ゴルフ場が自然環境を守る存在に?里山化から小学生への環境教育支援まで
かつては一部の富裕層の道楽のために自然環境を破壊していると、ゴルフ場が批判された時代もある。そんなイメージを払拭するために誕生した公益社団法人ゴルフ緑化促進会。ゴルファーはもちろん、ゴルフをしない人たちからも感謝されている、意外な活動内容について取材した。
ゴルファーの寄付金で緑化促進
「ゴルフ場が環境を破壊しているという誤解に加え、当時は豪華なクラブハウスや高額なプレー費から、一部の富裕層のための娯楽という間違った認識が広まっていたんですね。そこで、自然環境のため、ゴルフの本当の魅力を正しく伝えるため、何かゴルファーにできることはないか、ということで当時ゴルフをしていた財界人たちが集まって作ったのが当団体の始まりです」
と話すのはゴルフ緑化促進会の専務理事・遠藤美香さん。同会の仕組みは加盟しているゴルフ場でプレーしたゴルファーが、1プレーにつき50円の寄付金を払い、その寄付金が緑化協力金としてゴルファーの数や寄付金の総額にあわせて各地方自治体に分配され、自治体が緑化促進を行うというものだ。寄付金はこの他に、企業・団体からの賛助会費や、ホールインワン・アルバトロスを達成し、ホールインワン保険が支払われた際の保険金の一部(10%以下)などがある。
会の名前から寄付金がゴルフ場の整備に使われていると思われがちだが、実際は公共の学校や福祉施設、公園や河川などをはじめとした緑化事業の促進に使われている。
全国のゴルファーが被災地に作る桜の森
「本来、植物にとっていい環境を整えるには、適切な除抜伐採が大事なのですが、それが滞ってしまっているという現状があります。そこで、ゴルフ緑化促進会では植樹をゴルフ場ではなく、東日本大震災で緑が失われた被災地で行えるというご案内をしています。中でも日本人のシンボルである桜の木を植えましょうという取り組みは、被災した皆さんが集って顔を合わせることができる憩いの場を作るということで、とても喜ばれています」(遠藤さん、以下同)
特に最近の子どもたちは都心育ちでなくても、土や自然に触れる機会が少ないそうで、初めて海を見た・土いじりをしたという子もいて、自然との触れ合いの機会づくりにもなっているのだという。
日本の文化を守る、育てる、繋げる漆の植樹
「しかも、漆の木から漆がとれるようになるには、植えてから約15年かかると言われています。さらに1本の漆の木からとれる漆の量は、牛乳瓶1本分、わずか200ミリグラム程度です。国産で賄うには、現状では到底追いつかない。そこでまず漆の木を植樹することから始めようということで、二戸市がプロジェクトを立ち上げ、ゴルフ緑化促進会も協力させていただくことになりました」
プロジェクトでは植樹の他、うるしを採取する「漆掻き」の職人を育てるといったことも行っている。ゴルフ緑化促進会は、その中で植樹に協力。2024年に行われた5回目となる植樹祭には、地元の小学生やボランティア総勢296人が参加し、漆の苗木950本を植樹した。これまでに8180本の苗木を植えたそうだが、最初に植樹した木から漆がとれるようになるまでに、あと10年近くかかる。
「時間がかかるとても地味な取り組みですが、環境保全や緑化促進にもなるし、何より日本の文化を守る、育てる、繋いでいくという3つもいいことがあるんです。次の世代に繋いでいくというのは、とても重要なことですから、地道に続けていきたいと思っています」
「現地のボランティアの方々も一緒になって木だけでなく、子どもたちの成長を見守りながら交流を続けている姿を見るとほっこりしますし、中には将来自分もこうした仕事をしたいと言ってくれる子どもがいたりして、それを聞くと本当に嬉しくなりますね」
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ゴルフ緑化促進会は2011年に日本ゴルフサミット会議の構成17団体とともに「生物多様性を保全するゴルフ場宣言」を提言。もしも日本中のゴルフ場が生物多様性の保全に本気で取り組んだら、冒頭で紹介した通り、大阪府ほどの面積の里山に匹敵する自然が確保されることになる。
遠藤さんは同会のこうした活動の意義について「木や水や光といった自然は全部が繋がっていると思うんです。その循環する恵みをみんなが肌で感じて、その価値に気づいて次に繋いでいくというのは、とても重要なことですよね」と語る。一部のゴルファーたちが始めた活動だが、今はゴルフ場の緑だけでなく、日本の文化、里山をも守る活動に発展しているのはこうした想いが根底にあるからではないだろうか。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:公益社団法人ゴルフ緑化進促会
https://www.ggg.or.jp/
※本記事はパラサポWEBに2025年4月に公開されたものです。
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