【Beyond the Spotlight】コベルコ神戸スティーラーズ 西村 彰悟セラピスト
鍼治療やマッサージを通じて選手のコンディショニングをサポート
念願叶って、2020-2021シーズンからチームのセラピストに
「怪我をした選手への対応や選手の健康管理などを担うメディカルチームの一員としてアスレティックトレーナーと一緒に仕事をしています。僕自身もアスレティックトレーナーの資格があるのですが、鍼灸師の資格も持っており、コベルコ神戸スティーラーズでは鍼灸師として怪我をした初期の処置や鍼治療などを行っています」
――コベルコ神戸スティーラーズで仕事をすることになったきっかけというのは。また、これまでスポーツチームにかかわられたことはあるのでしょうか。
「スポーツチームに関しては専門学校を卒業後、東京の会社に入り、そこで社会人のバスケットボールチームにトレーナーとして帯同していました。選手は平日仕事をしていたため、主に土日に活動でした。その後、2015年からチームが契約するPTTに入ったのですが、当初はPTTが持つ整骨院で働いていました。そこでコベルコスティーラーズ(当時)で鍼灸師として働いていた前任が退職したこともあり、2020-2021シーズンからチームのセラピストに就任しました。それと同時に、PTTがかかわっていた近畿大学でも週に2日アスレティックトレーナーとして、すべての体育会クラブの選手のリハビリを受け持つことになって。週に3日はコベルコスティーラーズ、週に2日は近畿大学、さらにPTTの整骨院にも隔週で1日顔を出していたので、その時は朝起きて、今日はどこへ行くのかと混乱することもありました(苦笑)」
――チームのセラピストとして仕事をすることになった時の心境は。
「専門学校に通っていた頃からトップチームにかかわる仕事がしたいと思っていたので、ようやく叶ったと思いましたね」
ラグビーはあらゆる箇所で怪我が起きるスポーツ
「ラグビーが盛んな大阪市生野区出身なので、中学の時からラグビーボールに触る機会があり、高校でラグビー部に入りました。学校は違いますが、山中(亮平)さんは僕の1学年上なので、スター的存在でしたね」
――今はクラブハウスにどれくらいの頻度で来館されているのですか。
「今も常駐ではないので、シーズン中だったら試合日の翌日にメディカルチェックがあるので週に3、4日、オフシーズンやプレシーズンは週に3日の割合で来ています」
――メディカルチェックについて詳しく教えていただけますか。
「試合の翌日、怪我や痛みのある選手を診て、病院へ行った方がいいのか、次の試合に間に合うのか等、メディカルチームのトップで、チーフアスレティックトレーナーである五明(浩一郎)さんと相談しながら判断します。まずは選手から話を聞くことからはじまり、動作チェックをして、実際に痛むところを探して、治療が必要ならばメディカルチームで復帰までのプランを立てて。その過程で実際にリハビリを担当するのは、アスレティックトレーナーになります。チームにかかわるようになって驚いたのは、試合に出た後、メディカルチェックを受ける選手の多さです。80分間フル出場した後でもメディカルチェックで引っかかる。みんな、痛みを抱えながらプレーしていて、1試合出場すると体に相当なダメージがあるんだなと思いました」
――ラグビー経験者でも驚くくらいなんですね。
「そうですね。バスケは基本的に膝や足首の怪我が多いのですが、ラグビーは体をぶつけ合うので、全身のあらゆる箇所で怪我が起きます。練習や試合の映像を見ながら、どこで怪我をしたのか確認するのですが、この動きで怪我するのかと驚くこともありますし、教科書通りではないと感じることが多いですね」
怪我をした選手が復帰する姿を見ることが“やりがい”
「外国人選手は鍼治療に対して拒否反応を示すことが多いですね。海外にも鍼はあるのですが、日本と違って鍼を素早く刺してすぐに抜くのが主流なんです。日本では鍼を刺した後、しばらく置いておきますから、外国人選手は痛いイメージがあるのかもしれません。アーディ(・サベア)は一度も鍼治療を受けなかったですね。ただ、ナニ(・ラウマぺ)は最初の頃は嫌がっていましたが、一度治療を受けたら効果を感じたのか、よく鍼をしてほしいと言ってきますね」
――仕事をする上で苦労することありますか。
「怪我人が増えると大変ですが、きついと思ったことがなくて。選手は怪我で辛い目にあっている中で申し訳ないですが、僕自身は楽しく仕事をさせていただいています」
――2020-2021シーズンからチームにかかわられて一番印象に残っていることとは。
「ナキ(サウマキ アマナキ)が横浜キヤノンイーグルスから移籍してきた時のことでしょうか。ナキは日本代表の合宿で肩を負傷し、手術を受けて肩を固定した状態でチームに合流したのですが、ギブスを外した時に腕がまったく上がらなかったんです。肩から腕にかけての筋肉が『上げる』という動作を忘れているような状態だったので、これは『まずい』と思い、僕としては珍しくスパルタで接して、ナキの横で『(腕を)上げろーーっ!』と大声を出しながら、腕の筋肉を動かすように促して、徐々に上がるようになっていきました。アスレティックトレーナーのもとで、その後のリハビリも順調に進んでグラウンドに復帰し、移籍1年目から試合に出場することができ、さらに日本代表としてワールドカップメンバーにも選ばれたこともあって、ナキの怪我からの復帰はとても印象に残っています」
――やりがいというのは。
「月並みになりますが、怪我をした選手が徐々に回復し、ラグビーの練習ができたり、試合メンバーに入ったりすることが嬉しいですし、やりがいを感じます。怪我からグラウンドに戻るまでの道のりを間近で見ているわけですから」
チームの目指す優勝に貢献できるように
「公平な立場にいないといけないのですが、怪我をするとやっぱり選手は落ち込みますので、選手の気持ちに寄り添うように意識しています。それと、ジムやグラウンドで気軽に選手に声をかけて、痛みがあればすぐに言ってもらったりメディカルルームに来てもらったりする環境作りも心がけています。ただ、メディカルルームは頻繁に来るところではないですし、マッサージ店ではないので、疲れたから足をほぐしてほしいという感じで来る場所でもありません。選手自身がストレッチなどで体のケアをした上で、痛みが強かったり、どうしようもできなかったりしたら、メディカルルームに来てもらう。選手自身が自分の体を理解して、ケアできるようにならないといけないので、その線引きは大事にしながら、選手の治療に当たっています。そういう意味では、ヤンブーさん(山下 裕史)やわっさん(日和佐 篤)といった、ベテランの選手はあまりメディカルルームに来ないですね。時間をかけてしっかり体のケアをされていますし、だからあの年齢までプレーできるのだと思います」
――アスレティックトレーナーやセラピストというのはチームにとって不可欠な存在ですね。
「そうかもしれないですが、怪我人がいなくて、アスレティックトレーナーやセラピストである僕らが働かなくていいことが、チームにとっては一番なのだと思います」
――だけど、そういうわけにはいかない。
「そうですね。『今日はメディカルルームに来る選手が少ないな』と思うことはありますが、ゼロということはないですから」
――これからもセラピストとしてチームを支えてくださいね。
「チームにかかわれていることを幸せに思いますし、ありがたいことだと感じています。チームの目指す優勝に貢献できるよう、これからも選手の治療に取り組んでいきます」
取材・文/山本 暁子(チームライター)
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