「新潟の地でラグビーを」NTTリーグワン2022第11節試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

あるラグビー少年の思い出

「トウタイ・ケフだ!体も手もデカい!!」

新潟市内のホテルで元オーストラリア代表のトウタイ・ケフを前にして、そう思った。
新潟県内のラグビースクールでプレーする彼は、県内でクボタスピアーズの試合が開催されるタイミングで行われた選手たちによるサイン会に参加した。

「ラグビーって楽しい!」ただただそんなシンプルな思いでプレーしていた少年時代。
クボタスピアーズが好き、大ファン!というわけではなかったがオーストラリア代表60キャップ、当時クボタスピアーズの看板選手だったトウタイ・ケフのことなら知っていた。

「ラグビースクールのコーチに誘われてサイン会に行きました。スピアーズの応援小旗にたくさんの選手からサインをしてもらって。思い出に飾っていました。それから、クボタスピアーズが新潟で試合をすることがあったら見に行ってましたね。」

と、当時の思い出を話してくれたのは天坂裕也さん。
のちにクボタスピアーズに入団して、5シーズンプレーした。現在でも(株)クボタに勤める。

高校進学と共に県外へ出た。高校〜大学と強豪校で、その快足を武器に活躍したウィングは、クボタスピアーズに入団して、再び新潟の地に戻る。

天坂さんが社会人になって、なおクボタスピアーズは新潟県で定期的に試合を行っており、チームの試合や普及活動を通して、地元に戻ったのだ。

「地元のスクールでは、(自分が)初のトップリーガーということで祝福してくれました。新潟のラグビーに係る人は温かい。だからこそ、自分も貢献したいという思いはあります。新潟出身のラグビー選手は、同じような思いの人が多いんじゃないでしょうかね。」

写真左が天坂さん、ボールを持つのは立川選手。天坂さんは東京農大二高、東海大学を経てクボタスピアーズに入団(2012年)。新潟県新発田市出身。スピアーズ入団後、新潟県出身のトップリーガー複数名で新潟の子どもにラグビー指導を行うこともあった。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

ラグビーというスポーツが全国で愛されるために

そんな天坂さんの思い出から、15年以上が過ぎた。
トップリーグから名前を変えて、今年1月に開幕した日本ラグビー最高峰のリーグ”ジャパンラグビー リーグワン”。
桜の開花の知らせも聞く3月末に、リーグワンとしては初となる日本海側を開催地とする試合が行われる。

NTTジャパンラグビー リーグワン2022 ディビジョン1 第11節クボタスピアーズ船橋・東京ベイvsNTTドコモレッドハリケーンズ大阪の試合が、新潟市陸上競技場で明日の12時キックオフとなる。

今回は、船橋をホームタウンとし、東京都江戸川区にホストスタジアムを持つスピアーズが主管権を持つホストゲーム。

ホストエリアだけで見れば、一見して関係性がなそうなスピアーズと新潟だが、前述の天坂さんの思い出にもある通り、リーグワンの前身であるトップリーグ時代から深い関わりがある。

「これまでトップリーグ時代からクボタスピアーズを所有する(株)クボタと新潟県は農機という事業領域で深い繋がりがありました。だからこそ、トップリーグの試合では、新潟県としてクボタスピアーズの試合を定期的に行ってくれていました。そうした関係性を踏まえた上で、リーグワンでのホストゲーム開催地として、新潟県で試合を行う意義を感じ、今回の試合の開催に至りました。」

とクボタスピアーズ船橋・東京ベイの石川GMは語る。
だが、この地で戦う意義とは過去の歴史だけではない。
「新潟、そして日本海側、強いては地方のラグビーの普及という大きな意味もある」と続けた。

リーグワンは「あなたの街から世界最高をつくろう。」を合言葉に、ミッションのひとつに地元の結束、一体感の醸成を掲げている。
こうしたいわゆる「地域密着」を掲げることで、メリットも多くあるが弊害もある。

その一つが、三大都市、特に首都圏に集中したリーグワン所属チームのホストエリア。
ホストエリアを中心にファンづくりを行うのであれば、それ以外のエリアはどうしても試合開催機会が少なくなってしまう。

スピアーズも同様に、ホストスタジアムがある江戸川区やホストエリアを中心に、ファンづくりやチームの価値向上を図る。
その重要性を理解した上で、他エリアでの試合の開催に価値を感じていた。

それは、トップリーグから続く歴史や地域との関係性もそうだが、「ラグビーの普及」という観点も大きな理由だ。

前述の天坂さんも
「私が子どものころに比べて、新潟県でラグビーができる環境が増えてきた。」
と述べる新潟県のラグビー事情だが、それでもリーグワン所属チームがホストエリアとする地域に比べると、まだまだ十分とは言えないのも事実だ。

ラグビーは、だれもが身近なスポーツであってほしい。
そして、全国のいたるところで愛されてほしい。
そのためには、トップチームが各地で試合することが不可欠だ。
ラグビーの価値を試合により発信し、「ラグビーって面白い!」「やってみたい!」と思う人が増えてほしい。
そんな思いがあって、スピアーズはあえて地方都市、関係性も深い新潟県でのホストゲームを実施するに至った。

