【週刊グランドスラム260】第95回都市対抗野球大会が息詰まる熱戦で幕を開ける
7月19日の開幕戦は、スコアレスの緊迫した展開を9回サヨナラで豊田市・トヨタ自動車がものにした。 【写真=松橋隆樹】
第95回都市対抗野球大会の開幕戦。5年ぶりに出場全32チームが揃った開会式では、トヨタ自動車の北村祥治主将が、自らの故郷である石川県で今年1月に発生した能登半島地震にも触れ、「私たちは、最後まで諦めない姿で被災地に元気、勇気を与えられるよう、精一杯プレーします」と選手宣誓した。
5年ぶりに実施された出場32チームが揃った開会式では、トヨタ自動車の北村祥治主将が黒獅子旗を返還した。 【写真=藤岡雅樹】
そうして、土俵中央まで押し戻した沖縄電力が9回表、今度は前年覇者を土俵際まで追い詰める。二死からの連打で一、三塁のチャンスだ。ここで、トヨタ自動車の藤原航平監督が手を打った。「困ったところでいこう、と決めていた」という佐竹功年の登板だ。都市対抗本大会では、準優勝した2019年以来、5年ぶりのマウンド。平良大悟に四球を与えて二死満塁とピンチは続き、打席には金城長靖を迎える。社会人18年目のベテランと、今大会限りで勇退を決めているレジェンドの対戦。役者は揃った。
2球目だ。芯でとらえた金城長の打球が右翼線に飛ぶ。佐竹は「終わった」と感じたが、僅かにファウル。この打球に飛びついた多木裕介が、治療のために一旦ベンチに戻る。これが絶妙の間になったのか、佐竹は切り換えた。
「これで負けても俺のせいじゃない。(点を取れない)野手と、自分を使った監督のせい」
試合再開直後の3球目、チェンジアップで一ゴロに仕留めた。そして、9回裏の攻撃。敵失と四球でもらったチャンスに、高祖健輔がライト右に弾き返し、二塁から代走の坂巻尚哉がホームインする。タイブレークもちらつく中で、劇的なサヨナラ勝ちだ。開幕戦のサヨナラ決着は、2017年以来。その時も、タイブレークの延長12回を制したのはトヨタ自動車だった。
負ければ引退の試合で勝利投手になった佐竹功年の思い
「通達された時のみんなの顔が忘れられません。ですが、『沖縄で二次予選が開催される2024年には、本大会に出場してくれ』と言われ、まず土台作りから取り組みました」
そこからの徹底した体力強化が実を結び、10年ぶりの出場につなげたのだ。そして、前年覇者を追い詰めた粘り強い戦い。トヨタ自動車の藤原監督も、「ロースコアは想定していた。必死でした」と薄氷の勝利に胸を撫で下ろす。
負ければ即引退、という一戦で勝利投手となった佐竹。スタンドには、地元の香川県小豆島や早稲田大時代の友人など、約160人の応援団が駆けつけていた。
「そんな大人数は初めてのことで、有り難いですね。5年ぶりのマウンドの景色は気持ちよかった。このために一年間練習していますし、ああいう場面でマウンドに立てて本当に楽しかったですよ」
ライト側フェンスには『佐竹引退は7月30日しかありえない!』というトヨタ自動車・豊田章男会長からのメッセージが。30日の決勝までトヨタ自動車の、そして、佐竹の最後の夏は続くか。
【取材・文=楊 順行】
【左=紙版表紙・右=電子版表紙】
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