「2022年度 全国バスケットボールコーチクリニック」開催報告

チーム・協会

【© Japan Basketball Association.】

 2022年 7 月24日 (日)、アリーナ立川立飛 (東京都立川市) にて、「2022年度全国バスケットボールコーチクリニック」を開催いたしました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、一昨年度は中止、昨年度はオンライン開催となった本クリニックですが、今年は2019年以来となる対面での開催が実現しました。まずは、実施にご尽力いただいた関係者、出演者、そして全国からお集まりいただいた約400名の受講者のみなさまにお礼を申し上げます。
 今年度のクリニックは、NBA クリーブランド・キャバリアーズのアントニオ・ラングコーチを講師に迎え、「日本人選手が世界で活躍するために必要なファンダメンタル」というテーマで実施されました。
 現在、キャバリアーズのアシスタントコーチを務めるラングコーチは、2001年より三菱電機男子バスケットボール部 (現・名古屋ダイヤモンドドルフィンズ) でプレーし、現役引退後は同チームのアシスタントコーチ、ヘッドコーチを歴任。チームを離れたあとは外国人初の JBA 強化委員に就任した経歴を持つ、日本のバスケットボール界と非常に縁深い人物です。クリニックの冒頭では、13年間の在日経験を生かした流暢な日本語であいさつし、クリニック終了後には、会場を訪れていたかつてのチームメートやライバルとの再会を喜ぶ一幕もありました。
 日本と世界のバスケットボールの双方を熟知したラングコーチならではのテーマが設定されたクリニックは、オフェンス編とディフェンス編の 2 部制で実施されました。今回の受講者は、国内のトップコーチライセンスにあたる S 級コーチからコーチライセンスを持たない方まで非常に幅広く、指導するカテゴリーも多様であることを踏まえ、ラングコーチは「カテゴリーによって必要なものは異なるけれど、今回のクリニックが色々なやり方を知るきっかけになってくれればうれしい」とスピーチ。カテゴリーやレベルを問わず大切な考え方や、それらに応じてアレンジできるメニューを中心にレクチャーしてくれました。
 クリニックはオフェンス編とディフェンス編に分けて行われ、オフェンス編の冒頭で、ラングコーチはフォーカスすべきポイントについて説明しました。
「オフェンスもディフェンスも、練習メニューを組むにあたって一番大切なのは、” 基本的なコンセプト ” を設定し、それをプレーヤーが落とし込みやすい形でメニュー化することです。例えば、オフェンスの軸をピックアンドロールとしたいのに、ピックアンドポップをやりたがるプレーヤーがいたとしたら、このプレーヤーにロールのプレーを習慣づけさせられるようなメニューを用意しなければなりません。私でしたらシューティングドリルの中にロールのプレーを組み込み、繰り返しプレーさせて身に付けさせます。
 また、どのカテゴリーにおいても、ポジションにかかわらずすべてのプレーヤーがシュート、ドリブル、パスができるようにならなければいけません。そして、オフェンスで特に重要になるのが、コート上にいるプレーヤー一人ひとりが、自分がどのスポット (場所) に行くべきかを理解していること。そういう意識を身に付けさせることを念頭に置いたうえで、シュート、ドリブル、パスの要素を組み込んだメニューを作ります」
 このような前置きを経て、ラングコーチは、ボールハンドリング、ドリブル、パス、シュート、トランジションといったオフェンススキルを磨くメニューを、1 人、2 人組、5 対 0、5 対 5 と段階を踏んで紹介。リングがなくてもできるハンドリングドリル、チーム練習の前にプレーヤーが自主的に取り組みやすいパスドリル、一つのコートで複数のプレーヤーが一気にできるシューティングなど、時間とスペースを効率よく利用できるメニューを、NBA やアメリカの実例を交えながら紹介しました。
 ドリルがより実戦的なものになるにつれて、ラングコーチはヒートアップ。デモンストレーターとして登場した大東文化大学男子バスケットボール部のプレーヤーたちを、自身の実演を交えながら熱く指導し、よいプレーが出たときには「verrrrrry goooood !」と大きな声で褒め称えました。
 第 1 部の締めくくりには、受講者からの質疑応答の時間が設けられました。「サマーリーグを見ていて、スクリーンの位置が以前より高くなったように感じたが、なぜなのか?」「レイアップシュートはブロックされないようオーバーハンドにしたほうがいいのか?」といった質問のたびに、ラングコーチはデモンストレーターたちをコートに呼び戻して、情熱的に回答してくださいました。
 第 2 部のディフェンス編では、ラングコーチはまず、ボールマンディフェンス、オフザボールのディフェンス、ポストディフェンス、ヘルプディフェンスの基本スタンスを一つひとつレクチャーし、これらのポジショニングを身に付ける基本的なメニュー「シェルディフェンス」を紹介しました。
 NBA のチームでも毎日やるというこのメニューでラングコーチが重要と説くのは、常に声を出してプレーすること。「自分がいる場所、すること、状況など何でもいいです。こうやって声を出すことでボールの位置を常に確認する意識が身につきます」。オフェンス編で行われた 5 対 5 で「ディフェンスはもっと声を出してコミュニケーションをとらないと」と指摘されていた大東文化大のプレーヤーたちも、アリーナ内に響き渡るような声をあげて、精力的にドリルに取り組んでいました。
 また、5 対 5 のディフェンス練習では、競争を意識付けるための、点数をつけるメニューを紹介。ターンオーバーを誘ったら 1 点、オフェンスリバウンドを 2 連続で取られたらマイナス 2 点というルールが設けられたこのメニューを実施している際、大東文化大のプレーヤーたちがデモンストレーターの立場を越えて、本気で勝負に興じていたのが印象的でした。
 コンディショニングを兼ねたシューティングメニューで 1 日の練習が締めくくられると、再びの質疑応答に応じた後に、ラングコーチは以下のようにスピーチしました。
「みなさんは様々なカテゴリーの選手を教えていると思いますが、共通して重要なのは、教えたいシステムがどのようなもので、それをどのように彼らのレベルに合わせて教えるか。たとえばワンハンドでパスができないプレーヤーがいるとしたら、どのような練習をすればできるようになるかを考えることだと思います。
 私はプレーヤー、コーチとして13年間日本にいました。そしてこの13年間こそが、今 NBA でコーチをする礎になっていると思います。今、日本人でも NBA に到達しているプレーヤーが増えていますが、次のステップは、みなさんのようなコーチが NBA のコーチになること。私は日本人ではありませんが、自分のバスケが日本で始まったという気持ちが強いです。これからも、このようなプログラムを通して、みなさんと一緒に強い日本を育てていければと思います」
 JBA では今後も、ラングコーチのような素晴らしい知見を持つコーチたちの力を借りながら、「世界に通用する指導者」を育てることを目指していきたいと考えます。

