【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】五十嵐カノア:今大会は、みんなの力でサーフィンを良いイメージにできたと思います

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【東京2020オリンピックメダリストインタビュー(写真:フォート・キシモト)】

 東京2020オリンピック1周年を記念して、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートのインタビューをご紹介します。(2021年7月取材)

五十嵐 カノア(サーフィン)
男子ショートボード 銀メダル

■すごいことをやったのかな

――銀メダル獲得、おめでとうございます。

 ありがとうございます。

――率直な感想はいかがですか。

 考える時間が足りなくて、ミックスな気持ちです(笑)。うれしさもあるし、悔しさもあるし、疲れたという気持ちもある。まだよく考えられてはいないです。
朝、選手村の部屋で起きて、部屋に、ベッドのすぐ横にメダルが置いてあって……、「夢なのかな」と自分でも思いました。最近の新しい夢がかなったということで、「オリンピックでメダルとって、すごいことをやったのかな」と思えてきました。

――東京2020オリンピックで初めてサーフィンが競技として採用されました。そして、最初のメダリストになりましたね。

 初めてというのは1回しかチャンスがないこと。オリンピックの競技になったタイミング、ちょうどいい年齢のタイミング、そして、ケガをしてないタイミング、とくに東京でのオリンピックというタイミング……すごいタイミングで全てまとまりました。本当にこのチャンスを逃したくないと思いましたが、その分、ものすごくプレッシャーにもなりました。そして、そのプレッシャーを今回楽しめたことは、一生忘れないでしょうね。

――2年前に『OLYMPIAN』でカノア選手にお話を伺った時も、「プレッシャーを楽しむ」ことを繰り返しおっしゃっていて、その言葉は今でも強く印象に残っています。今回オリンピックに出ること自体、プレッシャーがあったと思うのですが、ご自身はどのようにプレッシャーを楽しみましたか。

 オリンピックのプレッシャーは、はじめすごくネガティブなイメージがありました。僕は子どもの時からずっと「プレッシャーはない方がいい」と、そう思っていました。プレッシャーから逃げるようにしていたのですが、4年前からはプレッシャーがないと逆に寂しく感じるようになりました。プレッシャーがあるから、力が出たりモチベーションになったり楽しくなったりするのかなと。反対にプレッシャーがないと力が出ません。今回のオリンピックは、一番ピークのプレッシャーがあったからこそ、今までで一番いいパフォーマンスを見せられたかなと自分でも思います。

――スポーツをやっていると、ずっと勝てるわけではなく、負けて悔しい思いをすることもあります。でも、それがまた自分の成長につながりますよね。カノア選手はこれまで負けた時にどのように立ち直ろうとしてきましたか。

 そうですね。負けるのは自分にとってすごく厳しいこと。周りの友達や家族を含めてサポートしてもらっています。自分自身はすごく落ち込んでしまうタイプなので、トレーニングが止まらなくなってしまったり、休みもどんどん少なくなったりしてしまう。周りの友達が「夜ごはんを食べよう」と言ってくれたり、家族のサポートがあったりするからバランスがいい感じになっています。今日の夕方から、次の準備に向けてトレーニングを始めます。

――もう早速練習を始める約束をしているんですね。

 はい。

■ファンのメッセージは本当に力強い

――すごくストイックですね。今回、オリンピックが東京で、母国・日本で開かれました。どんな思いで臨まれましたか。

 本当にすごい経験でした。最初に選手村に入った時は「これがオリンピックなんだと」ものすごいインパクトでした。本当にオリンピックは本物で、他に比べるものもないと思いました。オリンピックでメダルをとったことで、「次は金メダルをとりたい」と思います。今大会は、他のサーフィンのアスリートと一緒に、みんなの力でサーフィンを良いイメージにできたと思います。その点では今回の目標をクリアできてうれしいです。

――オリンピックは、¬普通のサーフィンの大会と違い、いろいろな競技の人たちが集まり、いろいろな国の人たちが集まるというのも魅力の一つかと思います。スケートボードの堀米雄斗選手が開会式でカノア選手に会ったことをお話しされていましたが、違う競技の選手たちの交流について教えてください。

