【UFC】UFC APEXのベストファイト

UFC
チーム・協会

【Cooper Neill/Zuffa LLC】

「UFC APEXは格闘技とUFCにとって、大きくゲームを変えるものになる」

オクタゴンで繰り広げられた中でも最高クラスの戦いのいくつかを送り出した今、UFC会長デイナ・ホワイトの言葉はこれ以上ないくらい真実を語っていたと言えるだろう。2019年6月18日、UFCはUFC APEXの開設を発表。ラスベガスのUFC本部の向かい側にあった空室になっているオフィスビルだった建物が、UFCのイベントの中心的な舞台となる小さなアリーナに生まれ変わった。

そのわずか数カ月後にあたる2020年3月、世界全体が予想外の事態に襲われる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、世界中の大規模なスポーツイベントが次々とキャンセルされた。行政はマスク着用とソーシャルディスタンシングを義務づけ、MMAのようにフィジカルなスポーツは暗礁に乗り上げたかと思われた。

これも運命か、UFC APEXが救いの船となった。この施設のおかげで、新たに設けられたCOVID-19の規則を遵守しつつ、UFCが試合を実施することが可能になった。UFCファイトアイランドに加え、UFC APEXはしばらくの間UFCイベントの主要な会場になった。ただ、UFCが戻ってきたとは言え、パンデミックの中、無観客でイベントが行われるのは組織として初めてのことだった。

最初は観客のいないUFC APEXの静まり返った雰囲気が、そこで行われる戦いに人をひるませるような緊張感を与えていた。観衆がもたらす大量のアドレナリンや、他の音が聞こえなくなるほどのノイズがない。しかし、時が進み、環境も変わっていく中で、他より小さいオクタゴンと会場には独特な雰囲気が生じ、そこで記憶に残る試合が行われるようになった。UFC APEXが目の当たりにしてきたベストファイトのいくつかを振り返ろう。

マックス・ホロウェイ vs. ヤイール・ロドリゲス(2021年11月13日)

UFCファイトナイト・ラスベガス42:マックス・ホロウェイ vs. ヤイール・ロドリゲス 【Chris Unger/Zuffa LLC】

カルヴィン・ケーターに対して忘れがたいパフォーマンスを見せた“ブレスト”ことマックス・ホロウェイが、ランキング上位のコンテンダーであるヤイール・ロドリゲスとの戦いでオクタゴンに戻ってきた。ロドリゲスが最後にオクタゴンで戦った姿をファンが目撃してから、2年以上が経っていた。メキシコ出身のロドリゲスは、足首の負傷や出場停止処分で試合から遠ざかっていたのだ。ロドリゲスがオクタゴンに復帰し、元フェザー級王者と対戦するというニュースを受け、ファンはその試合がファイト・オブ・ザ・イヤーになることを確信していた。

ホロウェイに大勝利を収めれば、ロドリゲスはやすやすとUFCフェザー級のタイトル争いにからめるはず。その一方、ハワイ出身のホロウェイとのバトルは、ロドリゲスがそれまで臨んできた中で最大のチャレンジであることも間違いなかった。

戦いが始まったとき、どちらのファイターにも相手を探るようなプロセスはなかった。ホロウェイはパワフルなフックとストレートのパンチを繰り出し、それによってロドリゲスの頭が跳ね返っている。ホロウェイの打撃によるダメージは急速にあらわになり、ハワイ出身のファイターは第1ラウンドが終わる前にロドリゲスの左目の下に切り傷をつけた。その中でも、序盤はロドリゲスの蹴りがターゲットを捉え、王者のリードレッグに打撲傷を与えていた。

試合を通じてロドリゲスが優勢になる瞬間はあったものの、ホロウェイが常に1歩前に行っている様子で、ほぼすべての攻撃に対して自らのコンビネーションで応戦しているように見えた。ロドリゲスは何度かクリーンヒットを決め、元王者を少しの間揺さぶっている。しかし、ホロウェイは持ちこたえ、ロドリゲスのベストショットを受けてもなお攻め続けている。

25分におよぶ見事な試合を終えたホロウェイとロドリゲスには、UFC APEXを訪れていたファンからの声援と称賛が送られた。ホロウェイの足技と5分におよぶグラウンドコントロールはジャッジの目を引くに十分であり、ユナニマス判定で勝利を収めている。

