【Inside Story】コベルコ神戸スティーラーズ 普及・アカデミーコーチ 長崎健太郎

チーム・協会

【コベルコ神戸スティーラーズ】

2014年度に入団し、2020年度シーズンをもって現役を退いた長崎健太郎氏。現在、コベルコ神戸スティーラーズのアカデミーコーチとして小学生、中学生の指導をするほか、神戸市内の小学校でラグビー教室を行うなど普及活動にも携わる。今年6月には、小学生ラグビー大会「スティーラーズカップ2022」の大会運営責任者として大会を成功に導いた。指導者になるとは思ってもいなかったという長崎氏だが、ユニフォームを脱いでもなお、大好きなラグビーと関われていることに喜びを感じながら、リーグワンNo.1のアカデミーを目指して、日々奮闘中だ。(取材日:8月9日)

思い出のチャリティフェスタ

 最後の「トップリーグ」となった2020年度シーズンの戦いも終わりに差し掛かった時のこと。リーグワン参戦に伴いスタートするアカデミーのコーチをしてくれないかと、チームディレクターの福本正幸氏から打診を受けた。
「2020年度シーズンも3試合に出場していたので、まだやれるという気持ちがありましたし、ラグビーを続けたいという思いもあって…。すぐに返事はできなかったです。いろいろと考えた結果、最終的に現役を引退し、アカデミーコーチを引き受けることにしました」
 大阪府松原市出身。父は、大阪体育大学、マツダ(現在・マツダスカイアクティブズ広島)で活躍した後、母校でコーチを務め、現在もスタッフとしてチームの強化に携わる。母は、高校時代にハンドボールの選手として京都選抜メンバーに。体育会系のご両親のDNAを継いで、子供の頃から運動神経抜群だったという長崎氏が、ラグビーをはじめたのは小学5年から。それまで地域で盛んだったソフトボールをしていて、野球選手になることが夢だった。それが楕円球に触れて、体を当てたり、ボールを持って走ったりするところに一気に魅了され、将来は「ラグビー選手になりたい」と思うように。
長崎氏には、忘れられない思い出がある。
小学6年の時に、スティーラーズ同期入団の下地大朋氏ら、堺ラグビースクールの友達と一緒に灘浜グラウンドで開催の「コベルコラグビーフェスティバル」に参加した。そこで、目玉企画の1つである「チャリティオークション」で友達のご両親が、選手と一緒に夏休みの思い出を作る権利を落札し、当時チームに在籍していた南條健太氏、松原裕司氏といった選手に連れられて、水族館へ。大男たちとの楽しい夏の記憶は、すぐさま憧れへと変わった。

必死で食らいついた7年間

 小学生の時に一緒に遊んだスティーラーズの選手たちのように、僕もトップリーグのチームに入りたい。そう思い、父と同じ大阪体育大学に進むが、4年になっても、なかなかスカウトから声がかからない。
夢を諦めるか、もう1年大学に残って浪人するか。そんなことを考えはじめた矢先、2013年5月、チャンスがやって来た。灘浜グラウンドで開催の天理大学との練習試合に、急遽、トライアル生として出場する機会を得たのだ。首脳陣にアピールするチャンスは一度切り。気合いが入る。教員免許取得のための教育実習期間中だったということもあり、練習をしていなかったことも、逆に功を奏した。シーズン中の疲れが抜け万全のコンディションで試合に臨み、後半から出場。そこで、2度のビッグゲイン、さらに、トライも奪って、大きなインパクトを残した。同じくトライアル生として出場したラグビースクールから高校までチームメイトの下地氏とともに、翌日、チームマネージャーの藤高之氏から合格の連絡を受けた。
子どもの頃から憧れであり、雲の上の存在だと思っていたスティーラーズへの加入が決まり、長崎氏は「運が良かったです」と謙遜するが、その試合でもっとも観客が湧いたのが長崎氏のトライシーンだったと付け加えておこう。
 同期入団は、前述の日本大学出身の下地大朋、近畿大学出身の大西優希、同志社大学出身の西林宏祐、天理大学出身のトニシオ・バイフ(現・NTTドコモレッドハリケーンズ大阪)、京都産業大学出身の山下楽平。ルーキーイヤーは出場機会に恵まれなかったが、2015年度シーズンは、指揮官を務めたアリスター・クッツェー氏に、ワークレートの高さが認められ、メンバー入り。「ラグビーワールドカップ2015イングランド大会」が開催されていたため、代表メンバー不在の大会ではあるも、「トップリーグ プレシーズンリーグ2015」では準決勝、決勝と「2番」をつけて出場し、優勝に貢献した。174cm、100kg(入団当時)。フッカーとして、決して体格に恵まれていたわけではない。しかし、その分、誰よりもトレーニングに励んだという自負はある。そうして、7年、一緒に入団した同期は、気がつけば山下だけに。現役時代を振り返り、長崎氏は、「サイズも能力もない中で、7年間もよく頑張ったと思います」と、後悔はない。

