元関脇・安美錦(早大院修了)が断髪式 「今後は相撲部に顔を出し、力になれたら」

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【早稲田スポーツ新聞会】

津軽の男・元関脇安美錦 約350人がはさみを入れた断髪式

安美錦引退・安治川襲名披露大相撲 5月29日 国技館
【早稲田スポーツ新聞会】記事 田島璃子、写真 安斎健、大貫潤太氏】

 2021年度、早大大学院スポーツ科学研究科で学んだ元関脇安美錦、安治川親方(令4スポ院卒)が、「安美錦引退 安治川襲名披露大相撲」を執り行った。十両取組、最後の土俵入り、相撲甚句、横綱五人掛り、幕内取組など断髪式の前後にもさまざまな演目が用意され、安美錦としての集大成、そして安治川親方としての新たな相撲人生を祝した。

 安治川親方は青森県西津軽郡深浦町に生まれ、相撲を愛する杉野森家で育った。元力士の実兄・杉野森清寿(元安壮富士)と同じ安治川部屋(現伊勢ヶ浜部屋)に入門すると、初土俵から3年で関取に昇進した。その後は怪我に苦しむが、横綱や大関から多くの勝ち星を挙げる存在だった。さらに、アキレス腱を断裂するも、39歳にして幕の内に復帰。そして40歳9カ月、歴代1位の記録である関取在位117場所目、2019年7月に引退を発表。年寄・安治川を襲名した。新型コロナウイルスの影響で断髪式は延期されており、その間に早大大学院スポーツ科学研究科の1年過程を修了している。昨年開催されたオンライン座談会、『早稲田相撲部の時代』ではデーモン閣下(世を忍ぶ仮として、昭61社卒)やくみつる氏(昭56商卒)室伏渉監督(平7人卒=東京・明大中野)とともに、早大生に相撲の魅力を語った。

断髪式に臨む安治川親方 【早稲田スポーツ新聞会】

 2度の延期を経て開催された引退相撲には、安美錦としての最後の勇姿を一目見ようと、多くの観客が足を運んだ。大相撲の実況で名を馳せる藤井康生アナウンサーが司会を務め、和やかな雰囲気で開会した。初切、十両取組のあと、地元の名産品があしらわれた化粧まわしを付け、安美錦最後の土俵入り。長男の丈太郎くんと手をつないで土俵に上がった。

 観客が思わず息を呑んだのが、実兄・杉野森清寿(元安壮富士)による相撲甚句だった。幼いときから応援し、時にその活躍に悔しい思いをした兄として、弟の相撲人生を圧倒的な歌唱力で歌い上げた。会場からは大きな拍手が沸き起こり、直接は聞けなかったという安治川親方も「よかったという声を沢山いただき、ありがたい」と振り返った。

 出身地・青森県深浦町の町長である吉田満氏からの愛の込められた挨拶のあと、ついに断髪式となった。はさみを手に取ったのは、安治川親方を敬愛する約350人。早大からは、亀井淳(評議員)佐藤寛之教授(教育・総合科学学術院)中村好男教授(スポーツ科学学術院)平田竹男教授(スポーツ科学学術院)室伏渉監督(早大相撲部)(五十音順)が参列した。また、早大相撲部と関わりの深い、やくみつる氏もはさみをとり、デーモン閣下の名前も呼ばれた。止めばさみは師匠であり、父のいとこである伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)。途中で向きを変えながら、会場の四方それぞれに顔を見せながら進められ、歓声に手を降って応える場面もあった。安治川親方にとっても、「たくさんの方に応援していただいて安美錦があった」と実感する工夫だった。涙を拭いながらも、終始穏やかな表情だった安治川親方。断髪式を終え、2人の娘からの手紙、花束を受け取った。

涙を拭う安治川親方 【早稲田スポーツ新聞会】

断髪式の後は照ノ富士が土俵に上がり、横綱綱締め実演、横綱五人掛りが行われた。宝富士、照強、翠富士、錦富士、熱海富士の5人が次々と照ノ富士に立ち向かう演目は、多くの関取が所属する伊勢ヶ浜部屋だからこそ実現した珍しいもの。5人全員を違う技で鮮やかに翻す照ノ富士に、会場は大いに盛り上がった。

 幕内取組、聡ノ富士の弓取式のあと、安治川親方が再び長男・丈太郎くんとともに土俵に上がり、御礼の挨拶として、思いを語った。安治川親方は、太く熱いメッセージを真っすぐに伝え、鳴り止まない拍手に包まれた。

 「私の相撲人生は、好きになった相撲を、好きなだけやれた相撲人生でした。本当に幸せでした。その中で得た経験、またさまざまな出会い、そういうことを胸に、これからの指導にあたり、強いだけではなく、魅力ある力士を、これから育てていきたいと思います。今日は、親方としての新たな一歩だと思います。」(挨拶より抜粋)

会場に微笑む安治川親方 【早稲田スポーツ新聞会】

 安治川親方から直接電話が掛かるというプレゼントの抽選イベント、当日限定の呉須色(ごすいろ)の絵皿など、さまざまな工夫を凝らし、引退相撲は盛大に行われた。今後については、後進の指導に当たるとともに、「早大相撲部の後押しができたら」とも語った。相撲甚句で歌い上げられた、「故郷に錦を飾るよう 名乗る四股名は『安美錦』」。その錦はすでに立派だが、まだ故郷へは帰れない。親方としての新たな旅路に、優しく力強いはなむけとなった1日だった。

コメント

安治川親方(元関脇安美錦、令4スポ院卒)

――断髪式を終えて約2週間が立ち、振り返っていかがですか

2度の延期という誰も経験したことのない断髪式でしたが、沢山の方々に来ていただいたことにあらためて感謝すると共に、妻や事務局が支えてくれたお陰で無事開催できたことに、今後親方としての使命に気を引き締めているところです。

――お兄様の相撲甚句はいかがでしたか

兄の相撲甚句は、準備をしていて直接は聞けていないのですがよかったという声を沢山いただき、ありがたいなと思いました。

――断髪の最中はどのようなお気持ちでしたか

断髪している最中は、お客様の顔がみれてよかったです。沢山の方に応援していただいて安美錦があったとあらためて感謝していました。

――今後、早大相撲部と関わるご予定はありますか

今後は早稲田相撲部に顔を出し、結果を出せるよう力になれたらと思います。その中で大相撲で活躍してくれる早大相撲部の後押しができたら幸いです。

※コメントは6月11日にいただいたものです。
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著者プロフィール

「エンジの誇りよ、加速しろ。」 1897年の「早稲田大学体育部」発足から2022年で125年。スポーツを好み、運動を奨励した創設者・大隈重信が唱えた「人生125歳説」にちなみ、早稲田大学は次の125年を「早稲田スポーツ新世紀」として位置づけ、BEYOND125プロジェクトをスタートさせました。 ステークホルダーの喜び(バリュー)を最大化するため、学内外の一体感を醸成し、「早稲田スポーツ」の基盤を強化して、大学スポーツの新たなモデルを作っていきます。

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