「スピアーズの頼れるアニキたち」NTTリーグワン2022第12節試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

若手選手の活躍に目が離せない。
そんな記事を書くべきだろう。
今季のスピアーズのラグビーを見れば、そんな記事を書きたくなる。

第3節のコベルコ神戸スティーラーズ戦で、「彗星の如く」という生易しい表現では利かないような活躍を見せたのはオペティ・ヘル選手(23歳)。
ブルーのセカンドジャージーにトンガへの祈りと想いを込めた赤いソックスを履いたオペティ選手は、ボールを持っては相手をなぎ倒しながら進み、ボールを持たずともタックルで相手をなぎ倒し、終いにはタックルから起き上がると、いつの間にか相手ボールを奪っていた。
その衝撃はまるで、リーグワンとオペティ・ヘルの天体衝突。オペティ選手という彗星は、リーグワンの各チームにとって大きなクレーターのように無視できない存在となったはずだ。

第3節神戸S戦でのオペティ選手。この日、スピアーズは1月に発生したトンガ諸島での海底火山大規模噴火によって被害にあわれたトンガの方々への応援と、支援の意志を示すため、ラグビートンガ代表のチームカラーである赤色のソックスを着用して試合を行った。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

第7節で「だれよりも笑っていた」と試合後にコメントしたのは根塚洸雅選手(23歳)だ。

「まあ、活躍するだろうな。」とチームのだれもが予想した根塚選手は、そんな予想を上回るプレーを見せて、デビュー戦にして試合の優秀選手に選ばれた。

いつでもニコニコ。
見ているこちらもなぜかニコニコ。
プレーでは、キレ味鋭い爽快なランで相手ディフェンスを一閃。
タックルではスピードを活かしたガツンと仕留める一撃も見せる。
「キレ味爽快、ガツンときて、ニコニコになる。」まるでビールのような彼の存在はここまで出場した5試合だけで、ファンをほろ酔いにさせた。

愛称は「コーギー」。トライ後の歓喜を爆発させたコーギースマイルは必見。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

そんな根塚選手と、この週末の試合で逆サイドのウィングにポジションするのは、「最後のトップリーグの新人賞」を獲得して一躍シンデレラボーイとなった金秀隆選手(24歳)。
この2試合リザーブとしての出場だったが、決してそれに甘んじるような選手ではない。

「人より練習する」ことをモットーとする彼のこと、技と速さと強さにより磨きをかけて、1か月ぶりに14番の背番号でプレーする。
同じウィングの根塚選手とは対照的に、金選手は「カメラを向けられると笑顔が作れない。」らしい。
グラウンドを疾走するときの生き生きとした表情とのギャップにも注目だ。

第3節の横浜E戦では後半にダイナミックな走りを見せてトライも。第12節では地元大阪で活躍する姿を見せたいところ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

のびのびとプレーさせられるような雰囲気を作れるようにしたい

ここまで今シーズンだれしもが注目する若手選手の活躍について触れてきた。
しかし、チームは知っている。
オレンジアーミーは気付いている。
その活躍を支えるベテラン選手たちの存在を。

前述の根塚選手がデビューした第7節の試合後記者会見で、チームのキャプテン立川理道選手(32歳)は、その根塚選手の活躍について聞かれるとこう答えた。
「若く才能もある選手なので、今後が楽しみです。自分の立場としては、彼のような選手にのびのびとプレーさせられるような雰囲気を作れるようにしたいと思います。」

立川理道選手は今季キャプテン6年目。日本ラグビー史上に残る「ブライトンの奇跡」の試合でもフル出場した立川選手は、チーム入団以来常に第一線で戦い続けている。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

響きましたか、このどっしり感。

若手の活躍には、活躍できる雰囲気がある。
その土壌を築くのは、コーチやスタッフのおかげもあるけれど、若い選手たちと共に汗をかき、走り、そして成長し合うベテラン選手たちの存在があってこそ。

そうした若い選手たちにとって頼りになる「アニキ」のような存在がいるからこそ、どの選手も自身のポテンシャルを存分にフィールドで発揮できる。
そして、チームメイトから敬い、親しまれる「アニキ」たちがいるからこそ、円滑なコミュニケーションが生まれ、シナジーとなって相手に脅威を与えるのだ。

立川選手は、自身のプレーやリーダーシップでチームを牽引しながらも、若い選手でも意見しやすい、自由にプレーしやすい雰囲気をコミュニケーションを通じて醸成してきた。そのコミュニケーションとは、自ら話すだけでなく、任す・話させるといったバランス感覚も重要だ。
そして、キャプテンとして責任を背負う頼もしさ。それはまるで、スピアーズ一家の長男のような存在。
それが立川理道選手だ。

スピアーズの頼れるアニキたちを紹介します

スピアーズの長男と例えた立川理道選手だが、実際の兄弟構成は4兄弟の末っ子。
同じく末っ子ながらチーム所属年数が一番長く、誰もが認める「スピアーズのアニキ」の一人といえるのは杉本博昭選手だ。
以前のインタビューでも「末っ子だからこそ周りをよく見るようになった。」とコメントする杉本選手は、チームメイトへの気配りを忘れない。試合中でも練習中でもコミュニケーションを取り続ける。
それは、フィールド外でも同じで、だれか困っている人がいたら躊躇せず手を貸すようなナイスガイ。

