大体大先生リレーコラム 「宗教と神の関係:意外と知らない基本を学ぶ」 大阪体育大学・長尾佳代子教授(宗教学)
宗教にまつわる学生の誤解
宗教が違っていても共通する神を信じる場合がある
イエス・キリストは神ではない
お釈迦様は神ではない
仏教経典に登場する神々はバラモン教やヒンドゥー教の神々です。経典が中国語に翻訳された時、これらの神々は「天」をつけて称されました。梵天や帝釈天、弁財天や大黒天などの神々は、仏教経典にも登場し、仏教の守護神としての役割を果たしています。
「お釈迦様」とは何者なのか
仏教では一つの世界には一人の仏しかいないとされます。釈迦仏は私たちが住む娑婆(サハー)世界の仏です。娑婆世界では、生き物は輪廻転生(りんねてんしょう)します。そして、苦しみから逃れることのできない輪廻の仕組みから解脱(げだつ)して仏になることを目指します。では、どのような方法で輪廻転生から解脱できるのでしょうか。輪廻の主体だと考えられている「我(アートマン)」には実体がなく、輪廻転生の世界は実は空っぽです。この「一切皆空(いっさいかいくう)」の真理を完璧に理解できれば輪廻から解脱できます。これが「悟りをひらく=仏になる」ということです。でもこれは実はかなり難しく、普通の人間はたとえ何度も生まれ変わりながら修行しても達成できません。そこで、後代の大乗仏教では『法華経』などのご利益のある経典の題目を唱えてショートカットする方法を編み出しました。阿弥陀仏の名前を唱えて極楽世界に生まれ変わり、有利な条件で修行して成仏するという方法には特に人気があります。
用語を定義しないと議論が成り立たない
早稲田大学で東洋哲学を学んでいた際、ある教授は「東洋にあるのは文化や習俗であり、宗教ではない」と断言していました。これは、「宗教」をキリスト教的な唯一神信仰として狭く定義する典型的な例です。
さらに、京都大学大学院で古代の宗教文献を研究していたとき、恩師である小林信彦先生は「教団の解釈を鵜呑みにせず、インド文学の文脈を踏まえて原文を読むこと」を繰り返し指導していました。小林先生はその態度を自分自身の研究で示し、空海が中国でサンスクリットを学んだという伝説を検証しました。空海の弟子が残したノートを分析し、空海の学習が文法の理解までにはいたらず、音声を単なる呪文として利用していたことを解明したのです。
小林先生は「日本に仏教は伝わらなかった」とよく述べていました。確かに、日本の仏教では、インドから中国に伝わった教義を正確に理解したり、戒律に基づく修行を行うことはなく、主に仏像の礼拝や儀礼の実施に重きが置かれてきました。この点を踏まえ、小林先生は「アルコールの入っていない酒が存在しないように、教義を学ばない仏教も存在しない」という持論を展開しました。小林先生の定義では、宗教には教義の理解が不可欠だったのです。
大阪体育大学の授業では
しかし、用語の定義や客観的な態度で事象を扱うことなど、学問領域を超えて科学的態度として重要な観点には注目を向けるようにしています。これにより、学生が自分の専門外の学問領域に触れ、「多角的に物事を思考・判断する幅広い学識」を身につけることを目指しているためです。
<キーワード> 宗教学 宗教 神 仏 人文科学
長尾佳代子(スポーツ科学部教授)
専門は仏教文学。現在は、19世紀末の日本人の僧侶たちが シカゴ万博宗教会議に出席した際に現地に残した漢詩の 解読、解説に取り組んでいる。また、近々、『薬師経』 の研究を再開したいと考えている。 リメディアル教育の研究にも熱意をもって取り組んでいる。 担当科目は「宗教学」「日本語技法」「情報処理実習Ⅰ」。
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