北海道の独立リーグHFL、道外から野球選手が続々と移住!過疎地を盛り上げる取組とは
地域から愛される独立リーグを目指して
美唄市、石狩市、士別市、別海町にホームを持つ4球団が所属する北海道フロンティアリーグも、人口が2万人を下回る(石狩市を除く)、小さな町のプロ野球チームで構成されている。
そんな北海道フロンティアリーグが設立されたのは2022年。割と最近だがどのような経緯で立ち上がったのだろうか? 立ち上げに関わった3球団のうち、美唄ブラックダイヤモンズの代表で、HFLの代表理事も務める荘司光哉さんはこう語る。
「美唄、石狩、士別の3球団は、元々、北海道ベースボールリーグ(HBL)という別のプロ野球独立リーグに所属していたのですが、日本独立リーグ野球機構(IPBL)への加盟時期について、『体制が整ってからIPBLに加盟したい』という方針の北海道ベースボールリーグの運営側と、『2022年には必ずIPBLに加盟したい』という3球団側とで意見が異なったために、新たにリーグを立ち上げることになりました。IPBLに加盟しなければ、選手たちが引退後などに学生野球の指導をするための資格を得ることができなくなってしまいます。過疎地域の働き手にもなってくれる選手たちの将来のためにも、一刻も早くIPBLに加盟することが運営する我々側の使命だと思いました」
こうしてスタートしたHFLの試合開催時期は5月~9月。昨シーズンまでは美唄ブラックダイヤモンズ、石狩レッドフェニックス、KAMIKAWA ・士別サムライブレイズの3チームがホーム&アウェイで52試合を実施したが、それぞれの球団のホームだけでなく、札幌市や旭川市など周辺の大都市でも開催し、認知向上を狙っているそうだ。2024年10月に、道東の別海町にホームを置く別海パイロットスピリッツが加わったことで、2025年シーズン(5月4日開幕)はさらなる盛り上がりが期待されている。
なぜ道外から選手が? 球団側の努力とは
スカウトとリーグトライアウトの大きく2つの入り口から選手たちは北海道にやってくるのだという。
石狩レッドフェニックスの老田よし枝代表は「多くの選手は北海道に来たいといって来るのではなく、野球を続ける場所を探し、それが北海道だったという方々です。ただ、住んでみると『思っていたよりも良かった』という声はよく聞きますね」と話す。他の球団も同様で、ご飯のおいしさや地元との繋がりができていく中で、移住が多数出てくるほどに北海道を好きになる選手は多いという。
その背景には、リーグが掲げる「移住・定住の促進」や「まちのにぎわいの創出」、「子どもたちに野球の魅力を伝える」などといったビジョンがある。それぞれの球団はこれらのビジョンに従い、ホームを置く町に貢献。選手たちは地元の企業や農家で就労し、住民票も移して町の一員になる。選手が地域に定住しやすい環境を作るための球団側の努力があるのだ。
そうした理由から、野球を中心とした働き方を受け入れてもらえる職場探しを全球団で行っている。
老田代表(石狩)は「おかげさまで、地元の企業さんや農家さんからは多くの問い合わせをいただいていて、我々球団側が受け入れ先を選ぶ状態です」と話す。他の球団代表もそう語るように、過疎地にとって若年層で体力のある選手のニーズは大きく、需要が上回るような状況になっているという。
ただ、試合は基本的に土日に行われるため、選手たちはそれ以外の曜日で休みや練習時間を取りつつ働くという点で普通の従業員とは異なる。
「こうした野球を中心としたイレギュラーな働き方を受け入れ、彼らが週末の試合に向けてがんばる姿を職場全体で理解してくれる場所でないとなかなか難しいですね。我々と話す企業などの代表だけでなく、現場の方々も含めてそうあることが理想です」(石狩・老田代表)
2:地域に貢献し、地域から応援される球団を目指す
もちろん地元地域からも、貢献活動をした選手たちに支援がある。
稲作が盛んな美唄市では、応援してくれる地元の農家がブラックダイヤモンズに安く米を提供してくれるのだという。荘司代表は「選手たちはたくさん食べますが、これだけ米が高騰している中なので、金銭面でもありがたいですね」と感謝する。
今シーズンからリーグに参入する別海パイロットスピリッツの藤本達也代表も「別海は生乳生産量が日本一など農業が盛んですから、食料の面で選手たちにサポートしてもらえるとありがたいですね」と期待した。
野球を通し、子どもたちが離れたくなくなる街づくりを
その一環として、育成アカデミーも設立。周辺の和寒町や下川町も含め、およそ50人の子どもたちが所属している。周辺自治体で一番遠い子は片道30km離れているが、球団で送迎をサポートするなど、距離が原因でスポーツができなくなるといったことも防いでいるという。
また、アカデミー生を対象に野球後進国の子どもにオンラインで野球を教える催しを企画しているほか、地域の小学校、中学校を訪問して外国人選手と野球をしてもらう機会も設けている。プレイ中は英語でしゃべり、日常的な英会話を学んでもらう機会を作っているのだという。
菅原代表は「次世代を担う子どもたちに野球を通して、スポーツ、カルチャーなどいろいろな面でキャリアづくりを豊かにする手伝いをしたいと考えています。外から定住してもらうことも大事ですが、ここにいる子どもたちがサムライブレイズに入り、地元に就職していくという流れを作りたいです。そして、道内出身の選手の割合を増やしていきたいですね」と意気込みを述べた。
全部で14チーム。全道を巻き込むリーグにしたい
「振興局というのは一つのまとまりになります。人口が減る中なので、市町村という小さな単位ではなく、もう少し大きな振興局というまとまりでチームを支えたい」(荘司代表)
荘司氏は最終的に、HFLを全14の総合振興局に一球団ずつ作りたいと意欲を燃やす。
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本州からはなかなか想像のつかない北海道での暮らし。そのスケール感は行ってみなければ分からないものが多いだろう。多くの選手を道外から受け入れているHFLは、新しい生活をしながら夢を追い続ける選手がなじめるように環境づくりに力を入れている。選手が夢を追い、その力を地域にも還元してもらう。その間を取り持つHFLの活動には大きな意味があるだろう。野球を通し、北海道の人口減少にどれくらいの影響を与えるのか、チームが14に増え、道内全体で取り組みが始まるのが待ち遠しい。
text by Taro Nashida(Parasapo Lab)
写真提供:北海道フロンティアリーグ
※本記事はパラサポWEBに2025年4月に公開されたものです。
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