私のミッション・ビジョン・バリュー2023年第9回 草野侑己選手「ド根性・成り上がり物語」
多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。
その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。
ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針
原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。
2023年も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2023年第9回は草野侑己選手です。
(取材・構成 佐藤拓也)
「1回1時間の面談を3~4週に1度ぐらいのペースで合計5回ほど行いましたね」
Q.面談をしてみていかがでしたか?
「自分の過去を振り返って、アウトプットすることによって記憶が蘇ってくるんですよね。あらためて自分が経験してきたことをより理解するというか、発見があって、今の立場になって当時の出来事を違う視点で考えることができるようになる。自分が経験してきたすべてのことがあって、今の自分があるんだなと実感しました」
Q.草野選手らしいMVVになったのでは?
「おっしゃる通り、自分らしさが出てますよね。振り返ってみて、自分という人間を理解できたところはあります」
「常に人生は挑戦だと思っていますし、現状維持は衰退だと思っています。常にいろんなことにトライして、その先に成功や成長がある。自分が今までサッカーをしてきて、いろんなトライをしました。うまくいったこともいかなかったこともたくさんありましたけど、挑戦した時には必ず成長につながりました。その成功体験があるので、この言葉を選びました」
Q.今までで一番大きかったと思う挑戦は?
「まずは中学校で親元を離れて、JFAアカデミーに入ったことですね。人生の中で一番大きな選択だったし、挑戦だったなと思いますね。当時はそこまで深く考えてはいませんでしたけど、今考えると、小学校卒業後によくその決断ができたなと思いますね。自分の生きざまが表れたと思っています」
Q.親になると、その決断の大きさがよく分かりますよね。
「本当にそう思います! 自分の子供が小学校卒業した後に離れてしまうことを考えるだけで寂しくてしょうがないですね。だから、自分の意志を尊重してくれた親に感謝しています」
Q.中学、高校、大学でも挑戦し続けましたか?
「挑戦もしましたけど、失敗もたくさんありました。監督とぶつかって、練習に参加しないこともありました。それでも、自分を曲げなかったこともありましたし、変えないといけないところを変えたこともありました。そういう試行錯誤を繰り返す日々でした。JFAアカデミーに入った時は同期で一番下手だったんですよ。でも、それが悔しくて、同い年の選手に負けてられるかと思って、必死にやり続けた結果、エリートプログラムに選ばれるようになりました。そうやって、常に反骨心を持ってサッカーに打ち込んで這い上がってきたんです」
Q.失敗することは大きな成功につながりますね。失敗を恐れて挑戦しないことが一番の失敗です。
「結局、失敗しないと何がダメで、何がいいのかが分からない。今年もそうですけど、いろんなことにトライして、そこで得た感覚や経験が次につながる。でも、トライしないことには何もはじまらない」
Q.今も挑戦しているのですね。
「めちゃくちゃしていますよ。今年はセカンドストライカーのような役割にもトライしましたし、今は守備のところを求められてトライしています。試合に出られない時期が続きましたけど、現状を何か変えないと試合に出られないわけで、今回のパターンではいくつかの道がありました。一つは今のまま点を取ることにこだわり続けること。もう一つはチームが求めている前線の守備でもっと強度を出せるようにすること。さらに、その守備をしながら、攻撃のクオリティーを出せたら、もっといい選手になれるという考えも持てるようになりました。自分はずっとゴールという結果を大事にしてきたのですが、そのために守備をすることは遠回りのようなことですけど、それが必要だとあらためて気づいたんです。日本代表の選手ですら、あれだけ守備の強度を出している。今、さらに高い守備の強度を求められるということは成長するためのタイミングだと捉えて取り組んでいます。リーグ戦は残り4試合ですけど、やり続けることによって、自分の中に大きなものを得られると思っています。それは今回の挑戦です」
