■特別対談「異色のコラボレーション。ふろん太が深海生物に食べられた!?(前編)」

川崎フロンターレ
チーム・協会

【© Shinki Takazawa】

クラブ創立26(フロ)周年となる今シーズンに新たなプロジェクト始動した。その名もJAMSTEC×川崎フロンターレ「深海プロジェクト」。これは、ふろん太を深海に連れていき、かまぼこに変身したふろん太が深海生物に食べられるか実験を行うというもの。果たして、結果はどうなったのか。そもそも、なぜ異色のコラボレーションが実現したのか――。ご協力をしていただいたJAMSTECの超先鋭研究開発部門(X-star)の主任研究員の豊福高志さん、鈴廣かまぼこの常務取締役本部長の鈴木智博さん、企画を立案したフロンターレのタウンコミュニケーション部 プロモーションリーダーの若松慧さんの3者特別対談、前編、後編の2本立てで紐解いていきます。(後編はこちら→https://cms.sportsnavi.co.jp/blog/preview/4cb1245c-37e2-4cb2-b068-0b544aa748d8)

「最初は常軌を逸した依頼が来たなと思いましたよ(笑)」(豊福)

JAMSTEC内に展示されている有人潜水調査船「しんかい6500」の1/1模型 【© Shinki Takazawa】

――3者が異色のコラボレーションをしました。どんな経緯で実現したのでしょうか。

若松「我々フロンターレは今年でクラブ創立26(フロ)周年を迎え、そこにフォーカスしていきたいと考えてきました。過去には国立極地研究所にご協力していただき、ふろん太が南極に行ったり、JAXAとコラボをして宇宙と交信もしてきました、じゃあ次はなんだろうとなった時に深海、海底にふろん太を連れていけないか、となったのが始まりです。そう決まれば深海と言えばJAMSTECさんなので、早速相談させていただきました」

豊福「そうでしたね。実はもともとJAMSTECは以前からJリーグさんと一緒に何かをやりませんか?と提案していました。海の生態系や地震、津波などの災害、気候変動は他人事ではなくて社会共通の自分事の問題なので、サッカーを通して皆さんが知るキッカケになればなと思っていた経緯がありました。もしも、今回のフロンターレさんからのご相談が試合への集客イベントという、ご依頼だった場合は公的な研究機関として協力は難しいのですが、Jリーグの理念を体現するように、フロンターレのみなさんが地域社会のためにできることを『地域やサポーターに価値を提供したい』という熱意と私たちも『科学技術の視点から社会に価値を提供したい』という思いが一致したタイミングで今回、実現したのだと考えています」

若松「そうだったんですね」

豊福「でも、最初は常軌を逸した依頼が来たなと思いましたよ(笑)。サッカークラブが深海に行きたい意味が分からなかったですね。その上で話を聞いていくと、すでに宇宙を制し、南極も制して、残すは深海だと。日本を代表するサッカークラブは違うなと思いました。最初は何か物を深海に持って行って、帰ってくればいいのかなと思っていたけど、どうやらそうではない…(笑)。ふろん太を連れていくのには、『しんかい6500』という世界的にも優秀な有人潜水調査船を使えば深海に行くことはできます。26(フロ)周年だから26mでいいのかなと思ったけど、『できれば6500mですかね』と言われて、なかなか欲張るなって(笑)」

若松「すみません(笑)」
豊福「じゃあ、『しんかい6500』にふろん太を乗せて深海に行こうと話をしていた時に、ただ連れていきたいわけではないみたいなんですよ(笑)」

若松「深海は水圧もあるし、形の変化もあると思います。深海の生き物が近づいていくるなど、何か目で見て変化するのが分かることができればいいなとJAMSTECさんとミーティングを重ねていました。その雑談の最中に実際に潜った元・副パイロットの方が『ふろん太を食べさせるのはどうなんですか?』と提案をしてくれたんです。それがしっくり来たんです」

豊福「たまたま僕は、その瞬間だけ席を外していて戻ったら、そんな話しをしていたから『何を言っているの?』ってビックリしたのを覚えています。それまでは深海は圧力が凄い、水が冷たいと話していたのに、急にふろん太を食べさせることになっていたから(笑)。どうやったら食べられるの?って(笑)」

若松「食べさせるってなんだろう、と考えた時に同じ魚で作られている、かまぼこはいいんじゃないかと」

豊福「そうそう。我々が深海で生き物を誘き出す時に魚の切り身を使っているのですが、ふろん太の形にこだわるのであれば、形を作れるものじゃなければいけませんから。そうなると、かまぼこがいいんじゃないかという結論になって、フロンターレさんが『かまぼこと言えば小田原にかまぼこを作っている会社があるぞ』ってなったんです」

