サイズを武器に、世界の『1番』へ。紙森陽太の流儀。

チーム・協会

【【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】】

リーグワンのチームの中で即戦力補強に成功している筆頭候補はクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、スピアーズ)だろう。
トップリーグ最終年とリーグワン元年に連続して新人王を輩出した慧眼は、今季も選りすぐりの新人を揃えた。
粒揃いの新人の中で最も身長の低い選手は、大型選手が居並ぶチームにおいて、いかに競争を勝ち抜き、世界へ羽ばたいていくのか。
プロップ(PR)紙森陽太選手。
「トーク力はありませんが、関西人の誇りを出して頑張ります」とはにかむ選手に『20の質問』を投げかけた。

(取材日:2022年8月19日)

紙森陽太(かみもり ようた)/1999年4月26日生まれ(23歳)/大阪府出身/身長172cm体重105kg/大阪桐蔭高校⇒近畿大学⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2022年入団)/ポジションはプロップ/愛称は「もり、もーちゃん、ようた、ヨーダ」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

トップレベルに適応するために

1.入団してからスピアーズの印象は変化しましたか?
ファミリー感があり仲の良い印象の通り、実際にすごく良いチームです。初めての関東なので緊張していましたが、(根塚)洸雅さんと(山本)剣士さんが関西弁で話しかけたり「行け行け」と促してくれたりして安心させてくれました。松井丈典さんは大人びて見えて怖そうでしたが、接してみたら優しかったです。
大学では「上下関係は邪魔になるだけ、意見しやすいようにフランクにしよう」というチーム作りをしていました。
スピアーズも締めるべき時には締まりますが、フランクで良い空気感です。

2.スピアーズの一員になったと感じた瞬間は?
チームウェアに袖を通して練習に入ったときです。ジャージーはちょっと大きめが好きです。

3.入団してから驚いたことは?
身体の大きな選手がいっぱいいて、基本的には見下ろされる立場になったことです。
一番驚いたのは、やっぱりオペティ・ヘル選手。スクラムを組むと胸の厚みがすごくて、「でかすぎやろ!」と感じます。

4.実際にプレーをした感想は?
コンタクトやフィジカル、試合展開のスピードなど、明らかにレベルが高くなりました。

5.入団して初めに取り入れたことは?
ありきたりな答えですが、すぐになじめるように、チームのシステムやサインを正しく覚えることです。
少し人見知りもあり受け身なタイプでしたが、積極的に話しかけるようにしてコミュニケーションも頑張っています。

6.同期メンバーを一言で表すと?
「力(ちから)」でしょうか。身長も体重も大きくて、めちゃくちゃパワーがあります。一番「力(りき)」なのは、アシペリ・モアラ選手です。

7. 社業はいかがですか?
ミスが無いか繰り返し確認することの重要性を学びました。
(田村)玲一さんと千葉(雄太)さんとは、部署は違いますが、同じ事業所に所属しています。一緒に朝練して隣接する職場へ出勤していた玲一さんが(引退して)クラブハウスからいなくなって、さみしいですね。

同期選手は「大物」が揃う。左から、アシペリ・モアラ選手、木田晴斗選手、紙森陽太選手、押川敦治選手、福田陸人選手、ハラトア・ヴァイレア選手。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

紙森家の家業

8.新人で1番!とアピールするなら?
スクラム!ぱっと浮かびました。
ポジション柄、自信を持つべきだと思いますし、同期で1番という自信があります。

9.PRというポジションやスクラムのこだわりは?
低さです。身体が小さい分、大きい選手よりは低くできる。小さいことは弱みじゃなくて強みだと捉えています。
「縁の下の力持ち」としてラックに頭を突っ込んで相手をめくる泥臭いプレーがPRの真髄です。
仲間意識が強くて絶対に仲が良いところも魅力ですね。

10.「世代No.1 PR」という評価をどのように受けとめていますか?
他の選手の方がすごいと思っているので、入団発表の記事を目にしたときは恥ずかしかったです。
その評価に恥じないように、これから日本一を目指していきます。
―――チームには代表候補のPRが揃っていますね。
同じポジションの海士選手は、常に全力。
試合でも前半から全力でプレーして、どんなに泥臭いことでもしっかり仕事を全うするところがすごいです。
海士選手の姿勢を見習い、技術を盗んで、僕も求められたプレーをできる選手になろう、と思わせてくれる先輩です。

コーチや仲間と作り上げるスクラムに自信を持つ。左から、紙森選手、後藤満久コーチ、山本剣士選手、海士広大選手、才田智選手。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

11.ご家族は?
父、兄、僕、弟、全員がPR。完全に家業です(笑)。
兄は機動力タイプで結構走ります。僕と弟はスクラムで頑張って愚直にプレーするスタイルです。
兄175cm、僕172cm、弟168cmとちょっとずつ小さくなっていくので、マトリョーシカみたいです(笑)。

