“監督”レネ・ヴァイラーの信条。「まずは“人として幸せである”ということ」【FREAKS vol.320】
【©KASHIMA ANTLERS】
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今シーズンより巻頭インタビュー記事を紹介し、今回はレネ・ヴァイラー監督が登場。クラブ史上初となるヨーロッパ出身監督の哲学と信念を紐解きます。
「日々を楽しみながら、居心地のいい空気感で仕事ができています」
人口わずか6万6千人ほどの小さな街にやってきた一人のスイス人は、すでに日本での生活に溶け込んでいる。3月に来日してから約2カ月。大都会の喧騒から離れた太平洋を望む地方都市で、愛するフットボールと向き合う毎日だ。
「いろいろな文化に触れることで、それぞれのいいものを自分のなかに取り入れながらやっていけると考えています。例えばヨーロッパのいいところ、日本のいいところをそれぞれ取り入れながらやっていくことは、自分にとってもいいことだと思うし、そのような機会を与えてくれたことに、とても感謝しています」
これまでに指揮を執ったベルギーやエジプトの強豪クラブでは、短期間でタイトルを勝ち取ってきた。そんなレネ・ヴァイラー監督は2022年、鹿島アントラーズの新たな指揮官に迎え入れられた。クラブ史上初のヨーロッパ出身監督であり、Jリーグのチームを指揮する初めてのスイス人となった。
「これまでの人生のなかでいろいろな経験をし、さまざまな監督と出会いました。いい監督もいれば、あまり参考にならない監督もいましたが(苦笑)、この人のいいところ、悪いところというのを自分のなかでピックアップして、いいところだけをどんどん残して取捨選択していき、自分を構築してきたと思っています」
選手時代のさまざまな経験から、指導者としてのいろはを習得してきた。生まれ故郷のクラブであるFCヴィンタートゥールや、国内屈指の強豪FCチューリッヒなどでプレーしたレネ監督の選手キャリアを紐解くと、“ロルフ・フリンガー”という一人のオーストリア人指導者の名が浮かんでくる。レネ監督がフリンガー氏のもとで最初にプレーしたのは、国内1部リーグのFCアーラウに在籍した1993年だった。
「ロルフはすごく選手に対して態度などでもきつく当たる監督でした。練習から帰ってから夜に眠れない日があったり、『明日の練習には行きたくないな』と考える日もありました。ただ、彼はすごく賢いやり方で、またすばらしいタイミングで、選手たちに『今、自分たちがプロスポーツ選手を職業にできていることがどれだけ幸せなのか』ということを言葉で伝えてくれました。そこは今の自分にも影響しているところかなと思います」
のちにスイス代表監督にまで上り詰めたフリンガー氏によって、選手だったレネ監督は1997年(当時はFCチューリッヒに所属)、香港で開催されるロシア戦に臨むナショナルチームに呼ばれた。やむなくしてケガに苦しめられ、選手キャリアの終焉に向かうレネ監督にとっては、これが最初で最後の国際Aマッチ出場となるが、フリンガー氏はレネ監督のキャリアに大きな影響を与えた人物だった。
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「目指すところとして、選手たち一人ひとりが向上していくことが大事だと考えています。それは選手である以前に、“一人の人間として”というところがあるからです。そこが一番のターゲットになります」
4月半ば、ある日の練習では、プロ3年目の荒木遼太郎、松村優太、染野唯月の3人をピッチの中央に集めて語りかける姿があった。アントラーズの現在と未来を担う有望な3選手だが、今季は出場試合数を伸ばせていない。レネ監督は彼らの才能に一目置きつつも、さらなる能力の向上が必要だと考えている。だからこそ、自らの考えを伝える機会を作った。常にチーム全体を観察し、ときに自らの言動と働きかけにより、類稀なるポテンシャルを有する選手たちの成長を促そうとする日々だ。
「メンタリティーのところを強く要求しています。やはりメンタル的な要素というのが、ものすごく大事。いい選手があふれているぶん、そのなかで違いを見せるためには、日々選手たちが成長を追求していくことが重要です。選手たちが自問自答を繰り返す日々と、向上しようと常に考え続けることを要求しています」
チームに合流してから3週間が経とうとしていた4月2日。明治安田生命J1リーグ第6節清水エスパルス戦で途中交代を命じられたディエゴ・ピトゥカがベンチに下がった直後、荒ぶる感情を抑えきれずペットボトルを蹴り飛ばし、それがスタンドの観客に接触する事態となった。ピトゥカにはJリーグ規律委員会と、その行為を深刻に受け止めたクラブからそれぞれ重い処分が下された。
清水エスパルス戦の翌日、レネ監督は練習場のピッチの上でピトゥカと長時間にわたり話をした。
「失敗は誰にでもあるもの。いろいろと助言することで改善していくものです。そうすることで今後の助けになる場合がある。その道を示していくのも監督の仕事だと考えています」
試合でのピトゥカの行為は、レネ監督にとっても許容できるものではない。だが、チームを率いる指揮官として、一人の選手を見放すことはない。
「フットボールは個人スポーツではなく団体スポーツなので、勝ちも負けもチームとして共有していく。もちろん一人ひとりの感情も大事ですが、それよりも全体の空気感を最も大事にしています。わかりやすく言うと、『スターがチームを作るのではなく、チームがスターを作る』ということ。そのチームがあってこその選手だということは、私のなかではっきりしているところです」
レネ監督のフットボールに対する信念は揺るがない。それが監督としての“レネ・ヴァイラー”を形づくり、ヨーロッパとアフリカの2カ国で“チャンピオン”の称号を得たゆえんだろう。
「いろいろと移り変わっていくなかで、今後は負ける試合も絶対に出てくるので、そのときにどれだけチームとしていい雰囲気を保てるかということも大事ですし、またピッチ外のところでも人間である以上、幸せでなければいけません。もちろん選手である以上、ピッチで全力を尽くすことに取り組まないといけないのですが、まずは“人として幸せである”ということが大事になってきます。私は冗談を言うのも好きなほうですが、フットボールというスポーツがフェアプレーを掲げている以上、正直に、真摯に取り組まなければいけません」
ヨーロッパの中心地からやってきたフットボールの伝道師による、異国の地での新たな挑戦がはじまった。
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