ジョシュ・エメット vs. シェーン・ブルゴス(2020年6月20日)

UFCファイトナイト・ラスベガス 3:ジョシュ・エメット vs. シェーン・ブルゴス 【Chris Unger/Zuffa LLC】

UFCファイトナイト・ラスベガス3:ブレイズ vs. ボルコフのセミメインイベントとして行われたジョシュ・エメットとシェーン・ブルゴスのフェザー級マッチは、爆発的な3ラウンドマッチとして実施されている。ブルゴスはランキング10位、エメットは8位であり、2人ともあと数度の金星でタイトル争いが見えてくることを承知している以上、熱い戦いに期待が持たれていた。

この試合の序盤、エメットはブルゴスが持つ5インチのリーチのアドバンテージを乗り越えての急襲に成功する。エメットのパンチやブルゴスのレッグキックがたてる音が、UFC APEXに響き渡っていた。

第3ラウンドに入る時点で、ジャッジのスコアカードではエメットが優勢だった。とは言え、ブルゴスも決して引き離されてはいない状態だ。試合を通じて、稲妻のように速いジャブがブルゴスの武器だった。エメットはリーチからの急襲を続け、第3ラウンドでブルゴスを2度ノックダウンしている。ブルゴスはその度に立て直し、最後まで試合を続けることで根性を見せた。攻撃の数々や2度のノックダウンによって、エメットがユナニマス判定でブルゴスを下している。

T.J.ディラショー vs. コーリー・サンドヘイゲン(2021年7月24日)

UFCファイトナイト・ラスベガス32:コーリー・サンドヘイゲン vs. T.J.ディラショー 【Jeff Bottari/Zuffa LLC】

2年の休止を経てオクタゴンに戻った元UFCバンタム級王者のT.J.ディラショーは、ランキング2位にいたコーリー・サンドヘイゲンと対戦した。ディラショー不在の間にサンドヘイゲンは5連勝して階級を席巻した後、現在のUFCバンタム級王者アルジャメイン・スターリングにオクタゴンで初の黒星を喫した。

しかし、その後もマルロン・モラエスと元UFCライト級王者のフランキー・エドガーを華麗にノックアウトしたことで、サンドヘイゲンとディラショーが次の王座挑戦権を争うことになるのは明白だった。

2人は互いを限界までプッシュし、互角の状態で25分間をフルに戦い続けた。ディラショーがスプリット判定で辛勝したものの、どちらが勝ってもまったくおかしくない試合だった。何はともあれ、サンドヘイゲンを下したことで、ディラショーは王者スターリングと暫定王者ピョートル・ヤンのリマッチで勝った方と対戦し、バンタム級タイトルに再び挑むためのチャンスをつかんだことになる。

リッキー・トゥルシオス vs. ブレイディ・ヒースタンド(2021年8月28日)

UFCファイトナイト・ラスベガス35:リッキー・トゥルシオス vs. ブレイディ・ヒースタンド 【Chris Unger/Zuffa LLC】

UFCファイトナイト・ラスベガス35でリッキー・トゥルシオスとブレイディ・ヒースタンドはジ・アルティメット・ファイター(TUF)シーズン29の勝者を決めるために戦った。どちらもチーム・ボルカノフスキーの代表として出場し、大金を伴うUFCの契約を賭けて全力の戦いを見せた。

序盤はヒースタンドがパワーとグラップリングで優位に立ち、2つのテイクダウンを奪う。ヒースタンドがグラウンドに持ち込むたびに、トゥルシオスはすぐさま柔術でそれに応じ、何度もアームトライアングルに持ち込もうとした。背中をついた状態でもトゥルシオスの攻撃は止まらず、激しいハンマーフィストを浴びたヒースタンドは流血。

それでもヒースタンドはプレッシャーを掛け続け、終盤のラウンドでさらにいくつかテイクダウンを取ったが、トゥルシオスはほぼ毎回すぐに立ち上がるか、グラップリングでヒースタンドを上回ってみせた。終盤になるとトゥルシオスの広範囲で素早い打撃が決まるようになり、第3ラウンドではストレートパンチを受けたヒースタンドがダウン。フィニッシュすることはできなかったものの、トゥルシオスは間違いなくジャッジの支持を得るのに十分な働きをした。UFCファイトナイト・ラスベガス35でヒースタンドを下し、トゥルシオスがTUF 29の優勝者に輝いた。

