【週刊グランドスラム259】日本選手権ノーヒッターが再び勝負のマウンドに
大阪ガス時代の2016年に日本選手権でノーヒットノーランを達成した猿渡眞之が、三菱自動車京都ダイヤフェニックスでマウンドに戻ってきた。 【写真=横尾弘一】
そうして、クラブ日本一への道も熱を帯びてきた7月7日、東近畿二次予選が甲賀市民スタジアムで行なわれた。滋賀県のOBC高島、京都府の三菱自動車京都ダイヤフェニックス、奈良県の大和高田クラブによるリーグ戦。いずれも全国を経験しているだけに、レベルの高い戦いが繰り広げられた。昨年、全国に初出場して意気上がる三菱自動車京都ダイヤフェニックスは、第1試合でOBC高島に14安打の猛攻で16対6(7回コールド)の完勝。第2試合では、連勝を狙って大和高田クラブと対戦する。先発を任されたのは、31歳の猿渡眞之だ。
社会人野球ファンは、「懐かしい」と感じる名前だろう。飯塚高から入社した大阪ガスで、2018年の都市対抗初優勝、翌2019年の日本選手権初優勝に貢献した右腕。2016年の日本選手権準々決勝では、鷺宮製作所を相手にノーヒットノーランを達成し、2017年にはアジア・ウインター・ベースボールに出場するなど、プロのスカウトからも注目される実績を残してきた。
2020年限りで現役を引退すると大阪ガスを退社し、外資系生保会社に転職するとともに他チームのOBと『社会人野球盛り上げ隊』を結成。SNSなども使って、社会人野球を側面から盛り上げる活動を始める。
「結婚していましたし、野球を離れても安定した生活をしていくべきという考えはありました。でも、野球界に恩返しをしたり、将来的に野球指導に携わるなど、仕事以外の活動を自由にしていくことは難しい。ならば、リスクを承知で自由になろうかと。外資系生保に転職したのも、もともと野球でプロ、つまり個人事業主を目指していましたから、分野は違っても仕事でプロを意識するのもいいかと思って。もちろん、簡単なことではありませんが、妻の後押しもあって決断できました」
やるからにはクラブ王者も企業チームも倒したい
「しばらくは、『カットボールはこう投げるんだよ』とやって見せればよかった。それが、2年もすると思い通りのボールを投げられなくなりまして。まだ若いのに、理屈や経験だけを伝える指導はしたくないと、トレーニングを始めることにしたんです」
コンディションが整ってくると、体や気持ちが実戦を求めるようになってくる。そこで昨秋、住まいに近い三菱自動車京都ダイヤフェニックスへの入部を希望した。
ピンチを迎えてマウンドに集まる選手たち。中央が猿渡。 【写真=横尾弘一】
何とか援護したい打線は、5回表二死一、三塁から四番の宅間翔太が三遊間へ打ち返して同点に追いつく。ベンチは最高に盛り上がったが、その裏に守りのミスから再びリードを許し、6回裏の3失点で勝負あり。猿渡は6回途中まで9安打5失点でマウンドを譲った。
「投げている時間帯は、気温が35℃になりましたか……。まだまだですね。2回くらいから足が攣ってきましたし、全体的に自分がイメージした投球はできなかった。それでも、僕が抑えれば『いけるんじゃないか』というムードが出てくる。野球はメンタルや考え方も重要な競技ですから、凄いボールを投げられなくても、頭を使って考えれば相手打者を打ち取ることはできます。それを実践していきたいですね。そして、僕を受け入れてくれたチームで、いつか大和高田クラブのようなクラブの王者、あるいは企業チームも倒せるようにやっていきたい」
試合は1対6で敗れ、第3試合も9対4で制した大和高田クラブが10大会連続22回目の全国切符をつかんだ。大事な試合に勝てなかったといえ、猿渡の表情には充実感が漂う。そう、猿渡の社会人野球は、第2章が始まったばかりだ。
【取材・文=横尾弘一】
【左=紙版表紙・右=電子版表紙】
グランドスラム63は、好評発売中です。次号は、7月20日にリリースする予定です。
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