“ここ!パス”は闘病があったからこそつかめた感覚 京川舞選手(INAC神戸レオネッサ)

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2021年9月、日本初の女子プロサッカーリーグとして『WEリーグ』が開幕。
本企画『WE INTERVIEW』では、Yogibo WEリーグで活躍する選手1名にスポットを当て、キャリアを振り返りながらその人柄にも触れていきます。

“ここ!パス”は闘病があったからこそつかめた感覚

世代別代表としてアジアで得点王を獲り、なでしこジャパンにも選出された逸材、京川舞。レジェンドが名を連ねるINAC神戸レオネッサで揉まれた月日が芽吹こうとしていた矢先にバセドウ病を発症し、約1年間の戦線離脱を余儀なくされた。しかし、先日見事に復活。復帰戦では痛快なまでの縦パスでアシストをマークし、彼女の新たな強みを披露して魅せた。彼女を支えたものとはーー

ーーINAC神戸レオネッサに入団して11年目。世代別代表、なでしこジャパンを含め、常に最前線でプレーしてきました。
世代別代表では世界大会の時にケガをしていてチームに貢献できず、悔しい想いをしました。今は普段の練習から“世界”と戦うイメージで取り組んでいます。特に対人やパススピードといった点ですごく意識しています。私はなでしこジャパンのメンバーに入れていないですが、自分が入った時のことを考えながらワールドカップも見ていました。

ーーなでしこジャパンに入るために得たいものは?
ポストプレーで時間を作る強さの安定性です。チームメイトに田中美南選手がいるじゃないですか。(ボールを)落とすだけじゃなくて、相手の選手を一枚剥がすパワーと展開力が彼女の強みですが、自分にはないです。私はゴール前でクロスに入る形は得意ですけど、世界と戦っていく中ではまだまだだと感じています。

ーーこれまでもずっとライバル関係だった田中選手がINAC神戸へ移籍してきた時はどういう心境でしたか?
良い部分を盗んでやろう!ともちろん思っていたし、チームメイトとしてどういうプレーをするんだろうと楽しみでもありました。でも、田中選手の移籍は私が一番手で(試合に)出ていくという点で危機感もありましたね(苦笑)

ーーチームではこれまで名だたる先輩方に囲まれていましたが、この選手のプレーを盗んで自分の物にしたというのはありますか?
いっぱいあり過ぎて難しいです!ちょっとマニアックって言ったら怒られるかもしれないけど、南山千明選手(※現スぺランツァ大阪)かな。相手の逆を取るのがめちゃくちゃ上手なんですよ。長い距離をランニングして、相手を置き去りにして点を奪える。随分盗ませてもらいました(笑)

ーーではINAC神戸で最も成長したのは抜け出すプレーでしょうか?
そうですね。川澄奈穂美選手が2020年に期限付きでINAC神戸に戻って来ていて、練習でマークに付いた時に見えないところから動いていることに気づきました。もちろん動きは速いですが、スピードだけじゃないです。そこも盗みました(笑)。その積み上げでオフ・ザ・ボールの動きが成長したと思っています。

ーー勢いに乗り始めた矢先にバセドウ病を発症しました。その際、「チームのために何ができるかを考えてサポートしたい」と言っていましたよね。
私はケガが多くて、チームにも周りにも十分サポートしてもらってきた10年でした。なのでサッカーができないかもとわかった時、ショックよりも今度は私がチームのために恩返しをしたい、一緒にチームを良くしていきたいという想いの方が強かったです。

ーーケガとは違って動くことができない状況はかなり苦しかったのでは?
そうなんですけど、一番仲の良い杉田妃和選手が私よりもショックを受けていました。絶対に復活してまた一緒にプレーするんだという気持ちを彼女も持っていてくれたから、心が折れそうになってもリセットすることができました。試合のある週でもボール出しをしてくれたり、一緒に練習メニューを考えてくれたり、本当に力を貸してくれました。

ーーでは彼女のアメリカへの挑戦(※2022年1月にポートランド・ソーンズFCへ完全移籍)を聞いた時は嬉しさと寂しさが入り混じっていましたか?
いや、それはもうめちゃくちゃ嬉しかったです!「私が復帰する時に一緒にピッチに立ちたい」という想いが、彼女の移籍の決断を遅らせてしまっているかもしれないと思うこともあったので。杉田選手は中学生の時に男子とプレーしていましたし、海外で活きるスタイルだと思うので活躍が楽しみです。

ーー第17節のAC長野戦で復帰となりました。プレーのすべてに嬉しさが詰まっているようでした。
サッカーをしたくてもできなくて、その穴を埋めるようにサッカーの本を読み漁っていた頃や公園で練習していた時のこと、かけてもらった声を思い出して、ピッチに立った時はちょっとウルっとしてしまいました。

ーー復帰前と比べてプレーの変化はありますか?
持久力はまだまだですね。今まではいっぱい動いて相手より走り切って点を獲るスタイルでしたが、今はここ!という場面で100%を出す勝負をしています。動けないからこそできるプレーだし、バセドウ病にかかっていなければこの発見はなかったと思っています。

ーー復帰戦で魅せたアシストは “ここ!”という声が聞こえてきそうな鋭いパスでした。
あれは心の中で「ここ!」と言っていました。この感覚を見極めてできているかどうかはまだ回数を重ねていないのでわかりませんが、“ここ!”というプレーを突き詰めていきたいです。もちろん得点をして完全復活!というのが良いですが、また違ったオフ・ザ・ボールの動きもできると思っています。

ーーWEリーグ初代王者というタイトルも手にしました。
有言実行での優勝は久しぶりだったので嬉しかったです。でも試合にあまり出ていない切なさが半分あったりします。欲張りですかね?(苦笑)

ーーいろんな経験をしてきましたが、今後どんなWEリーグにしていきたいか京川ビジョンはありますか?
一番大事なことは“心”だと思います。強い想いがパワーに繋がります。病気やケガをしている時に応援してくれた方々が「なんか応援したくなるんだよね」、「なんか気になっちゃうんだよね」と言ってくれました。それを聞いて、私は見えないものを応援してもらっているんだと思いました。データとか結果ではなく、見えない“何か”を見てくれている。私は想いを人一倍持ってプレーしているつもりなので、その姿をWEリーグを代表して魅せられるように頑張りたいです。

ーー京川選手にとってWEリーグ元年はどんなシーズンでしたか?
ノートで例えたら、1ページ目を丁寧に描いた感じです。最初のページは綺麗に書きたくなりませんか? WEリーグを丁寧に見てプレーして、書き終えました。2ページ目はどうしようかな?爆発しちゃうかもしれないです(笑)

(インタビュー・構成=早草紀子)

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【プロフィール】
京川舞(きょうかわ まい)
1993年12月28日生まれ、茨城県出身
FW、背番号14
堅倉FC → 石岡レディース → 鹿島LFC → 美野里中サッカー部 → 常盤木学園高校 → INAC神戸レオネッサ

※この記事は、WEリーグ公式Webサイト『WE LEAGUE.jp』にて2022年5月19日に掲載した内容を転載しています。
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著者プロフィール

2021年9月に開幕した日本初の女子プロサッカーリーグです。WEリーグは「Women Empowerment League」の略称で、この名称には日本に“女子プロサッカー選手”という職業が確立され、リーグを核に関わるわたしたちみんな(WE)が主人公として活躍する社会を目指す、という思いが込められています。現在12クラブが所属し、ホーム&アウェイ方式による総当たりのリーグ戦「2023-24 WEリーグ」を秋春制で開催します。

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