 サーフィンは個人競技のスポーツですが、オリピックではサーファーを含めてチームとして集まります。日本チームとして活動する際は、そのサポートはまた手厚さが違います。国全体、みんなで頑張ろうという結束力を感じました。
堀米選手とは前に一緒にメダルをとって一緒に頑張ろうと約束しました。堀米選手も金メダルとり、僕も銀メダルをとり約束が果たせました。さらに日本チームの結束力が出たと思います。

――新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大会が1年延びました。それからまた、本当に開催できるかできないかハラハラすることもあったと思います。開催できるとなっても、オリンピックに反対する人たちもいました。カノア選手はどのように向き合っていましたか。

 コロナ禍のことは難しいことでしたが、一番大切なのはみんなのセーフティーです。オリンピックを開催する側も準備に自信を持って、終わった後に「やって良かったね」とみんなに言ってもらえるように準備していたと思います。こんな大変な時にスポーツをみんなで見てつながるというのは特別なこと。とにかく世界に日の丸を見せたいと思いました。
とくに今回は日本人アスリートの成績が良く、日本のパワーが強いと感じました。みんなの笑顔を見られて、スポーツでハッピーになろうというメッセージはすごく強かったと思います。

――カノア選手のサーフィンも、皆さんに勇気を与えたと思います。

 それが目標でした。みんなに良いサーフィンを見せて、みんなにかっこいいなと思ってほしかった。その目標はクリアできたと思います。そして、メダルをとることよりもそれが一番大切だったと思っています。家族や友達の前でそれができたことは、オリンピックのパワーのおかげだと思います。日本のために、良い成績を収められたことはすごくうれしいです。

――本当だったらサーフィン会場にもっと人が集まって、大歓声の中でパフォーマンスしたかったですよね。今回は無観客でしたが、プレーをされていてご自身はどのように感じましたか。

 大会が始まる前からファンがいないことで寂しいかな、テンションが上がらないかもしれないなと気にしていました。でもその代わりに、SNSなどのメッセージからはすごく力をもらいました。SNSが盛んな時代だからこそ、ヒートに入る前に携帯電話で読むみんなからのメッセージがモチベーションになっていましたし、ヒートが終わったらまたみんなのメッセージを読んで、「今のプレーが良かったんだな」と確認していました。SNSを通じて、多くのファンの方々からいつもサポートしてもらっていると強く感じます。

――SNSは文字ですが、直接カノア選手にメッセージを届けられるので、ファンの皆さんからしてもうれしいことですし、また選手が直接読んでくださっているとわかれば皆さんも喜ぶと思います。

 そうですね。僕も、インスタグラムやツイッターがすごく好きなので、細かく見ています。ファンの方々のメッセージは本当に強い力があるものなので、読んで幸せになります。本当にありがたいと思います。

―― 一方で、勝負事をしているなかでのSNSに関しては、採点競技だからこそシビアな意見をぶつけられたり、負けた選手のファンから誹謗中傷を受けたり、悲しいこともあるのではないでしょうか。

 それは当たり前のことです。スポーツはバトルですから、それもまた面白いかなと思います。誰かが勝てば誰か負けるわけですから。そのファンの熱い気持ちをすごく感じられます。ブラジルの選手が負けたら、ブラジルのファンがメッセージで「なんだよ!」という感じで来ますが、それがスポーツの面白いところですよね。良いメッセージもあるし悪いメッセージもありますが、それは自然なことだと思います。

――活躍している人だからこそ、そういうメッセージが届くということですね。

 はい。それは全然構わないことです。一つのポジティブメッセージだけでは、僕も全然気づけないので。

■オリンピックは「本物」

視線はすでにパリ大会へ、「もう準備をしないといけません」と五十嵐選手は力強く語った 【写真:フォート・キシモト】

――堀米選手とお話をしていた時にも感じたことですが、スケートボードもサーフィンも世界中でいつも同じメンバーで戦うことも多いですよね。試合ではライバルですが、サーフィンを愛する仲間でもある。カノア選手はライバルたちのことをどのように考えていらっしゃいますか。