――ここで鈴廣かまぼこさんとの繋がりが出てくるんですね。

鈴木「そうなんです!」

豊福「鈴廣かまぼこさんは、湘南ベルマーレさんのスポンサーをやっているけど、社内では議論にはならなかったんですか?」

若松「まず、鈴廣かまぼこさんを紹介してもらえないかとベルマーレさんに相談しました。ちゃんと仁義を切るというか、長年、神奈川県でしのぎを削ってきた仲間でもあるので、連絡を入れました」

鈴木「あの連絡が来た時は衝撃でしたよ(笑)。私たちはベルマーレさんのスポンサーでもあるので、ベルマーレさんからフロンターレさんにお繋ぎしたい件があると来た時、最初は何か悪さでもしたのかと思いました。でも話しを聞いていくと海底がどうのこうのって…、ハテナでしたよ(笑)。クラブ創立26周年は分かるんですけど、よく分かってなかったですね(笑)」

若松「なので、会って話さないと分かってもらえないと思い、JAMSTECとフロンターレで直談判をしに小田原の本社まで行って、ふろん太型のかまぼこを作ってもらえないかと相談をしました」

鈴木「もう大の大人が熱烈に来るので断ることもできませんでした(笑)。熱意が凄かったので、それが乗り移って、できる範囲でやろうとなりました」

魚にかまぼこを食べてもらうために施された工夫

【© Shinki Takazawa】

――かまぼこは人間に食べてもらうために製造していると思います。魚に食べてもらうためには、どんな工夫をしたのでしょうか。

豊福「ちなみに魚にあげたことはあったんですか?」

鈴木「いやいや、ないですよ(笑)」

豊福「だから実際に食べるんだろうかという疑問がありました。話題で盛り上がったはいいけど、深海に持って行って誰も食べなかったら事だぞと。だから新江ノ島水族館さんで実験をしようということになり、僕が『一番大きな水槽を使ってかまぼこを魚にあげてみてください』と相談をしました。そしたら、新江ノ島水族館と関係性の深いクラブがベルマーレさんだったと(笑)。だから、この場にベルマーレさんの方がいらっしゃらないのが不自然ですよね(笑)。本当にベルマーレさんも色々な相談を受けてもらったりと、頑張っていただいたと思いますよ」

若松「ベルマーレの水谷社長と鈴木さんは繋がりがあるので直接お話していただきましたよね」

鈴木「はい。この件に関しては、水谷社長が『Jリーグが盛り上がるのであれば、なんでもやってくれ!』って言ってくれたんです。本当に有り難い話しです」

若松「Jリーグクラブを活用しながら、かまぼこの認知が進むのでれば、どんどんやってくださいという想いもあったと思います。器のデカさを感じましたね」

豊福「それに鈴廣かまぼこさんは、アスリートを応援していますよね」

鈴木「ベルマーレさんへのサプライ以外にも長友選手とコラボをした、かまぼこを作ったりしていました。かまぼこは吸収性の高いタンパク質だと発信していきたいんです。そこからベルマーレさんの選手たちに食べてもらったりしてもらっていました。だから、フロンターレさんとも繋がりで実現した、このプロジェクトを成功させたいと思いが強かったです」

――結局、新江ノ島水族館で実験をした、かまぼこは魚に食べてもらえたんですか?

豊福「これが…(笑)。意外でしたよね(笑)。食べるだろうと思っていたけど、口にまでは入れてもらえるけど吐き出したんですよ(笑)。本当にビックリした…。しかも、あれは良質な、かまぼこだったんだよね」

鈴木「人生というか、社史に乗るというか…(苦笑)。157年やってきて魚に食べてもらえないという…(笑)。すごく悔しかったです」

豊福「でも次の日にはなくなっていたんですよ。だから、誰かは分からないけど水槽にいる魚が食べてくれたので、深海でもいけるんじゃないかと思いました。そういった中で、新江ノ島水族館の飼育員さんが、重要なのは硬さ(弾力)と匂いだよ、とアドバイスをしてくれました。なので、鈴木さんに『かまぼこをこうしてこい』という依頼が若松さんからあったと思います」

鈴木「本当にあの実験が終わった後、どんな形にするのか、大きさや硬さ。あとは水圧に耐えられるかどうかとか。そして自分たちが作れるのかどうかを真剣に取り組んでいきました。まず、硬さは魚種由来で弾力が出るか出ないのか、もしくは強いのか。匂いは調味料や魚のエキスを強めに入れるのかを考えてやりました。あとは、絵面として『ふろん太だ!』とか『かまぼこじゃん!』と見て分かるように作ることを意識しました。一番食べやすいのは丸めて一口サイズにするのが食べやすいと思いますけど、それでは意味がない。だから、ふろん太くんぽい形で作れるようにと頑張りました」