がむしゃらにやってきた現役時代。2015年度シーズンはプレシーズンリーグを含め10試合に出場した。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

『教える』って難しい!

 2021年7月、アカデミーコーチとしての長崎氏の第2のラグビー人生がスタートした。
このコベルコ神戸スティーラーズアカデミーとは、ラグビーの“基本”を兵庫県で活躍する日本ラグビーの次世代を担う子供たちに伝え、世界で活躍できる選手を育成したいと考えて創設され、小学5・6年生の小学生コース、中学1年〜3年生の中学生コースからなる。本来ならば、2021年4月から開始の予定であったが、緊急事態宣言により延期となり、7月に生徒のセレクションが行われ、10月から始動。4度のセレクションには、小・中学生あわせて計100人以上が集まった。その合否を、アカデミーコーチを務める当時、チームのアシスタントコーチ(現在はアタックコーチ)の森田恭平氏と二人で決定した。長崎氏は「合否の振り分けが一番大変でしたね」と回想する。できることなら全員合格にしたい。しかし、スティーラーズアカデミーは、能力が高い選手のための、いわばラグビーの『進学塾』。一定の能力に達していない選手は不合格にしないといけない。映像を見ながら、合否の判定を下し、小学生コース33人、中学生コース38人を決定。練習は、毎週水曜日、小学生は17時30分から18時45分まで、中学生は19時から20時15分まで、どちらも75分のクラスだ。
 練習がはじまり、ぶつかったのは『教える』ということの難しさ。現役時代に、普及活動の一環でラグビー教室に指導者として参加することはあったが、教えるというよりも、ラグビーを楽しいと思ってもらえるよう、遊びの要素を盛り込んだメニューが中心だった。ましてや、中学生を教える機会は皆無に等しかったと言う。体育の教員免許は取得していたとはいえ、ラグビーのコーチングはまた別物。
「スキルをどうやって言葉にしたらいいのか、感覚を伝えるのに苦労しました。今も、この部分はこれで大丈夫かな、伝わるかなと考えながら教えています」
また、緊急事態宣言の発出により練習を中止せざるを得ない状況にも直面し、練習の振替などの調整にも翻弄された。2月26日(土)には、リーグワン第7節NTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦の前座試合として、RH大阪のアカデミーとの練習試合を予定していた。しかし、スティーラーズにコロナ陽性者が発生したことにより、リーグワンの試合自体が中止に。
「当時の中学3年生は試合を経験することなく、アカデミーを卒業することになりました。試合をさせてあげたかった…。その気持ちはずっと残っていますね」
アカデミー1年目は、コロナの影響が大きく、練習も予定していた6割程度しか行えず、心残りも。

