【ラグビー/NTTリーグワン】あきらめない大切さを知るベテランの思いが結実。 土壇場の決勝トライで東京SGのプライドを取り戻す<東京SG vs 横浜E>

東京サントリーサンゴリアス 江見選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
東京SG 40–33 横浜E


まさに、意地とプライドが詰まった逆転劇だった。

東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)と横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)が激突した、プレーオフトーナメント3位決定戦。この試合で東京SGが初めてリードを奪ったのは、なんと後半40分。これ以上ない土壇場で決勝トライを決めたのは、その4分前にグラウンドに立ったばかりの江見翔太だ。秩父宮ラグビー場での激闘は、『こんなことが起きるのか!?』というラグビーの魅力が凝縮された一戦となった。

試合直後の江見が興奮とともに語る。

「望んでいた(決勝の)舞台ではなかったですけど、昨季敗れた横浜E相手に東京SGのプライドを取り戻すことができました」

優勝が至上命題のチームでありながら、2季連続のセミファイナル敗退。昨季は決勝を逃した失意のまま3位決定戦に臨み、横浜Eに敗れて4位に終わった。負の連鎖は続き、今季はレギュラーシーズンの戦いでは最大25点差のリードをひっくり返される悔しい逆転負け……。もう横浜Eに負けるわけにはいかない。まさにプライドを懸けた戦いだった。

そもそも、東京SGは今季、なぜ勝ち切れない試合が続いたのか。キャプテンの堀越康介は「今季の僕たちは、敵陣22mラインの内側に入っても最後に決め切れない。そんな場面が続きました。そこに自分たちの甘さがある」と今季を振り返る。

だが、この試合でも敵陣22mライン内に入って得点できないシーンが続いた。5点差に追い上げた後半13分以降、約15分以上はほぼ22mライン内で攻め続けながらも、ゴールラインを割れなかった。堀越自身、一度は同点トライを決めたかと思われたが、テレビジョンマッチオフィシャル(TMO)判定でキャンセルされ、幻のトライに。今季最終戦も“決め切れない東京SG”で終わってしまうのか。そんな不安を払拭したのは、堀越を中心に意地を見せたフォワード陣だ。

「今週は『絶対スクラムペナルティを取る』『モールからトライを取る』とフォワード陣でずっと言ってきたので、最終的にスクラムトライが奪えたのはすごく良かったです」

あきらめずに攻め続け、最後に取り切る。こうして同点に追いついたすぐあと、劇的決勝トライを決めたのが、昨季までけがに苦しみ続けてきたベテランの江見だったのは、まさにあきらめない大切さを知る男だからこその結実だった。

東京サントリーサンゴリアス 【©ジャパンラグビーリーグワン】

キャプテンの堀越は、「今日の結果を未来につなげたい」と語った。この3位という結末を本当に意味あるものにできるかどうかは、来季の自分たちに懸かっている。

(オグマナオト)

【©ジャパンラグビーリーグワン】

東京サントリーサンゴリアス(D1カンファレンスA)

東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督
※総括はなく、質疑応答からスタート

――どのようなプランでゲームに臨んだのでしょうか?
「(先週の)プレーオフトーナメントセミファイナルはタフな敗戦で、しかも(3位決定戦までは)ショートウィーク。この試合に向けて、やれることはそう多くはなかったと思います。それよりも、やっぱり自分たちのプライドやクラブのスピリッツをしっかりと見せる。そういう部分にフォーカスしてこの1週間を準備してきました。

もちろん、プランもあるにはありますが、選手たちが堀越(康介)を中心として、今季やってきたことを最後に出し切ろうと。それが最後に逆転する結果につながったと思います。あの江見(翔太)の逆転トライはたぶん奇跡だと思うんですよ。その前に江見と同期の(中村)亮土がインゴールで押えてトライを狙ったシーン、あれが布石というかお膳立てになったのかなと。本当にそうやって一生懸命に必死にやるという部分が、最後の江見のトライにつながったのかなと思います」

――今日の結果を受け、来季に向けてどういった準備をしていきたいですか?
「もうちょっと経ってから考えます(笑)。ただ、今日は山本敦輝という選手がデビューしました。もちろん、今季でジャージーを脱ぐ選手もいます。彼らがこれまで東京SGのスピリッツを見せてくれて、新しい選手はそのジャージーを着て、東京SGのスピリッツが受け継がれていくのだと思います。いい部分はしっかり引き継ぎながら、今季出た課題をどう来季に克服していくのかをしっかり考えたいと思います」

東京サントリーサンゴリアス
堀越康介キャプテン
※総括はなく、質疑応答からスタート

――前半は思うような展開ではなかったと思います。ハーフタイムにはどんな言葉を掛けましたか?
「僕からは、『もうあと40分しかないから、もう1回自分たちのプランに戻って、信じて最後までやり切ろう。絶対あきらめないで、1個でもいいプレーを必死に頑張ろう』と言いました」

――後半、あともう少しで横浜Eの壁を破れないシーンが続きました。何を考えながらのプレーだったでしょうか?
「我慢比べだと思っていました。でも、プレッシャーがあるのは横浜Eさんのほうなので、われわれは『スコアを取るまで我慢強くプレーし続けよう』とずっと言っていました。また、今週は『絶対にスクラムペナルティを取るぞ」『モール(からトライ)を絶対に取る』とフォワード陣でずっと言ってきたので、最終的にスクラムトライの形で取れたのはすごく良かったです。

ひさびさの勝利なので、本当に良かったと思います。もちろん、今日の試合も課題はたくさんあると思いますが、未来につながるゲームになったかなと。勝ち切れたことはすごく良かったと思います」

【©ジャパンラグビーリーグワン】

横浜キヤノンイーグルス(D1 カンファレンスB)

