【週刊グランドスラム295】新監督に聞く2025──number6大谷龍太(トヨタ自動車東日本)
今季から就任したトヨタ自動車東日本の大谷龍太監督に、「社会人野球の魅力とは?」と尋ねた時の答えである。父・徹さんも、かつて三菱重工横浜(現・三菱重工East)でプレーした社会人野球OB。だが、龍太が生まれる前に引退したから、プレーしている姿は見ていない。だから、大谷が「凄くいい文化」を体感するのは、ずっとあとのことだ。
「(岩手県立前沢)高校を卒業する時、社会人野球を、という選択肢はまるで頭にありませんでした。そこまでの選手じゃなかったですし……」
そうして、一般企業に勤務しながら、水沢駒形野球倶楽部でプレー。2009年には、全日本クラブ野球選手権大会に出場している。自分の可能性にかけてみたいと、四国アイランドリーグplusの高知ファイティングドッグスへ入団するのは翌2010年のことだ。
「仕事も忙しいし、クラブチームですから、それほど練習もできません。全員で集まっての練習は、仕事が始まる前の朝1時間くらいでしょうか。もっと高いレベルで野球をやりたいし、やるからにはプロを目指したいという思いでチャレンジしました」
四国での2シーズン目が終わる頃、地元・岩手で新たに動き出そうとしている企業チームから誘いがあった。ちょうど、高知で3年目の契約を結ぼうか迷っているタイミングだった。1か月ほど悩んだ。だが、企業チームが減っていく傾向の中、地元にチームができるのは何かの縁かもしれないと帰郷を決断した。それが、トヨタ自動車東日本だった。かつては関東自動車工業として静岡県裾野市で活動していた野球部は2005年に活動を休止したが、2012年4月に同社岩手工場で活動を再開。そこに大谷ら13名の1期生が入社し、その夏から現チーム名になると、日本選手権予選から公式戦に参戦する。
当初は苦労の連続だった。夜勤明けや出勤前の朝に練習することもある。専用グラウンドはなく、廃校になった小学校の体育館を改装した室内練習場や校庭が練習場所。オープン戦では、県内の大学生に負けることもあった。
「独立リーグでは、個々にポテンシャルの高い選手はいますが、総合的な野球では社会人のほうがレベルが高いと感じました。一発勝負の厳しさもあります」
そういう厳しい戦いを勝ち抜き、創部7年目の2018年には、東北第一代表として都市対抗に初出場。「1~3期生あたりが、ちょうど力をつけてきた時期。東北二次予選が岩手開催で、勢いもありました」というチームは、一回戦で東芝に大敗したものの、一番を打った大谷は1安打を放っている。その後の二大大会出場はなく、大谷は兼任コーチを経て2021年限りで現役を引退。2022年から3年間コーチを務め、今季から新たに指揮官となった。
東北地区と言えばトヨタ自動車東日本というチームにしたい
・弱い姿を見せない、戦う姿を見せる
・全員が試合に入り込む、当事者になる
・全力疾走、全力プレー
さらに、チームとしては昨年後半から「打席の質を上げる」ことをテーマに取り組んできた。昨年4月には、金ケ崎町と共同で室内練習場を開設。内野がすっぽり収まる広さで、冬季もノックや打撃練習ができるようになった。3月上旬の東京スポニチ大会では、茨城トヨペットから大谷監督として公式戦初勝利を挙げている。
「ただ、試合でサインを出すのは初めての経験。さわっちゃいけないところを無意識にさわらないよう、自分の部屋で鏡を見ながらサインを出す練習はしましたね」と笑顔で語る。
昨秋の日本選手権東北最終予選では、都市対抗で準優勝したJR東日本東北に勝利するなど、チームは着実に力をつけている。
「投手では中里優介が安定していますし、2年目の中村隆一も先発の柱になってくれそうです。若手が多い野手は全員に期待ですが、齋藤大智、植本拓哉、山崎 隼の新人もいい」
その3名の新人は、東京スポニチ大会でスタメンに名を連ねている。今季の目標は都市対抗と、日本選手権への初出場だ。
「中・長期的には、東北地区と言えばトヨタ自動車東日本、と言ってもらえるようなチームにしていきたい。監督は、自分をしっかり持つことが大事。ブレずにやっていきます」
【取材・文=楊 順行】
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