12. お父様は紙森選手のプレーをどのようにご覧になっていますか?
高校生の頃に教えてほしくて意見を求めたこともありますが「大丈夫、良かったよ」と返されただけ。「しっかり、真面目に、ひたむきにプレーをしていれば、結果は自ずと出ます」と助言してくれて、「自分らしく好きなようにやりなさい」と、いつも温かく見守ってくれていました。
母は常にけがの心配をしてくれます。
良い親です。

13.オフシーズンは?
家族全員で実家に集まって、近況を報告しながらゆっくり過ごしました。
離れていたせいか、ご飯の量に驚きました。一皿がめちゃデカくて、何品もあって、「肉どーん!サラダどーん!」みたいな。「俺たち兄弟めっちゃ食っててんな」と言いながら空になって、食べた後に「やばい、食い過ぎた」と気付く感じでした(笑)。

緊張と冷静を抱えて未来を見つめる

14. 入団後の会心のプレーは?
非公開の練習試合ですが、後半から出場してペナルティを獲ったブレイブルーパス戦のスクラムです。
スピアーズとして初めての試合出場、初スクラムで、「良いアピールをしたい」と、めちゃくちゃ気合いを入れていました。

15. 公式戦初出場となった第14節 2022年4月23日のコベルコ神戸スティーラーズ戦へのメンバー入りが決まったときの心境は?
すごく嬉しかったのと…、この試合は特に色々と考えて、一週間ずっと緊張しっぱなしでした。
緊張が解けたのは試合に出てから。「よっしゃ!やるしかない!」と覚悟を決めて出ていきました。

16. 翌節のウォームアップ中に負傷したときの心境は?
怪我をした瞬間は「あぁ、やってしまった、試合には出られへんな」と残念な気持ちになりました。担架が用意されたので「結構大けがやな」と分かり、運ばれているときには「怪我してしまったならしょうがないな」と切り替えられましたね。落ち込んでも何か生まれるわけではありませんから。自分にとって一番いいことだと思ったので次にするべきことを考えていました。
けがの経過は順調だと言われています。シーズンには間に合うと思いますが、焦って悪化させないようにとは考えています。

2022年5月1日は特別なジャージを着て挑んだホームゲームラストマッチ。前節よりも長くフィールドに立とうと意気込む試合の直前に負傷でグラウンドを後にした紙森選手だが、勝利を祝う集合写真に笑顔で写り、度量の大きさを見せた。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

仲間を信じて壁を越える

16. 入団してからの自分に点数をつけるとしたら?
60点くらいじゃないですかね。
もっと成長できるという期待を込めて伸びしろの40点を残しました。

17. 新シーズンに向けて磨きをかけたいことは?
メンタル面です。
スピアーズに入団してから「チームのために」という責任感からミスへの恐れが強くなりました。
緊張から生まれるネガティブな思考はプレーの邪魔になるので、試合前に緊張を高めすぎないように、程良く緩和してポジティブに試合に挑んでいきたいです。

18. スピアーズの一番の魅力は?
魅力はたくさんありますが、フォワードで力強くゲインを取ってボールを回して、バックスがスピードを活かして展開して、というアタックです。

19. 学生時代の一番の思い出は?
近畿大学として9大会ぶりに大学選手権への出場を果たして、生まれて初めて秩父宮ラグビー場でプレーをしたことです。
―――大阪桐蔭高等学校も初の決勝へ導きましたね。
「このまま優勝するぞ!」と勢いづいていましたが、東海大仰星に負けちゃって。
準優勝でしたけれど、次の代で優勝してくれたので良かったです。

20.各世代で壁を破ってきた勝因は?
チャレンジャーの立場がすごく好きで、その姿勢でいられるチームが合っていると思います。
スピアーズを選んだ一番の要因はチームの雰囲気が良かったことですが、チャレンジャーの意識を大事にできるところもいいですね。
今まで勝てなかったチームに勝つときには、自分たちを信じる強い力が必要です。選手全員で頑張っていきます!

スピアーズのジャージーを着て初めての出場となったのは2022年3月20日の東芝ブレイブルーパス東京との練習試合。気合いの入った低いスクラムで相手を圧倒した。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

Same Face

フラン・ルディケHCによるアスリートへの賛辞に「Same Face」という表現があるという。
パフォーマンスと感情を高いレベルで安定させ、いつも同じように良い顔をしている選手を評価した言葉だ。
試合直前の負傷に周囲が動揺する中で即座に切り替え前を向いた紙森選手の胆力に触れて、その悟性の高さに敬服を禁じ得なかった。
どんな場面にも動じたり表情を変えたりすることなく、導いた最適解に専心する流儀は、紙森選手に備わるトップアスリートの資質をさらなる高みへ引き上げるだろう。

仲間を想えばこその責任感や緊張感を味方に、ミスへの恐れをチャレンジへの期待へと昇華させて、若きPRが世界を笑顔で満たす日は近い。



文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ オレンジリポーターHaru
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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