アカデミー生の成長を間近で見られることにやりがいを感じている。「試合でこんなことができた!と報告を受けるのも嬉しいですね」 【コベルコ神戸スティーラーズ】

軌道に乗り、見えた課題も。

 第2期生は、1期生がそのまま持ち上がり、小学5年生を新たに募集。コーチ陣に関しては、森田氏と、SCIXラグビークラブで指導経験のあるOBの大石嶺氏の3人体制だったのが、現役を引退し今シーズンよりスティーラーズのコーチとなった平島久照氏、橋本大輝氏、さらに、リクルート担当の松井祥寛氏、OBの濱島悠輔氏が加わった。
「コーチが増えたことで、アカデミー生全員に目が行き渡るようになりましたし、練習もよりスムーズに行えるようになりましたね」
現役選手も、1年目と変わらず、よく顔を出してくれる。特に、日和佐篤や山下裕史の参加率は高い。
「選手から指導を受けている時のアカデミー生の目が、いつも以上に真剣で。自分の練習や体のケアもある中でアカデミーのために時間を割いてくれて、選手には感謝しかありません」
アカデミー生から要望が多かった試合もNTTドコモレッドハリケーンズ大阪、花園近鉄ライナーズのアカデミーや、兵庫県外のラグビースクールと実施できている。
今の課題は、現状では第1期生が持ち上がるシステムになっているので、当時のセレクションでは不合格になったが、その後、成長した子どもたちを受け入れる方法がないということ。
「中学生コースに上がる前に、セレクションを行うなど考えていかなくてはいけません」と、解決策を模索する。

アカデミーから世界で活躍する選手を。

 長崎氏はアカデミーコーチと並行して、普及活動も担当。アカデミーの練習日以外は小学校でのラグビー教室やイベント等での指導などに精を出す。普及活動の一環として、今年6月11日、12日、灘浜グラウンドにて小学生ラグビー大会「スティーラーズカップ2022」を開催した。参加したのは、兵庫県下の16チームの小学6年生。詳細については、公式ホームページにて確認していただきたいが、
(https://www.kobesteelers.com/news/event/2022/06/2022-10.html)
監督、コーチが選手を怒ること、指示をすることを禁止することやすべての選手にプレータイムを与えることなどの特別ルールを定め、どのチームも2日間で5試合以上できるように工夫を施した。長崎氏は、各チームとの調整やルールの策定など、大会運営責任者として企画から携わった。
「大会の3ヶ月ほど前から準備に取り掛かりました。スティーラーズの看板を背負って行う初の大会だったので、プレッシャーもありましたし、関係者が多くて取りまとめなど大変でしたが、『特別ルールのお陰で子どもが試合に出ることができた』『子どもたちが今まで見たことがないくらい良い顔をしていた』などの声をたくさんいただいて、開催して良かったと心から思いました。大会が終わった後の達成感はひとしおでしたね。スティーラーズカップは、今年だけでなく、今後も続けていきたいと思っていますし、節目の大会では、県外のチームにも参加してもらうなど、今から構想を練っています」
 アカデミーコーチに、普及活動に、現役時代同様、懸命に取り組む長崎氏に、今の目標を聞いた。
「目標は、リーグワンでNo.1のアカデミーになることです。スティーラーズのアカデミーは、周辺地域にスクールが多いということもあり、ほかのリーグワンのチームのアカデミーと違って、少数精鋭です。アカデミー生が何を求めているかを把握し、より成長できるようにしていきたい。そのために彼らにアンケートを取って、意見をもらったりもしています。アカデミー生の成長を手助けし、いつか彼らがスティーラーズに入団してくれたら最高ですね。そのために僕も頑張ります!」
自身が小学生の時にスティーラーズに憧れを抱き、そしてチームの一員となったように、アカデミー生から第2、第3の長崎健太郎が出てくることを願ってやまない。
文/山本暁子(チームライター)

スティーラーズのアタックコーチを務める森田氏と相談しながら練習メニューを作成する。ほかにも、アカデミーのマネジメント業務もあり、デスクワークも意外と多いのだとか。 【コベルコ神戸スティーラーズ】

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著者プロフィール

兵庫県神戸市をホストエリアとして、日本最高峰リーグ「NTTジャパンラグビー リーグワン」に参戦しているラグビーチーム「コベルコ神戸スティーラーズ」。チームビジョンは『SMILE TOGETHER 笑顔あふれる未来をともに』、チームミッションは『クリエイティブラグビーで、心に炎を。』。 ホストエリア・神戸市とは2021年より事業連携協定を締結。地元に根差した活動で、神戸から日本そして世界へ、笑顔の輪を広げていくべく、スポーツ教室、学校訪問事業、医療従事者への支援など、地域活性化へ向けた様々な取り組みを実施。また、ピッチの上では、どんな逆境にも不屈の精神で挑み続け、強くしなやかで自由なクリエイティブラグビーでファンを魅了することを志し、スタジアムから神戸市全体へ波及する、大きな感動を創りだす。 1928年創部。全国社会人大会 優勝9回、日本選手権 優勝10回、トップリーグ 優勝2回を誇る日本ラグビー界を代表するチーム。

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