2021年12月には新潟県内にてスピアーズ所属選手も参加してのラグビー指導を行った。参加選手は岸岡選手、侭田選手、古賀選手。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

トップリーグ2018-2019シーズンの岡山県での試合後の様子。たくさんの地元の子どもたちへサインをするバツベイ選手。トップリーグ時代は、全国各地への遠征も多かったが、チームは開催地でのファンサービスを欠かさなかった。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

どうしても出たかった開幕戦

「新潟県のラグビー選手にとって、スピアーズの選手がヒーローのような目指すべき存在であってほしい。」
と話すのは、天坂さんと同じ新潟県出身のスピアーズOB・高橋銀太郎さんだ。

高橋さんは2006年にスピアーズに入団。
バックスのどのポジションでも活躍できるポテンシャルで、入団してすぐ頭角を現した。
奇しくもその入団年のトップリーグ開幕戦の舞台は、新潟市陸上競技場。
なんとしてもメンバー入りしたい気持ちが強かった。

その願いは叶い、試合メンバー入りした開幕週。試合数日前に怪我をしてしまった。
だが、それでも地元新潟で自分のプレーを見せたい気持ちは諦められない。

コーチやスタッフに懇願し、自分の体に鞭を打ち、リザーブとしてだが試合メンバーのまま、新潟市陸上競技場にピッチに立つことができた。

「高校から県外のチームでラグビーを続けた自分にとって、この時が初めてプレーヤーとして新潟市陸上競技場に立った瞬間だった。」
と話す。

試合は開幕戦。シーズンはこの先も長い。
無理をする必要はなかったが、無理をせずにはいられない心境だった。
それほど、高橋さんにとって、思い入れのある場所での開幕戦だった。

高橋さんは東京農大二高、早稲田大学を経てクボタスピアーズに入団し、10シーズンプレー。新潟県亀田町出身。ミスターラグビーと呼ばれた平尾誠二氏が立ち上げた平尾プロジェクトに12歳にして選ばれた。スピアーズ退団後は、(株)クボタに勤める。2019年に放映さえたTBSドラマ『ノーサイド・ゲーム』にも出演。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

例え高校から県外でプレーしていたとしても、故郷でプレーをしている姿を見せたい気持ちは特別だ。

一からラグビーを教えてくれたコーチたち、一緒にラグビーボールを追いかけた仲間たち。
ラグビー関係だけじゃない、家族や親戚、友人たち。
楕円を追いかけて故郷を出た選択が、自分を成長させたんだとということを見せたい人がいる。
スピアーズのジャージを着た姿を見せることで、感謝を伝えたい人たちがいる。

選手として故郷に戻るとは、それほど大きな意味を持つということを、高橋さんのエピソードで改めて感じた。

高橋さんは
「新潟でラグビーができる環境は昔に比べてだいぶ整った。だが、大人になってもラグビーを続けてもらうことも重要。
だからこそ、スピアーズが新潟の地で憧れの存在になれば、ラグビーを続けるプレーヤーは増えていく。」
と話す。

ラグビーを始める。
憧れの存在を見つける。
自分もそんな存在に近づこうとラグビーを続ける。
成長して、故郷に戻る。
自分自身が憧れの存在になる。

こうした循環は、ラグビーの発展、ゆくゆくは、スピアーズの強化にも繋がる。

クボタスピアーズ船橋・東京ベイのビジョン。
それは、「Proud Billboard(誇りの広告塔)」

スピアーズが憧れの存在になることは、誇りの広告塔になることに他ならない。

2018年11月11日に行った新潟市陸上競技場での公式戦前に行われた選手によるラグビー指導。現在もチームで活躍する立川選手、杉本選手、ファンデンヒーファー選手が参加した。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

高橋さんは、取材の最後に新潟県の「県木」について教えてくれた。

新潟県の県木は雪椿(ユキツバキ)。

豪雪地帯の新潟で、どんなに雪に押しつぶされても春には力強い枝木を伸ばし、凛とした美しい花を咲かせる。

「新潟の人たちも、雪椿のように忍耐強いのが特徴だよ。」

豪雪地帯で、忍耐力が必要とされる農業が盛ん。
なるほど納得だ。
その忍耐があるからこそ、豊かな農作物を作ることができるのだろう。

ふっと頭を過った。そういえば、今季スピアーズのスローガンも「不撓不屈」だったな、と。

どうやらスピアーズと新潟の共通点は、ここにもあったようだ。

フラン・ルディケヘッドコーチ就任以降、チームの文化から忍耐強く作り上げてきたスピアーズは、現在2位。
これまでラグビーという種を蒔き続けてきた新潟の地で、いったいどんなラグビーを見せるのか。
きっと多くの子どもたちが見てくれるだろう。
雪椿のような忍耐強いラグビーで、誰かにとっての「目指すべき存在」となるようなプレーに期待したい。


文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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