打撃投手から現役復帰~久保拓眞投手の現在地~
打撃投手からの転身
1年間打撃投手を務めてから現役復帰する例はないわけではない。が、数少ない。そして独立リーグからまたNPBへ。そんなチャレンジに挑もうとしている。
きっかけは2024年の3月。食事をしていた時に母から「また野球をしているところを見たい」と言われたことだった。
どうしようか。復帰するならどんな道筋があるのか。相談したのは吉田亘輝。大学の同級生で、堺シュライクスの初代エース。MVPにも輝いたことがある投手だ。
「明るくていいチームだよ」
話を聞くうちに、決意が固まった。世話になるならこのチームだ。
夏から現役復帰への動きを始めた。そして堺に連絡を入れた。
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2月。グラウンドには練習に励む久保がいた。
外野のポール間をひたすら走る。そしてブルペンで投げ込み。
投球に合わせて大西宏明監督がバットを構え、球筋を見ていた。
と大西監督。特にスライダーの曲がり幅がすごい。
この日初めて屋外のブルペンで投げた久保。この日の球速は130キロ台前半。他の選手や、練習を見に来たファンも見守る中、投球を終えた。
「1年のブランクを取り戻したいですね」
打撃投手。打たせるためのボールとは全く違う。打者に向かうための投球を追い求めた。
オープン戦になると調子を上げてきた。登板イニングが長くなっていくごとに三振を量産。防御率0.00を記録。
徐々に戦う準備ができていた。
開幕
大きく振りかぶるフォーム。
そこから大きく曲がるスライダーとシュート、そしてストレートで空振りや凡打の山を築いていく。
3日後に控えていたオリックス・バファローズ戦でも先発が決まっていたため、3回ぐらいで降板するはずが、3回が終わった時点でわずか34球しか投げていなかった。
「おかわり」ということで追加で2回を投げた。結局5回を投げて要した球数は58。打たれたヒットは2本、4奪三振、無失点。完璧な内容であった。
思ったように投げられている。手ごたえのようなものを掴みつつあった。
そしてオリックスとの試合の日。さわかみ関西独立リーグとして初のNPBチームとの交流戦だった。
昨年はオリックスで打撃投手を務めていた久保。調整の合間に「元チームメイト」にも挨拶するなど慌ただしい時間を過ごしていた。
「去年は(オリックスのメンバーに)『打たせる』のが仕事だったけど、今回はしっかり抑えることが仕事なので、しっかりとゼロで抑えられるように投げていきたいです」
そうしてマウンドに上がった久保。4回にエラーがらみで1点を失うも、5回1安打1失点と上々の結果を見せた。
「あの日はコントロールがしっかりできていて、左バッターに対してインコースのシュートで攻めることができました」
5回1失点。15個のアウトのうち10個をゴロアウトで仕留めた。
1失点もエラーから。「自責がつかなかったにしても先制点を与えてしまったので悔しい」と振り返った。
好調の要因
堺・山本翔也コーチは「完璧でしょ」と言いつつ次のように話した。
「コントロールがいいというのはあるけれど、NPBでやっていたこともあり、バッターを見て投げられること。一球一球ベストボールを投げようとするのではなく、打者と駆け引きをして投げられること。高卒1年目とか育成の選手に打たれるレベルじゃないとは思っていましたから」
19日の兵庫戦。1回にタイムリーを打たれたが、その後は飄々と抑え続け、終わってみれば9回9奪三振の完投勝利を飾った。
「最終的に勝てたんでよかったんですけど、1回に先頭バッターに死球を与えて、そのあと盗塁、タイムリーと相手にとって一番理想的な点の取られ方をしてしまった」
1回から気温が25度に達し、暑かった。顔を真っ赤にして投げていた。8回には脚がつった。それでも変わらず投げ続けた。意地だった。
「最初から行けるところまで行こうと思ってたんですけど、兵庫の久保さん(久保康友)の方も粘り強く投げていたので、先にマウンドは降りたくないと思っていました」
相手の久保も完投。両者テンポよく完投したこの試合、2時間13分と超時短で幕を閉じた。
山本コーチは「ストレート」をポイントに挙げた。
「暖かくなって145キロとかが出始めたら可能性もあるかもしれないですね」
実はもうかなり近いところまできている。12日の姫路イーグレッターズ戦では143キロが、19日の兵庫戦では144キロがそれぞれ出ていた。
本人は「スピードガン競争じゃないのでバッターに集中してその結果(スピードが)出たらいい」と特段意識はしていない。リーグ戦では三振を量産しているが、本来打たせて取るタイプなのだ。
「投げていても周りを信頼して打たせて取ることもできていますしこの2週間でこのチームのことが好きになりました」
シーズンを通して在籍することは最初から想定していない。NPBの舞台に舞い戻るため、久保は堺で腕を振っている。
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