震災から11年。福島原発処理水の海洋放出を考える〈続編〉地元サーファー達の声
【Kiyomi Igari】
そんななか昨年4月に日本政府は福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出すると発表。政府は「海水浴やマリンスポーツは問題なく行える」と説明している。地元サーファーらは一定程度理解は示しているものの、複雑な本音も見え隠れする。処理水対策の現状と、様々な方面からの意見をまとめた。
2023年春から処理水の海洋放出が開始「サーフィンは問題なく行える」
そのため、政府は昨年4月に、この処理水を「海洋放出」で処分するという方針を決定した。2023年春にも海洋放出を始めたい考えを示している。
大半の放射性物質は基準値以下まで浄化された状態で放出されるが、「トリチウム」と呼ばれる物質は残留する。トリチウムは元々海水などの自然界に存在することや、放出時にはトリチウム濃度を基準値以下になるまで十分に薄めることから、政府は「近辺の海岸でもサーフィンや海水浴は問題なく行える」と説明している。
現在処理水を貯蔵しているタンク 【経済産業省 資源エネルギー庁提供】
政府関係者らがNSA大会などで説明
昨年には、いわき市・四倉で行われた日本サーフィン連盟(NSA)主催「第38回全日本級別サーフィン選手権大会」や、南相馬市・北泉で開催された「第55回全日本サーフィン選手権大会」に経済産業省がブースを設置。来場者に向けてパンフレットの配布や模型を用いた説明を行った。
いわきの級別大会で説明する経産省・原発事故収束対応室長の奥田氏 【経済産業省提供】
サーファー達の意見
・サーフショップ「サンマリン」オーナー 鈴木康二氏(北泉)
福島第一原発から約30km北に位置する北泉海水浴場。2019年に一般利用再開され、JPSA大会やNSA全日本大会も開催された 【THE SURF NEWS】
・日本サーフィン連盟 福島支部長 猪狩優樹氏(いわき)
「この2〜3年、オリンピックやコロナ禍のアウトドアブームもあり、福島のサーフシーンはかなり盛り上がってきました。震災後、お店(GLORY SURF)の大会から始めて、2018年の東日本、去年は級別&全日本と、徐々に全国レベルの大会を行うまでになりました。全国レベルの大会では、多くの人が県内に泊まったり飲食をするので町のサーファー以外の人も潤っています。」
「サーフトリップに来る人も増えていて、関東圏はもちろん、コロナ禍の前は中国や韓国からのお客さんも来ていました。せっかくこうして盛り上がってきた福島のサーフシーンに対して、処理水を流すことで風評被害が起きることだけは何とかしてほしいです。」
「それから、この2〜3年の一番の変化は、キッズサーファーが凄く増えたことかもしれません。福島にもようやく親子サーファーが出て来ました。もし、地元の親で“やめときなさい”という人が出てきたら、子供たちのフィールドがなくなってしまう。もしそんなことが起きたら、それが一番つらいですね。」
親子サーファーも増えて来た福島 【GLORY SURF提供】
・日本サーフィン連盟 事務局担当者
「2021年は、震災後初めて、福島県内でNSA主催の大会を2つやりました。福島支部は前々から誘致をしていましたが、色々な声がありなかなか前に進めなかったのが事実です。でも、国や自治体は線量を測っていて、風評を払拭するために頑張っている。数値だけ見たらどこよりも綺麗なこともある。私達としては、公的な数値が問題なければ止める理由がありません。
はじめはよく分からずに反対していた人も、きちんと計測して問題ないということを説明すると、ほとんどの人は理解してくれました。大会参加者も反対するような人はほぼいませんでしたね。大会会場として、福島の環境はものすごくいい。波はギャランティで、設備も整っている。大会をやらないのは勿体ないくらいです。」
【経済産業省提供】
・サーフライダーズファウンデーションジャパン(SFJ)
THE SURF NEWSの取材に対し、SFJ中川淳代表は「そもそも放射線物質というものは自然界にもあるもので100%除染は出来ない。政府やIAEAの科学的分析結果から安全性にも問題ないと考えているが、どうしても心配な場合は自分で水質調査活動が行えるように助成金で支援する。むやみに反対活動をすることは風評被害を煽ることになる。」とコメントした。
原発事故の収束及び再発防止担当大臣等を歴任した細野豪志衆議院議員とも連携を進めるSFJ 【SFJ】
漁業関係者は反対、地元自治体のスタンスは様々
・全国漁業協同組合連合会
「本年4月に基本方針が決定されたことに対し、ALPS処理水の海洋放出に断固反対であることはいささかも変わるものではないことを表明し、漁業者の不安を払拭するため、5項目の申し入れを行ったところである。本日、JFグループ・漁業者の申し入れに対する回答がないまま、このような行動計画が策定され、一方的に進められようとしていることは極めて遺憾であり、強い憤りとともに厳重に抗議するものである。」
・福島県漁業協同組合連合会
・福島県
「新たな風評が生じるのではないかという懸念と、復興の実現に向け、廃炉作業を安全かつ着実に進めなければならないという大きなジレンマを抱えている。(中略)処理水の処分によって、これまで県民が積み重ねてきた風評払拭の努力を後退させることのないよう、国が前面に立ち、関係省庁が一体となって万全な対策を講じるよう、次のとおり申し入れる(後略)」
・環境団体NGOグリーンピース
まとめ
漁業関係者らの反対も根強いことから、実際に来年春に海洋放出が始まるのかについては疑問の声もあるが、少しずつ準備が進められているのも事実だ。
地元サーファー達の取り組みもあり、少しずつ以前のような賑わいを取り戻してきた福島のサーフシーン。処理水の海洋放出によって逆戻りすることのないよう、政府には透明性のある情報をより広くの人に届けて欲しいと願う。そして、サーファー達も(闇雲に賛成反対を示すのではなく)まずは情報収集をして、考えて行動したいと思う。
(THE SURF NEWS編集部)
<取材協力>
経済産業省 資源エネルギー庁
日本サーフィン連盟
GLORY SURF
サンマリン
サーフライダーズファウンデーションジャパン
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