 スケートボードやサーフィンは、野球などのスポーツと比べたらまだまだマイナーなスポーツです。そのなかでも、昨日メダルを一緒にもらったオーウェン・ライト選手(オーストラリア)とイタロ・フェヘイラ選手(ブラジル)と一緒にポディウィム(表彰台)で、「やっちゃったね」「今回すごいことをできたね」「よく頑張ったね」と一人ひとりに言い合っていました。もしかしたら、アスリートはコンペティター(競争相手)ですから、負けた人に対して悔しい思いをしているところに「よく頑張ったね」とは言わないと思うんですよね。ただ、今回はオリンピックだったから「本当にありがとう」「あなたも頑張ってくれてありがとう」という感じだったのは、今回すごいスペシャルだったと思います。負けたことは悔しかったけど、すごいパフォーマンスを世界に見せられたことで、サーフィンのイメージをいい感じにできたのはうれしいです。

――3人がたたえ合っている姿を見て、子どもたちはもちろん、親にしてもサーフィンがかっこいいスポーツに映るのではないかと思いました。

 特別なスポーツで、海の中で戦うところは普通ではない、特別なスポーツだと感じています。ぜひみんなにサーフィンを体験してもらいたいです。

――オリンピックは特別でしたか。

 そうですね。「本物」という感じでした。テレビで見ていてもすごいことは分かっていましたが、やはり経験するのはまた全然違います。自国のプレッシャーとか、周りのプレッシャーとかもすごく感じましたし、オリンピックのプレッシャーって感じで普通の大会とは全く違いました。

――また新たに、楽しめるプレッシャーを発見しましたね(笑)。3年後にはパリオリンピックがあります。

 今日からその準備をします。あと3年あるから少し休憩して……と皆さんは思っていると思いますが、本当にもうすぐやってきます。本当だったら4年後でしたが、1年ずれたから3年後……もうすぐです。もう準備をしないといけません。皆さんの応援を力に変えて、次は金メダルをとれるように頑張ります。

――期待しています。ちなみにトレーニングしようと思っているのはどの部分ですか。

 今回すごく勉強になったこともいっぱいありましたが、一番はメンタルです。プレッシャーを感じた時にどういう感じに対応したのか、それもすごく大切です。今回できたことはすごく良かったので、忘れないように毎日トレーニングをしたいと思います。板のことや体のことも含めていっぱいありますが、この3年間でスケジュールを立てて一つひとつうまくなるように頑張ります。

―――わかりました。期待しています。ますます頑張ってください。

 ありがとうございます。

(取材日:2021年7月28日)

■プロフィール(東京2020オリンピック当時)
五十嵐 カノア(いがらし・かのあ)
1997年10月1日生まれ。アメリカ出身。「カノア」はハワイ語で自由を意味する言葉。父の影響で、3歳でサーフィンを始める。11歳の時、1シーズン最多勝となる30勝をマーク。16年からプロサーフィンの最高峰WSLチャンピオンシップツアーにアジア人としては初めて、史上最年少で参戦。19年には、チャンピオンシップツアーでアジア人初の優勝を果たす。21年、世界選手権では2位。東京2020オリンピックでは今大会、初の正式種目となったサーフィン男子ショートボードで銀メダルを獲得。(株)木下グループ所属。
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著者プロフィール

日本オリンピック委員会(JOC)は、「スポーツの価値を守り、創り、伝える」を長期ビジョンとして掲げ、オリンピックの理念に則り、スポーツ等を通じ世界の平和の維持と国際的友好親善、調和のとれた人間性の育成に寄与することを目的に活動しております。 JOC公式ウェブサイトでは、各種事業の活動内容をはじめ、オリンピック日本代表選手団や、世界で日本の代表として戦う選手やそのチームで構成されるTEAM JAPANに関する最新ニュースや話題をお届けします。

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