Q.試合に出ていない時も日々の練習に対してすごく前向きに取り組んでいるように感じていました。練習試合でも結果を残してきました。試合に出られず、悔しい思いをしながらも、挑戦をし続けていたのですね。
「メンバーから外れた時には正直、納得いかないものがありましたよ。それまでもチームのために犠牲心を持ってプレーし続けてきた自覚があったからこそ、悔しかった。でも、先発で試合に出られるのは11人で、メンバーに選ばれるのは18人。それを決めるのは監督。監督の評価を自分は変えることはできない。ならば、試合に出るために、自分を変えるためにエネルギーを使った方がいいと思って取り組んだんです。とはいえ、すぐに考えを切り替えられたわけではありません。もちろん、2週間ぐらいは『なんでだよ』と思ってはいました。でも、コーチ陣が自分の足りないことや自分に対して求めていることを伝えてくれたんです。そこで自分のスタイルを貫くか、チームに必要とされるために変化するか、どちらを選ぶかというところで、試合に出るために後者を選んだんです。だから、練習でも練習試合でも、とにかく守備のところを意識してプレーしました。球際で激しくいくとか、ハードワークするといったことにフォーカスしていたんです。試合に出られない期間は守備に振り切ってトライしていました。守備での成功体験を積むためのトライをし続けました。試合に出たいという思いもありましたが、それ以上に自分が上に行くために必要な能力を身につけようという考えで取り組むことができたことが大きかったです」
「このストレートな感じが自分なんですよ。自分の考えを包み隠すことなく、シンプルな言葉で表しました。僕も結婚して、子供も生まれて、家族の大切さに気付きました。家族は自分の命より大切な存在。だから、幸せな生活を送ってもらいたいと思いますし、自分自身もそうやって育ててきてもらいました。この思いが自分の最大の目的で、そこから逆算して、今何をすべきかを考えるようにしています。だからこそ、試合に出られないからといって、不貞腐れているわけにはいかないんですよ」
Q独身時代はそういう考えにはならなかったのでは?
「絶対ならなかったでしょうね。『FWは点を取ってナンボだろ』と思ってプレーし続けてきましたから。変にプライドもあったし、その考えを変えるのは難しかった」
Q.結婚が大きなターニングポイントになったのでしょうね。
「本当にそうです。自分一人ではないですから」
Q.「成り上がり」という言葉はいかがでしょうか?
「自分はストライカーとして、数字を残して這い上がってきました。FWは数字でしか見られないと思うんですよ。いくら守備を頑張っても点を取ることができなければ、評価されないポジションです。評価がはっきりしていますよね。結果を出したら評価されるし、出せなかったら批判される。それが楽しくてFWであり続けているんです」
Q.しっかり守備をしながら、ゴールという結果を残せるようになると、さらに評価や選手としての価値が高まると思いますね。守備が新たな価値を生み、「大金」につながるのでしょうね。
「本当にその通りだと思っています。いろんな引き出しを持つことが価値を生み出していく。その評価が『お金』に表れる。そういう意味で、今は価値を高めるタイミングだと思っています」
Q.日本のスポーツ界はあまり「お金」に触れてはいけないという風潮がありますよね。でも、「お金」は大事ですよね。
「めちゃくちゃ大事です。海外はお金の話がすごく出るじゃないですか。プロスポーツはそれが普通だと思うんですよ。日本人はあまりお金の話をしない。もっと表に出してもいいんじゃないかと思いますね」
Q.年俸は選手の価値です。それを高めるために日々努力するのが、プロのアスリートですよね。
「結局、大金を得られる選手は日本代表に選ばれるようになると思いますし、J1や海外で活躍できるようになると思います」
Q.日本代表も海外も見据えているのですね。
「もちろんです。それがワールドカップだろうが、親善試合でも関係なく、とにかく日本代表に入りたい。サッカー選手ならば、誰もが憧れるし、一度は入ってみたいと思っている。ゴールさえ取れれば、選ばれる可能性は出てくる。たとえば、町野修斗選手もゴールという結果を出して、代表に選ばれたわけですから。FWはそういった意味ですごく分かりやすいポジションだと思っています。ここからゴールを量産して、来年得点王に輝ければ、代表入りもない話ではないじゃないですか。不可能ではないと本気で思っています」
