プリンスオブウェールズSは少頭数ながら曲者ぞろい、シャフリヤールは歴史に名を刻めるか
【日本調教馬初の快挙を目指すシャフリヤール【Photo by Getty Images】】
シャフリヤールにとっての最初の関門はアスコット競馬場の舞台設定だ。ゲートから向正面のコース最低地点(スウィンリーボトム)まで300m余り坂を下り、その後はゴール地点まで断続的に約22.25mも坂を上る。外枠は前に壁を作りづらく、位置を取りに行けば下り坂で制御不能に陥るリスクがあるため不利。スピードよりもパワーとスタミナ、人馬のコミュニケーション力が問われる難コースとして知られている。
概してゲートが速い日本調教馬にとって序盤の入り方がカギとなるが、過去に挑戦したスピルバーグ(2015年)、エイシンヒカリ(2016年)、ディアドラ(2019年)のG1勝ち鞍は2000mが最長だったのに対し、シャフリヤールは2400m級の日本ダービーとドバイシーマクラシック(SC)を勝っている点が異なる。スタミナの裏づけがあるのは心強い。
さらには、シャフリヤールがドバイSCで封じた欧州勢も帰国して結果を出している。2着のユビアーは追い込みの脚質もあり英米で取りこぼしを続けているが、パイルドライヴァー(4着)とフクム(7着)は英G1コロネーションCでワンツー、アレンカー(6着)は愛G1タタソールズゴールドCに勝利。シャフリヤールが英国でも通用する目算は立つ。
計算できないのは移ろいやすい空模様だろう。英国の6月は最も天気が安定する時期だが、馬場状態に影響を与えるほどのにわか雨もめずらしくない。シャフリヤールは不良馬場の神戸新聞杯でキャリア唯一の着外に敗れている。英国の道悪は日本の比ではなく、可能な限り馬場が乾いていることが勝利への条件となる。
一昨年のプリンスオブウェールズSを圧勝したロードノース 【Photo by Getty Images】
実績なら米・豪・仏でG1レース3勝のステートオブレストも十分。今年は初戦のガネー賞を制して好スタートを切った。前走はタタソールズGCで3着に敗れたものの、マークしたロードノースが中団で動くに動けない位置に入り、釣られて仕掛け遅れた格好。それでもしぶとく追撃してロードノースには先着した。アスコット競馬場には初参戦となるため、コース実績のあるロードノースに一目置くとしても、互角以上に評価することも可能だ。
これらの実績馬を抑え、現地ブックメーカーで前売り1番人気に推されているのが上がり馬のベイブリッジ。前走のG3ブリガディアジェラードSで重賞初制覇を飾ったばかりだが、重賞連勝中だったモスターダフやG1ホースのアデイブらの実力馬たちを5馬身ちぎり捨て、昨年から5連勝で頭角を現してきた。ブリガディアジェラードSでの重賞初制覇からプリンスオブウェールズSという臨戦は一昨年のロードノースと同じで連勝も可能。管理するM.スタウト調教師は英ダービーをデザートクラウンで制すなどチームの勢いも一番だ。
紅一点のグランドグローリーは7万ポンド(約1160万円)もの追加登録料を投じての参戦。3着以上の賞金を得なければ持ち出しになるだけに、勝負度合いの高さは言うまでもない。昨年のジャパンCでは未体験の高速馬場に対応し、シャフリヤールとは1馬身半差の5着。その後に引退の予定も新たなオーナーの下で現役続行が決まり、今季はリステッドとG3を連勝して格の違いを見せつけている。ジャパンCで堅い馬場に対応したが、少しでも時計を要す馬場や距離短縮は好都合。シャフリヤールと勝負づけは済んでいない。
ドバイオナーは昨年の香港Cで猛然と追い込んで見せ場を作ったが、その前には今回と同舞台のG1英チャンピオンSで、稍重の発表以上に重い馬場を利しての2着がある。本来は道悪でこそのタイプだ。前走のドバイSC(10着)は中団より後ろから上がり勝負の流れも向かなかった。シャフリヤールとの差は4馬身ほどで着順ほど負けた訳ではなく、実績のある距離とコースにひと雨加われば巻き返しも可能だろう。
8歳の古豪アデイブも道悪巧者。一昨年の英チャンピオンS勝ちなど豊富なコース実績を誇るが、良馬場ではプリンスオブウェールズSでロードノースに完敗し、前走のブリガディアジェラードSでもベイブリッジに5馬身余り離されて明らかに分が悪い。また、ブルームは昨年のジャパンCでシャフリヤール、前走のタタソールズゴールドCでも4着のロードノースに5馬身ほど離された。昨年2着で最終日のG2ハードウィックSに回る可能性もあり、この相手関係では強気になれないか。
(渡部浩明)
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