<参加者のコメント>
日本のどのカテゴリーだろうと NBA だろうと、行うメニューには共通するものが多いのだなと感じました。ただし、それを行う際の意識、質に大きな違いがあるのだと再認識させられたため、自分がバスケットボールに関わる際は、レベルに合わせて何を意識するかを考えていきたいです。
 また、大東文化大学という日本トップの大学生の練習を間近で見られてとてもありがたかったです。
(コロナなどで大変な)この時期に (クリニックを) 開催していただきありがとうございました。
 コロナ禍なので参加を迷いましたが、NBA のアシスタントコーチであるアントニオ・ラング氏の話が聞ける機会はそうそうないので、今回参加できて良かったです。
 オフェンス、ディフェンスのファンダメンタルやシチュエーションを交えた NBA でも取り組まれている練習を学べたので良かったです。自分もチームに戻ったら練習に取り組もうと思いました。
 今後も機会があれば参加したいです。ありがとうございました。
アントニオコーチの熱量や指導の細かさを生で見ることができて素晴らしい機会でした。何より、プレーヤーの変化を感じる、それを楽しんでいるコーチ。その一体感を作り出すコーチとしての力を、特に感じました。
 また NBA での基準の話は、とても参考になりました。NBA 選手でも「できていない、やってほしい」ことへの取り組みは、コーチとして意識付けして繰り返し行うのだと知りました。育成年代にはやったほうがいいこと、やるべきことがたくさんありますが、チームやプレーヤーの特徴を捉えたうえで、それらにいかにして取り組んでいくか。しっかりと対象に合う形を見つけて実践していきたいと思いました。

Antonio Lang (アントニオ・ラング) コーチ 【© Japan Basketball Association.】

コーチクリニックの様子 【© Japan Basketball Association.】

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