園球場での阪神タイガース、京セラドームでのオリックスバファローズの試合や、Jリーグ2試合、プロバスケットボールの大阪エベッサ、花園ラグビー場でのラグビー・リーグワン、大相撲の枚方巡業などを精力的に視察した。また、大学ではスポーツマネジメント実践論で学生に講義し、教職員を招いた座談会では、約200人のフルタイム職員で運営されるシンシナティ大学スポーツ局の業務などについて説明した。
徳山教授とはルイビル大学博士課程でともに学んだ。指導教員も同じで研究に関して議論したことも多く、サイモンズ准教授が博士論文に関して、民間企業での勤務経験を有する徳山教授に助言を求めたこともあったという。
徳山:サイモンズ先生のご専門は。
サイモンズ:徳山教授とほぼ同じ領域です。スポーツマーケティングやスポーツガバナンス、大学スポーツマネジメントなどの授業を担当し、スポーツファンのセグメンテーション、最近は家族としてのファン行動に着目した研究に取り組んでいます。家族として一括りにするのではなく、子どもの人数や性別、年齢で特性は変わってくるのではないか。家族で一番年下の子どもの年齢次第で、観戦のモチベーションやファミリーとしての楽しみ方が大きく異なってくるのではないかと考えています。
徳山:サイモンズ先生が「家族を一括りにしたセグメントでは効果的・効率的なマーケティングが実施できないのでは」という問いを、スポーツチームのマーケティング担当者との意見交換で得て、研究のデザインに取り掛かりました。家族構成などを細かく分類したマーケティング研究は限定的でした。確かに、こどもの有無や子供の性別だけは不十分で、一番下のこどもの年齢や小学生以下の子供の人数等、考慮すべきことは存在し、「家族観戦」という変数だけでは説明できないので、サイモンズ先生は面白い研究をされているという認識です。日本の家族観戦ではどういった結果がでるか楽しみです。
サイモンズ:スポーツ文化が生活に溶け込んでいることが大きな要因だと思います。良いスポーツサービスには、費用対効果の視点から相応の費用がかかるのも当たり前です。子供スポーツもそうですし、レクリエーションスポーツもそうです。日本のスポーツ文化は世界的にもハイレベルかと思いますが、ビジネスとしてのスポーツは、会社が球団を所有しているためチームやリーグの価値を高めることがファーストミッションであるという意識が十分ではなく、道半ばという印象を受けます。また、アメリカのスポーツ産業を支える人材が豊富に大学より輩出されるシステムも重要な機能と考えています。
徳山:スポーツ庁による第3期スポーツ基本計画では「スポーツの成長産業化」を掲げており、今後さらにスポーツにビジネス要素が入ってくることが容易に想定できます。産業としてのスポーツが成長の軌道に乗れるかどうか、2つのキーポイントがあると思います。一つは、スポーツ消費者のマインドチェンジ。「質の高いスポーツサービスへはお金を出す」というアメリカのような価値が根付くか。もう一つは、質の高いスポーツサービスをマネジメントできる高い資質を持った人材が十分いるかです。これらが担保できれば、日本のスポーツ産業はまだまだ成長するとみています。
サイモンズ:全米で約400の大学が、スポーツマネジメント専攻プログラムを提供しています。修士課程も230の大学院がプログラムを提供しています。主専攻に加えてビジネス学部の学生が、副専攻でスポーツマネジメントを選択する例も少なくありません。シンシナティ大学のスポーツマネジメントプログラムには、学部生420名、大学院生115名が在籍しています。11名のスポーツマネジメント教員で質の高い教育を提供しています。多くの学生が様々なスポーツ分野に就職し、キャリアを積む中でどんどん能力をつけ、より高いポジションへのキャリアアップを目指していきます。スポーツマネジメント・マーケティング能力をさらに高めるため、修士課程に戻ってくる学生も多くいます。これらの学生がスポーツ産業の成長を支えています。
徳山:「卵が先か、鶏が先か」の議論は不毛ですが、事実として、アメリカにおいてはスポーツに関連する仕事がたくさんあることは羨ましい限りです。日本においてはスポーツマネジメントに興味を持ち一生懸命学んだ学生が、スポーツ業界のポジションが少ないため同分野への就職がかなわず、スポーツ以外の民間企業へ就職するケースが多い状況です。能力の高い学生も多いので、本当にもったいないという思いをいつも持ちます。また、スポーツ業界でも終身雇用制度がいまだに根強いため、人材の流動が非常に少ないとも感じています。本学のスポーツマネジメントコース所属の学部生は130名程度で、6名の教員で教育を提供しています。
徳山:ありがとうございます。本学のスポーツマネジメントコースは教員が6人も在籍していて、スポーツマネジメントに直結する専門科目が設定されているなど、西日本では最も充実した体制だと自負しています。本学の役割を果たすため、我が国のスポーツ産業界に大学及び大学院から能力の高い人材を輩出すべく、質の高い教育の提供に今後も努めたいと思います。
(大坪康巳)
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