――かまぼこを、ふろん太型にするのは相当大変だったのではないでしょうか。

「どういうふうに形を作ろうかなとなった時に職人が手で作るのか、それともフード3Dプリンターにすり身を流し込んでふろん太を作れないか検討をしていました。そこで、慶應義塾大学メディアデザイン研究科Future Craftsプロジェクトの山岡先生という方にフード3Dプリンターで作れないか相談をしに行きました。流石に小さいサイズでしか作れなかったので、体の部分を樹脂で、顔の部分だけが、かまぼこのふろん太くんを作ることになりました。実際に深海に持っていったのは、ふろん太くんと、板かまぼこにフロンターレの焼印を入れたものと、フード3Dプリンターで平面にした魚やカニと『しんかい6500』の柄のかまぼこを持っていきました」

“顔だけかまぼこ”のふろん太がこちら。 【© Shinki Takazawa】

フード3Dプリンターで作成した魚型のかまぼこ。なんだか可愛らしいですね。 【© Shinki Takazawa】

世界初の板かまぼこチケット誕生!?

J1リーグ第24節 横浜F・マリノス戦で入場ができる、かまぼこ板チケット。とてもシュール。 【© KAWASAKI FRONTALE】

――その焼印入りのかまぼこは販売したら売れそうですね。

豊福「これは売るんでしょ?」

鈴木「実はチケットにしちゃいました」

――チケットですか!?

若松「はい。8月7日に開催される横浜F・マリノス戦で板かまぼこチケットといって、100席限定で板かまぼこにQRコードを印字したチケットを販売しました。そして、販売当日に即完しました(笑)」

豊福「本当に!?(笑) 凄いね。新しい商品開発がされたということですよね」

若松「Jリーグ史上初、世界初のかまぼこ板チケットです。かまぼこ板のQRコードを『ピッ』てやって試合会場に入っていくと(笑)」

豊福「まったく新しいタイプのかまぼこだし、新しいタイプのチケットですよね」

若松「特典として、フロンターレのロゴが印字された実際に深海に連れて行ったかまぼこもプレゼントします」

豊福「これ売る時は言ってくれないと、俺が買えないじゃん(笑)。ぜひ印字されたかまぼこを食べたいです。また作ってもらわないと」

若松「鈴廣かまぼこさんとは、深海に持っていくためのかまぼこ作成から関わっていただいて、派生をしてかまぼこ板チケット販売と、当日は通常のかまぼこも販売するのですが、1000円以上買ってもらった方に千社札という形でかまぼこ板に選手の名前が印字された特製のかまぼこ板もプレゼントします」
豊福「こんなに、かまぼこのこと考えたことないよね(笑)」

若松「今、自分の会社の机に鈴廣かまぼこさんの、かまぼこの本とJAMSTECさんの深海魚の本がズラーっと並んでいますよ(笑)」

鈴木「最高ですね(笑)」



そんなこんなで実現した異色のコラボレーション。次回はついにふろん太型のかまぼこを深海に持っていて、どうなったのか!? について話していただきました。果たして、どんな実験結果になったのでしょうか…。(後編はこちら→https://sports.yahoo.co.jp/official/detail/202208070038-spnaviow)



■プロフィール
・JAMSTEC
超先鋭研究開発部門(X-star)の主任研究員
豊福高志(とよふく・たかし)

【© Shinki Takazawa】

静岡大学大学院において博士(理学)取得。主な研究テーマは海洋に住む有孔虫という星砂の仲間が炭酸カルシウムの殻を構築する過程の解明。2019年度から2022年6月まで研究開発の社会連携や広報活動などを担った。
・鈴廣かまぼこ
常務取締役本部長
鈴木智博(すずき・ともひろ)

【© Shinki Takazawa】

1865年に創業された老舗の鈴廣かまぼこの11代目を背負う常務取締役本部長。新しい市場として若者をターゲットにした高たんぱく質食品としての開発を進めており、アスリートの補給食としてもサポートをしている。
・川崎フロンターレ
タウンコミュニケーション部 プロモーションリーダー
若松慧(わかまつ・けい)

【© Shinki Takazawa】

大学を卒業後、吉本興業株式会社に入社。マネージャー業務などを経て、株式会社川崎フロンターレに入社。オフィシャルグッズショップ、ボランティア担当を経て現職。ホームゲームイベントや、地域のホームタウン活動を務めている。
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著者プロフィール

神奈川県川崎市をホームタウンとし、1997年にJリーグ加盟を目指してプロ化。J1での年間2位3回、カップ戦での準優勝5回など、あと一歩のところでタイトルを逃し続けてきたことから「シルバーコレクター」と呼ばれることもあったが、クラブ創設21年目となる2017年に明治安田生命J1リーグ初優勝を果たすと、2023年までに7つのタイトルを獲得。ピッチ外でのホームタウン活動にも力を入れており、Jリーグ観戦者調査では10年連続(2010-2019)で地域貢献度No.1の評価を受けている。

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