「鉄を打ち続ける漢 バツベイシオネ」NTTリーグワン2022第15節試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

輝く経歴、それを作った若き日のプレッシャーとは

心の内なる声が聞こえるようなプレーをする。
まるで効果音が聞こえてきそうな躍動感を見せる。
彼のプレーを語る言葉はこれに尽きる。「アグレッシブ」
高校時代はラグビーリーグ(13人制のラグビーのこと)をプレーしていた経験が生む直線的で爆発的な突破が彼の持ち味だ。

接点直前の表情は、気迫漲る(みなぎる)。
歯を食いしばり、全体重だけでなく魂すらも乗せるかのうようにして相手をぶちかます。

仲間のいいプレーには全力で喜ぶ。
顔をほころばせて、太陽のような表情で仲間を抱きかかえる。

ポーカーフェイスなアスリートが増えてきた昨今において、多彩な表情を見せながら熱いプレーをするその人は、どのチームに所属してもファンの心を魅了し続けてきた。

その人の名前は、バツベイ シオネ。この第15節で8番をつけて出場する。

バツベイ シオネ/1983年3月14日生まれ(39歳)/トンガ出身/身長190cm体重105kg/拓殖大学⇒ワイルドナイツ⇒シャトルズ⇒クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(2018年入団)/ポジションはフランカー、NO.8/愛称は「Kavili」 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

39歳。チーム最年長。
そんな「スピアーズの鉄人」は、今季5試合目、先発出場は第8節以来での出場となる。

2020年のシーズンでトップリーグ100試合出場を達成し、この試合に出場すれば113試合目のトップリーグキャップとなる。
(キャップ数とは公式戦出場数のこと。リーグワンとなってもトップリーグキャップを引き継がれる。)

華々しい経歴は、試合出場数だけではない。
日本代表にも選出され、ラグビーワールドカップ2011年ニュージーランド大会では、3試合に出場。
過去所属していたワイルドナイツ時代には、日本選手権優勝も経験している。

2020年2月2日に行われたトップリーグ2020 宗像サニックスブルースで100試合出場達成をした際の様子。両チームとバツベイ選手のご家族含めて撮影 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

だが、その眩い(まばゆい)経歴と現在の頼もしいプレーからは、想像できない苦悩が過去にはある。それは、日本に来たばかりの拓殖大学時代と、パナソニックワイルドナイツ入団当初にあった。

トンガから拓殖大学に入学。どの留学生選手たちがそうであるように、慣れない日本での生活があった。そんな中、さらにバツベイ選手にプレッシャーを与えたのは、偉大な兄の存在だった。

バツベイ選手の5歳差の兄であるルアタンギ 侍バツベイさんも、また日本でプレーしたトンガ人選手の一人だ。大東文化大学を経て、ブレイブルーパスやライナーズでプレー。トップリーグ年間MVPにも選ばれた経歴もあり、その巨漢と力強いプレースタイルというキャラクターあって、日本ラグビー界ではあまりにも有名な人物だった。

当時を振り返り、バツベイ選手は笑いながら話してくれた。

「最初、日本に来た際は体も細く『え?本当にあの侍バツベイの弟?』と言われてびっくりされました。確かに同じトンガ人でも私は細い方で、兄はかなり大きい方でしたからね。プレッシャーでした。兄のレガシーを守るためにも自分がしっかりとやらないと、と感じていました。」

また、ワイルドナイツに入団してからについても

「同じポジションには、コリー(ホラニ龍コリニアシさん)という絶対的な選手がいましたからね。なかなか試合に出場できなかったです。これもまたプレッシャーでした。」

しかしバツベイ選手は、直後にこう続けた。
「けどそれが良かった。兄の存在、コリーの存在、その二つのプレッシャーが私を成長させてくれました。」

バツベイ選手は、2018年9月15日のイーグルス戦でスピアーズ公式戦デビュー 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

35歳のオールドルーキーの新入団、第一線で戦い続けられる秘密とは

こうした若い日のプレッシャーを味方につけて、選手として成長してきたバツベイ選手はその後、日本代表にも選出され、ワイルドナイツからシャトルズに移籍。シャトルズ時代もすでにベテランと呼ばれる存在だったが、第一線で活躍し、スピアーズとも数度対戦した。

そうして2018年にスピアーズに入団。当時35歳の新入団選手は、現在も共にプレーする大熊選手や羅選手と並んでチームの仲間に加わった。

スピアーズでもプレーし、2016年からフォワードコーチとしてチームを指導するアランド・ソアカイコーチは、スピアーズに入団してからのバツベイ選手を
「シャトルズ時代よりいいパフォーマンスを見せていると感じます。やるべきことをしっかりとやってくれる存在です。チームの環境が彼を成長させているし、チームも彼の存在を必要としています。プレーヤー同士では、日本人選手と外国人選手の橋渡しをする存在となってくれるし、彼自身もコーチ陣にフィードバックをくれて、指導しやすい雰囲気を整えてくれています。」
と、評価する。

30代後半になってからのプレーヤーとしての成長。
「線が細い。」と言われていた体格は、日々の積み重ねによって筋骨隆々とした逞しさ。
そしてそれが問われる接点の部分では、どんな相手にも勇敢に立ち向かい、勝負所でチームを助ける。