Q.残り4試合もすごく大事ですね。
「リーグ最終盤、昇格争いにも残留争いにも入っていないとモチベーションを落とすみたいなことを言う人がいますけど、その考えはまったく分からない。リーグ最終盤でどれだけ結果を残せるかで選手の評価が変わる。逆にシーズン終盤になるにつれて、モチベーションが上がるんですよ」
「プロになって5年目ですけど、自分の中で変な自信というか、過信やプライドが出てきてしまうと、言われたことを素直に受け入れられなくなってしまう。それは結局、自分の幅を狭めているんですよね。だからといって、アドバイスを聞きすぎて、自分を失ってしまうのも違うとは思うのですが、まずは向上心を持って、スタッフだろうが、チームメイトだろうが、周囲の意見やアドバイスを聞き入れるようにしています。調子のいい時期も悪い時期も必ず課題がある。そこから目を逸らさず、毎日の練習で意識して取り組むようにしています」
Q.第38節千葉戦でカウンターからチャンスを迎えましたが、決めることができませんでした。その場面について、いろんな人に相談したようですね。
「あのシーンは映像で何十回も見ました。どのタイミングで仕掛けて、どのタイミングでシュートを打てばよかったのかを考えました。でも、自分一人では答えは出ないので、センターバックの選手に聞いたり、ドリブルがうまい選手にも聞いたりしました。でも、みんな見解は違うんですよね。それでも、すべての意見を聞いて、自分なりにしっくり来る答えを採り入れて、いい形を作れるようにしたいと思っています」
Q.いろんな意見を聞くことにより、選択肢も広がりますね。
「結局、自分では分からないことが多いんですよ。主観でしかないですから。周りから言われて気づくことが多いんですよ。周りからの意見には新しい発見や気づきがある。千葉戦のあのシーンも、自分でいろんなことを考えましたけど、周りからの視点が入ることによって、考えの選択肢が広がる。だからこそ、話を聞くことを大切にしています」
Q.2つ目は「自分を信じること」です。いろんな情報を入れながらも、大切にすべきは自分の中の芯ということですね。
「そうなんです。いろんな人の意見を聞き入れて、ぶれてしまってはダメなんです。一番大切なのは『自分がどうしたいか』を明確にすること。それに対して、何が足りなくて、何ができているのかを客観的に見て考えないといけない。それが自分だけの視点では狭いから、他の視点も求めるようにしているんです。たとえば、高卒ルーキーの内田優晟の言うことでも自分の成長に必要なことならば、採り入れます。そこに変なプライドを持ってしまったら、成長の機会を逃すことにつながる。そういう意味で、自分にとって大きかったのはカズさん(三浦知良選手)との出会いですね。横浜FC時代、カズさんがプロ1年目の自分に対して、『今の場面、お前ならどうした?』と意見を聞いてきた時にすごいなと思ったんです。カズさんは何十年もプロとしてやってきて、輝かしい実績を持っているのに、大卒1年目の選手に意見を求めてくることに驚いたんですよ。そこで自分の意見を言ったら、『そういうのもあるな』と言ってくれたんです。それが一流の選手の姿勢なんだと思わされました。自分もそういう姿勢を大切にするようになりました」
Q.カズさんのマインドは本当に素晴らしいですよね。人間的な器の大きさに圧倒されます。
「サッカーに対して、すごく純粋なんですよ。変なプライドもまったくない。周りの人をすべてリスペクトしてくれますし、練習も人一倍やる。本当に尊敬しています。プロ1年目でカズさんと出会えたことはすごく大きかったです。プロはどうあるべきかを教えてもらいました」
Q.3つ目は「目標を明確に持つこと」。
「目標が明確じゃないと、ただサッカーをしているだけになってしまい、積み上げがないと思うんですよ。だからこそ、常に自分の中で目標を決めて、どのように取り組んでいくかを考えるようにしています。1~2カ月ごとに振り返って軌道修正することもありますが、そういうことを僕は大切にしています。1日1日の練習にムラが出てしまうと、本当にもったいない。毎日のトレーニングへのモチベーションを保つためにも目標を設定することを大切にしています」
Q.それはずっと続けているのでしょうか?
