【東京2020オリンピックメダリストインタビュー】新井千鶴:この舞台を経験できたことが、これからの人生の大きな財産になっていく

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【東京2020オリンピックメダリストインタビュー(写真:アフロスポーツ)】

 東京2020オリンピック1周年を記念して、東京2020オリンピックでメダルを獲得した各アスリートのインタビューをご紹介します。(2021年8月取材)

新井 千鶴(柔道)
女子70kg級 金メダル

■悔いを残さない戦いに挑む

――初めてのオリンピックでの金メダル獲得おめでとうございます。

 ありがとうございます。

――今の率直な感想をお聞かせください。

 オリンピックという舞台に立つまでに苦しい思いもありましたが、1年1年積み上げてきたものがあったので、その思いを全て畳の上で払しょくすることができて素直にうれしいです。

――準決勝では、マディナ・タイマゾワ選手(ROC)と16分41秒の激戦となりました。大会最長の試合となりましたが、最後は送襟絞で決めました。気分はいかがでしたか。

 本当に気持ちだけは負けないように、あとは自分のやってきたことに対して、絶対に悔いだけは残さないようにという思いで前に出ました。

――決勝で勝利した時の笑顔が印象的でした。

 一番ほしかったものを手にすることができた瞬間だったので、ほっとした気持ちとすごくうれしい気持ちでいっぱいでした。

――今回のオリンピックは、自分らしい柔道ができましたか。

 一戦一戦集中して、目の前の相手に対して悔いのない戦いができました。私の中では今までになく良い試合ができたと思います。

――今回の金メダルをとれた最大の要因は何だと思いますか。

 諦めずにコツコツと自分の信じてきた道を突き進んできたので、自信を持って畳に上がれました。それが試合中の苦しい場面でも活きてきたと思いますし、諦めない自分を発揮することができたと思います。

■何事に対しても真剣に取り組む

1年延期となった大会に向けて「諦めずにやってきて本当に良かった」と振り返った 【写真:フォート・キシモト】

――新井選手は学生時代から文武両道だったそうですが、それは柔道に活かせていますか。

 勉強やスポーツ、その他の私生活の部分など、さまざまなことに対して真剣に取り組む姿勢をおろそかにしない、手を抜かないところが、最後の最後の詰めの部分になるのかなと思います。そういう姿勢で何事にも取り組めば、おのずと結果もついてくると思っているので、その部分を大事にしています。

――座右の銘は「不動心」だと伺いました。タイマゾワ選手との試合の際に、1度一本が覆りました。あの時はどのような心境でしたか。

 何度も映像判定があり、覆るシーンが多かったです。でも、試合をもっとやらせてほしい、続けさせてほしいという思いでいましたので、とにかく動揺せず、しっかり決め切りたい、一本をとり切りたいという思いが強かったです。

――オリンピックに勝つための戦いと他の戦いは違いますか。

 私自身、大会に向けた準備はとくに変わらなかったですし、オリンピックと他の国際大会とでは何か違うということはありませんでした。ただ、何が違うかといったら海外の選手たちでしょうか。海外の選手たちの大会に懸ける思いや一戦一戦にかける思いが重いことが、組んでいて伝わってきました。だからこそ、私自身もそれに負けない、さらに上を行く気持ちで戦いました。まさに、気持ちの勝負だと強く感じました。

■諦めずに頑張ることの大切さ

――新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、大会が1年延びました。ご自身はこの状況をどのように捉えていましたか。

 本当にこんなこともあるんだと正直驚くような出来事でした。でも、このような出来事が起きてしまったからには、そこに何かしらの意味があるんだと思いながら、そのなかで自分はどう感じ、何かを得てそれをどのように次に生かしていくかということが大事だと思っていました。それはコロナ禍に限らず、いつ何が起こるか分からない状況下で、どうやってその出来事をプラスに捉えていくのかということが大事なのかなと。とにかく、苦しいことが多かった1年でしたが、諦めずにやってきて本当に良かったと思います。

――オリンピックの金メダリストになりました。オリンピックの素晴らしさを多くの人に伝えていくために今後どのような取り組みをされようと考えていますか。

 アスリートが持つ力、つまり真剣に目標に向かって努力し続ける姿勢を伝えていきたいと思います。もちろん勝負事なので、勝ち負けはありますが、それでも諦めずに目標に向かって進んでいく姿が全国的に放送されて、国民の皆さんに少しでも勇気と元気を届けられたらと思いました。こうしたコロナ禍の苦しい状況でも、スポーツによって一体感を生むことができると思いますし、明日も頑張っていこうと思えるような力を持っているので、そういう気持ちを与えられるような存在でいたいと思っています。

――オリンピックを目指す未来のオリンピアンたちのために、ぜひメッセージをお願いします。

 私が柔道を始めた頃は、体も大きくなかったですし、すぐにケガをするような普通の女の子でした。でも、人一倍負けず嫌いで、一つのことに真剣に取り組んできました。何事にも臆することなくチャレンジしてきました。一つのことをあきらめずに頑張っているとまた他のことにもつながっていくと感じます。また、私は女子選手なので、とくに柔道の女子選手がもっともっと普及してほしいと願っていますし、素敵な女子アスリートが現れることを期待しています。
本当に稀な状況で代表になれて、この舞台を経験できたことが、これからの人生の大きな財産になっていくと思っています。この経験をしっかり次につなげていけるような人生を歩んでいきたいです。

■プロフィール(東京2020オリンピック当時)
新井 千鶴(あらい・ちづる)
1993年11月1日生まれ。埼玉県出身。小学校1年生の時に兄の影響で柔道を始める。2011年、高校3年の時に、インターハイ女子70kg級で優勝を果たす。15年に世界選手権に初出場し、17、18年と2連覇を果たした。初出場となった21年東京2020オリンピックでは女子70kg級で金メダル、男女混合団体でも銀メダル獲得に貢献。同年9月に現役引退を発表した。三井住友海上火災保険(株)所属。
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著者プロフィール

日本オリンピック委員会(JOC)は、「スポーツの価値を守り、創り、伝える」を長期ビジョンとして掲げ、オリンピックの理念に則り、スポーツ等を通じ世界の平和の維持と国際的友好親善、調和のとれた人間性の育成に寄与することを目的に活動しております。 JOC公式ウェブサイトでは、各種事業の活動内容をはじめ、オリンピック日本代表選手団や、世界で日本の代表として戦う選手やそのチームで構成されるTEAM JAPANに関する最新ニュースや話題をお届けします。

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