自身のコンディションをうまく調整しながら、試合時にパフォーマンスをしっかりと発揮し、熟練された技術でチームに貢献。プレーはアグレッシブだが、柔軟さと聡明さを合わせて持ち、チームを行くべき方向に導く。

年齢なんてただの数字に過ぎないことを、プレーで語るバツベイ選手。
ここまでプレーし続けられるのは、ただタフなだけじゃできない。第一線でプレーし続けられる秘密とはなんなのだろうか。バツベイ選手は2つのキーワードを使ってこれを説明してくれた。

「『マインドセット』そして『アクション』これが大切です。
まず『マインドセット』は、若い選手たちが自分のプレーを見ていて刺激になるような存在でありたいと思っています。そして自分自身も彼らに負けたくない。
そして『アクション』は、自分自身がそうした若い選手たちと共にプレーすることで、モチベーションを貰っている。また、自分のプレーを通して、若い選手たちに成長してほしい。言葉で若い選手を育てることもできるけれど、私の場合は『アクション』。
自分のプレーを通して、『自分も負けられないな』と思ってほしい。『カビリさん(バツベイ選手のこと)はもう歳だから』なんて言われたくないと思ってプレーしています。」

バツベイ選手と2022年度入団のハラトア選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

今日も鉄人は鉄を打つ

若き日の兄やライバル選手の存在。
そうしたプレッシャーを「それが良かった。」と自分の成長の糧とする。

ベテランとなり、若い選手たちと共にプレーすることで「マインドセット」を高く持ち、「アクション」に変えて、自身のみならず仲間すらも成長させる。

そうしたプレッシャーという、本来ならば逃げ出したくなることを、好機と捉え、心を燃やす。

「鉄は熱いうちに打て」という表現があるけれど、常に熱い鉄はどうするか。

スピアーズの鉄人バツベイ選手は常に熱かった。だからその鉄を打ち続けた。
自分の周りの環境すべてをモチベーションに変え、マインドセットを熱くして、アクションを打ち続けた結果が、鉄人を作った。

そしてその鉄人が鉄を打つ理由は、いつだって母国トンガが根本にあることも忘れてはいけない。

ソアカイコーチはバツベイ選手に対し、こう話す。
「彼はトンガのコミュニティについて常に気に掛けています。そして、自分自身で責任感を持って、主体的に行動することを忘れない。オンフィールドでは、トンガにルーツを持つ選手たちがチームには9人いますが、こうした選手たちが目指すべき存在となっている。みんな彼の足跡を追って成長しているし、彼自身もそうした選手たちを正しい方向に導いてくれる。オフフィールドでも、なにか相談があればみんな彼に相談する。そして、彼もトンガの代表という思いを持って行動している。例えば、日本にいるトンガ人の方が亡くなった際に、お葬式を行うため仲介に入って助けたり。そうしたサポートを自ら行うのがカビリ(バツベイ選手)です。」

そのトンガについて、バツベイ選手本人は試合前のオンライン取材にてこう答えた。
「私はトンガ人の一人として、トンガというファミリーのアンバサダーという意識持ってプレーしています。トンガ人としての誇りを持って戦っていますし、トンガの方々にも自分のプレーで誇りに思ってほしいと思っています。そうした理由が、自分のパフォーマンスを押し上げてくれています。」


キャリアを通して戦う理由は増えていく。
鉄を打ち続ける理由は増えていく。
戦う理由は、スピアーズのファン=オレンジアーミーの存在も大きい。
「いつもどんなところでも応援してくれるオレンジアーミーは心強い。また次の試合はスピアーズのホストスタジアム。この勝ち続けているスタジアムでまた勝って、レガシーを継承していきたい。」

2月6日第5節イーグルス戦後に撮影。南太平洋のトンガ諸島での海底火山大規模噴火によって被害にあわれたトンガの方々への応援と、支援の意志を示して。 左からソアカイコーチ、テアウパ選手、ウヴェ選手、マキシ選手、トゥパ選手、オペティ選手、バツベイ選手。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

明日の試合は、スピアーズのホストゲームの最終戦となる。
場所はスピアーズがホストゲームを開催してから、今だ負けなしの江戸川区陸上競技場。
この一戦をスピアーズは、この日だけの特別なユニフォーム「SDGsスペシャルジャージー」を着用してプレーする。

その特別な日に8番をつけてプレーする、日本ラグビー界を牽引してきたバツベイ シオネ。
日本とトンガのラグビーが、これからも持続可能でさらに発展するために。
そして、バツベイ選手たちのようなトンガにルーツを持つ選手たちが、これからもこの江戸川区陸上競技場でプレーするために。

そんな熱い思いを胸に、今日も鉄人は鉄を打つ。
NTTリーグワン2022第15節 スピアーズの背番号8番に注目だ。

文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

クボタスピアーズ船橋・東京ベイには、この4月で入団5年目となるバツベイ選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

バツベイ選手が100試合出場達成した試合後、ご家族をロッカールームに呼び、ソアカイコーチが作成したメッセージビデオを上映し、バツベイ選手をチーム全員で祝福した 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

江戸川区陸上競技場でプレーするバツベイ選手 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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