沢木敬介監督
※総括はなく、質疑応答からスタート

――試合を振り返ってください。
「最後はドリフみたいな終わり方をしたのですが…、ドリフと言っても昭和の人にしか分からないか(笑)。

負けたのは自分の責任ですし、チームを勝たせられなかったのも監督の責任です。選手たちが同点ではなく、トライを取りにいったことが大事だと思います。時間を使って延長に持ち込むのは横浜キヤノンイーグルス(以下、横浜E)のラグビーではありません。もちろん負けたのは悔しいですが、最後までゲームキャプテンの(田村)優を先頭に勝ち越しを狙いにいった結果です。最後まで自分たちのスタイルを信じて戦い抜いてくれたことは感謝しています」

――今季はファフ・デクラーク選手やジェシー・クリエル選手ら、長期離脱者が出たり、『THE CROSS-BORDER RUGBY2024』の試合が組まれるなど、従来とは違うシーズンになったと思います。今季のチームの成長曲線はどうだったのでしょうか?
「埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)や東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)のように、常に優勝争いをしているようなチームではないので、何事にもチャレンジする文化を作らなければならないと思っています。そういう意味で言うと、けが人も出ましたが、ギリギリのところを耐えて今季もトップ4に入れたことはチームの成長の証です。(プレーオフトーナメント準決勝の)埼玉WK戦でダメージは残りましたが、そんなことは関係なく、前半から自分たちのラグビーでスコアを取りにいったパッションは見ている方々には伝わったと思います。ただ、勝ち切るためのプラスワンを見せていかなければなりません。経験値も大事ですが、若い選手もいるし、そういう選手たちがラグビーへの向き合い方を見つめ直す良い機会になったでしょう。簡単に勝てる世界ではないということです」

――田村選手をゲームキャプテンに据えた意図は何でしょうか?
「優はこう見えて、かなり練習をします。『こう見えて』と言っちゃ失礼か(笑)。休みの日もグラウンドに来てボールを蹴るし、そういうことをやっているからこそ大事な場面でパフォーマンスを発揮できます。それをチームメートも見ています。プロフェッショナルの覚悟を持った取り組みを若手たちは勉強していかないと。プロ選手が多くなっていますが、プロになったあと、成長するために何が必要か。それに気付くのが遅い選手は、ラグビー人生が終わっていくのは早いです。コーチングスタッフが何かを言うのではなく、先輩を見て学ぶべきことだと思います。そういう意味で言うと、優の練習している姿を見ているし、分かっているからこそ、少々言葉遣いの悪いことを言ってもみんながついていくでしょう。(田村に向かって)褒め過ぎ?」

「(田村がそれに応えて)初めて褒められました(笑)」

――東京SGの逆転トライにつながってしまった、終了間際のボールロストのシーンを振り返ってください。
「“たられば”を言っても仕方がないですが、あそこでトライを狙いにいったことで普久原(琉)も学ぶでしょうし、プロとして良い勉強になったでしょう。人間なのでミスはある。でも(そこから学んで)成長をしてくれないと。厳しく指導します」

横浜キヤノンイーグルス
田村優ゲームキャプテン
※総括はなく、質疑応答からスタート

――準決勝の敗戦のダメージが残っている中での試合だったと思います。
「体はキツいですし、目標に届かなかった精神的ダメージはありましたが、試合前のミーティングでは退団選手を勝って送り出すことと、それと同時に来季も試合に出られる保証はされていない中でも来季に何か良い形を残そうということを伝えました。勝ち負けがある中で価値ある負けはないと思いますが、このプレーオフトーナメント2試合は、“価値ある負け”と言ってもいいのではないかと思っています」

――選手の立場で今季の総括をお願いします。
「(沢木)敬介さんが言っていたように、学びのあるシーズンでした。いろいろなアクシデントがあった中でも、プレーオフトーナメントの舞台に来て、勝つか負けるかの試合を2試合連続で経験できたことは、間違いなくチームの財産です。負けはしましたが、チームの成長ぶりを考えると、昨季の3位よりも、うれしさはあるかもしれません。横浜Eは優勝するために必要な段階を踏んでいると思います。ただ来季はちょっとの気の緩みで入替戦まで行く可能性はありますが、またトップ4に入りたいです。その力は間違いなくつけています」

――ゲームキャプテンに指名されて、選手たちに与えられたものはありましたか?
「1週間の準備は変えていません。自分の準備をきっちりして臨み、リラックスしてプレーすることを心掛けました。いつもどおりです。ただ、少しギアは上げました」

――終了間際のボールロストのシーンを振り返ってください。
「僕の前から彼(普久原)が消えました(笑)。普段から仲良くしていますが、プレーオフトーナメントの3位決定戦に出られたのは良い経験になったのでは。来季の決勝戦で(あのプレーが)出なくて良かったです。彼は落ち込むタイプでもないですし、素晴らしい才能を持った若手の一人です。あの場面以外はパーフェクトでした。ただ、あまり持ってないかもしれないです。引きが弱いかもしれません。今後は練習して、あの場面でトライを取れるようになるでしょう。彼とはこれから遊びに行きます。そこで励まします」

――終了間際の場面はトライを取るためのプランを組んでいたのでしょうか?
「負けるはずのない試合でした。同点のまま延長戦をやる体力も残っていなかったです。リスペクトしている東京SGさんに勝つことが重要でした」

――若手選手に対する接し方は、どう意識されているのでしょうか?
「普通に仲良く友人としての時間を過ごしていますし、いろいろと質問されます。ただ、見せることはできますが、教えることはできません。試合で出すスキルも教えることができません。それは試合をとおして経験を積んでいくしかありません。まずは人間関係を作ることから始めています。アドバイスとしては、大舞台で力を発揮するための準備はいくらでもサポートします」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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