「プロになって3年目の時ですね。1、2年目で結果を出せなかったので、何かを変えないといけないと思ったんです。レノファ山口に期限付きで移籍するタイミングで、自分自身も変えようと思ったことがきっかけです。それから3年間常に目標を立てるようにしています。もちろん、大学時代から『プロになる』とか、『日本代表に入る』といった目標はありましたけど、1日1日の練習に対してモチベーションを上げるために明確な目標を掲げるようになったのは3年目からでした」
Q.4つ目は「人生を楽しむ」です。
「そもそも、サッカーが楽しくて続けているわけですから、楽しむことが一番にないといいプレーはできないと思っています。一度きりの人生ですし、サッカーだけでなく、日常生活も子育てもポジティブに楽しみたい」
Q.プロは結果が求められる世界です。でも、その根幹に『楽しい』という感情がないと続かないですよね。
「サッカーが楽しいからうまくなりたいと思えるし、点を取りたいと思える。『楽しむ』という根本的なところを大切にしています」
Q.人生を楽しむことがいいプレーにもつながるのでしょうね。
「子育てをしていて、よく思うんですけど、子供の『今』は今しかないんですよ。だからこそ、今の一瞬一瞬を大切にしたいとより思えるようになりました。いい刺激を受けています」
「この言葉を見ると、今までの自分の人生をすごくクリアに思い出すことができますね。自分はスーパーな選手ではありませんでした。でも、プロなれましたし、今もプロであり続けることができている。それは『ド根性』があったからだと思っています。とにかく負けず嫌いなんですよ。だからこそ、うまい選手がいたら、『その選手より絶対にうまくなる』と思って努力してきました」
Q.うまくいっていない時こそ、燃えるタイプなのでは?
「本当にそうなんです! 振り返ってみて、一番自分の成長を実感したのは、横浜FC時代なんですよ。プロ1年目で、メンバーに入れないだけでなく、紅白戦にも出してもらえない状況が続きました。それでも、『絶対に見返してやる』と思って日々のトレーニングに打ち込んでいました。監督交代したタイミングで試合に出られるようになり、すぐ点を取ることができたんです。その時に自分の成長を実感したんです。試合に出られなくても、紅白戦に出られなくても、常に自分と向き合ってきました。その成果が出たんです。ただ、山口やFC琉球では『来てほしい』と言われて移籍して、開幕から出場機会を得ることができました。すごくありがたいことですし、自分にとって大きな経験ではあったのですが、少し刺激が足りないところがあった。常に試合に出られる環境に自分の中で慢心が出てしまっているような感じもあったんです。そういうところは態度にも出るし、プレーにも出るんです。プロ1年目の自分はもっとひたむきにプレーしていたと思うんです。とはいえ、決して山口や琉球で成長できなかったわけではなく、素晴らしい経験をさせてもらっていたとは思います。移籍してよかったとも思えています」
Q.今回、試合に出られない時期が続きましたが、逆に成長のための時間にすることができたのでしょうね。
「そう思っています。だからこそ、この期間を大切にしようと思いましたし、自分を見つめ直すいい時間になったと思っています」
Q.残り4試合でその成果を見せたいですね。
「イチローさんも『遠回りのようなことが一番近道の時もある』と言ってましたよね。本当にその通りだと思っています」
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