また数々の逆境があっても、前向きな発言を続ける姿勢は、アニキのアニキたる要素に「ポジティブな発言」が必須要素であること教えてくれる。

トライした仲間のもとに駆け寄る杉本選手(写真中央右側)。今シーズンは、マルコム・マークス選手が不在のなかでも、堂々としたプレーで、自身の好調ぶりを示す。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

ニュージーランド代表「オールブラックス」で48試合の出場経験のあるライアン・クロッティ選手(33歳)は入団3年目にして、すでに間違いなくアニキの存在感だ。

特にディフェンス面でのリードは、やっている側としてはこんなにも頼りになる存在はいないだろう。
世界で戦ってきた経験値で自らの読みとタックルスキルで相手の攻撃を阻止することはもちろん、周りを活かし、指示し、組織としてのディフェンスをより強固にする。
その貢献あってか、チームはこの11節まででディヴィジョン1の12チーム中最小失点となっている。

そんな彼は、親しみのある明るい人柄。独特の低い声で冗談を織り交ぜながらチームメイトと話す様子は、まるで近所のお兄さん。
近所にいるなんでも知っている憧れのお兄さんは、実はすごいキャリアの持ち主だった。
そんなキャラクターがしっくりくる「スピアーズのアニキたち」の一人だ。

クロッティ選手は、攻撃においても周りを活かすプレーでチームに貢献する。記事内に登場する根塚選手は、クロッティ選手を「ディフェンスの先生」と仰ぐ 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

デーヴィッド・ブルブリング選手(32歳)も忘れてはいけない。
ラインアウトなどのセットプレーにおいて、高さとパワー、そして頭脳を駆使してチームのフォワード陣を束ねる。
大きな体ながら、決して止まらず走り続けるハードワーカーは、背中で勤労意欲というものを若者たちに示す。
デーヴィッド選手のポジションのロック陣に怪我が相次いだ第7節。
自身も顔面に怪我を負い、おそらく視野の半分もなかった状態ながら、代わりの選手がいなかったことを察してメディカル陣に止められるまでグラウンドに立ち続けた姿は
「デーヴィッドのアニキ・・・」
と、目頭が熱くなるのを抑えられない。

デーヴィッド選手の得意プレーの一つは、相手を抱えこんでボールを出させないチョークタックル。
もし酒場にいたら、どんな揉め事も「まあまあまあ」といいながら引き剝がしてくれそうなデーヴィッド選手は、公私において頼れるアニキだ。

第7節のデーヴィッド選手。デーヴィッド選手は、昨シーズンのプレシーズンではゲームキャプテンとして若い選手たちを率いて多くの試合をプレーした。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

最後にチーム最年長のバツベイ シオネ選手(39歳)を紹介したい。
トンガにルーツを持つ選手たちのリーダーともいえるバツベイ選手の与える影響は大きい。
一見強面だが、だれに聞いても「とにかく優しい」という印象を持たれるジェントルマン。
先週行ったトンガへの支援物資の収集作業では、自ら中心となって物資の収集や運搬を行い、日本とトンガを繋ぐ架け橋となった。

プレー面では、ここぞという時に期待通りのプレーでチームを助ける。
ここでトライを取れればゲームの流れを掴める、ここで相手の勢いを絶たないと相手に流れを奪われる、そんなときに期待通りのプレーで勝利を引き寄せてくれるのがバツベイ選手だ。

多くは語らないが、時折発する重みのある言葉は影響大。
怪我によりグラウンドに立てない時でも、グラウンドに立って見ているだけで、なんだか緊張感のある練習になる。
アニキとは、そこにいるだけで安心できる存在なのかもしれない。

藤原選手(中央)のトライを喜ぶバツベイ選手(左)とオペティ選手(右)。バツベイ選手は39歳ながらパフォーマンスの衰えを全く感じさせない。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

アニキたちの活躍を見逃すな!!

そんなスピアーズのアニキたちの活躍が期待されるNTTリーグワン2022第12節 クボタスピアーズ船橋・東京ベイ対横浜キヤノンイーグルス戦。

しかし、注意しなければいけないのは、アニキたちの活躍は普通に見ていても、分かりづらいかもしれないということだ。

なぜならアニキたちは、周りを活かす。
自分が目立たなくとも自分がなにをすればチームに貢献できるかということを知っている。
そしてなにより、アニキたちは多くを語らないからだ。

それは、自分もかつてはそうした選手たちによって活かされてきた若者だったということを知っているから。

同じように、現在活躍するスピアーズの若者たちも、いつかアニキと慕われる存在となるだろう。

桜が散り始める試合当日4月9日。
新生活を迎える方々も多いだろう。
新しい生活や新しい仕事に不安を持つ人もいるかもしれない。

けれど、きっと大丈夫。
どのチームにも、どの組織にも、今回紹介したようなアニキの存在はきっといる。
そんな人たちに甘えて、自分の才を発揮できれば、きっと新生活はうまくいく。
いいアニキたちは、そんな画を見たがっているはずだ。

万博に咲く桜吹雪とともに、試合当日はそんな画が見られるだろう。


文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

4月5日の練習後の様子。スピアーズは練習後、毎回お互いのハードワークを全員で労い、練習後のコミュニケーションを図る 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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