ダスティン・ポワリエ vs. ダン・フッカー(2020年7月27日)

UFCファイトナイト・ラスベガス 4:ダスティン・ポワリエ vs. ダン・フッカー 【Chris Unger/Zuffa LLC】

2019年夏にハビブ・ヌルマゴメドフに敗れ、手術のためにしばらく戦列を離れたダスティン・ポワリエは、ダン・フッカーと対戦することで再びトップを目指し始めた。フッカーにとって、ライト級ランキング5位にいたポワリエは過去最大の挑戦だった。それでもジェームズ・ビック、アル・アイアキンタとポール・フェルダーに3連勝していたフッカーには勢いと自信があった。

ノックアウト勝ちが6回あり、リーチでポワリエに7cm以上のアドバンテージを持っていたフッカーは、“ザ・ダイヤモンド”にボクシングで対抗できることを証明済みだった。

フッカーは緊張も見せずにすぐさま射程に入ると、強烈なショットを繰り出した。レッグキックを浴び続けたポワリエは第1ラウンドで自分のリズムを見つけることができなかった。

第2ラウンドが始まり、ポワリエはマウスガードをかみしめてフッカーにハードショットをヒットさせる。そのダメージは直ちにフッカーの顔に表れ、鼻血が流れ出した。時間がたつに連れ、ポワリエのパワーが流れを引き寄せた。

お互い複数回にわたってダメージを与えながら、ポワリエとフッカーは最後のホーンが鳴るまで戦い続けた。25分間が終了し、ユナニマス判定で勝者となったのはポワリエだった。

デイブソン・フィゲイレード vs. ブランドン・モレノ(2020年12月12日)

UFC 256:デイブソン・フィゲイレード vs. ブランドン・モレノ 【Jeff Bottari/Zuffa LLC】

UFC 255のメイン・イベントで、UFCフライ級王者のデイブソン・フィゲイレードはアレックス・ペレスと戦ってタイトル防衛に成功した。ペレスは第1ラウンド終了まで2分を切ったところで王者にサブミットされている。同じUFC 255のプレリム最後の試合では、フライ級ランキングトップのブランドン・モレノが素早い勝利を決め、ブランドン・ロイバルに第1ラウンドでTKOフィニッシュした。

ロイバルを倒したモレノは王者への挑戦権を要求。どちらも最近の試合でダメージを受けていなかったことから、2人のフライ級による対戦は不可避と感じられた。モレノにとってその機会は、たぶん彼が思ったよりもずっと早くやってくることになる。

UFC 255が終わった直後、フィゲイレードは3週間後にモレノと戦うことに同意。UFC史上最短期間でのタイトルマッチが決まった。

2019年に一時期UFCからリリースされたことがあるモレノは、そこからトップへとはい上がってきた。ロイバルへの第1ラウンドフィニッシュによって、もはやコンテンダーとしてふさわしいのはモレノだけとなった。もう少し時間があれば理想的だっただろうが、モレノはつかんだチャンスに意欲をみなぎらせていた。

モレノは王者にジャブを入れることはできたが、パワーを見せたのはフィゲイレードだった。そのパワーを感じながらもモレノは前進を続け、自身のコンビネーションを命中させていく。第3ラウンドで、フィゲイレードのローブローが意図せずモレノに当たってしまい、試合はいったん止められた。モレノのダメージと回復に要した時間を考慮した結果、レフェリーのジェイソン・ハーゾグは王者に1ポイントの減点を言い渡す。

ローブローから回復したモレノは試合を続行した。このペナルティが重要なターニングポイントとなり、2人のジャッジのスコアカードが同点という結果に。タイトルマッチでフィゲイレードとモレノはドローに終わった。その後両者はさらに2回にわたって激闘を繰り広げることになる。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

UFC

世界最強のファイターが集う究極の総合格闘技団体UFCの情報を余すことなくお届け! 最新ニュースをはじめ、世界各国で開催されるイベントを完全網羅し、試合日程や結果、ランキング、選手データなど、さまざまな情報を配信します。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント