「役割を全うすること」NTTリーグワン2022 第7節試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

試合前のロッカールーム、様々な心境の中で選手はなにを思う

ウォーミングアップを終えて、ロッカールームに戻ると汗ばんだシャツを脱ぎ、マネジメントスタッフにより綺麗に整えられたロッカーからオレンジのジャージーを手に取る。
その背中に記された、今日の自分の「役割」ともいえる背番号を改めて確認し腕を通す。
コーチや選手、それぞれと握手を交わし、目を見つめ、これからの80分に掛ける覚悟と信頼を確かめる。


キックオフ直前。選手たちの心境は様々だ。
試合に対する決意や高揚、もしくは無の境地か。
興奮、緊張、一体感。

試合前のロッカールームは、様々な心情と血気が溢れる。


だれもが気力充実し、自信満々かといえばそうでもないだろう。

肉と骨をぶつけ合う肉弾戦だ。怖くないわけはない。
有酸素と無酸素が混合する限界との戦いだ。意志の強さが試される。
チームメイトだけじゃない、オレンジアーミーの代表だ。失望させたくない。

そうしたプレッシャーともいえる感情を押し殺すように蓋をして、試合に挑む。
それでも、靴ひもを結び直す手には力が入るし、緊張で手足は冷たくなる。

そうした不安や緊張を生むのは混沌とした感情だ。だからこそ、自分の役割を整理する。
自分の仕事は?
やるべきことは?
チームのプランは?
練習で刷り込んだ自らの役割を遂行することで、試合中の15人は機能し、勢いが生まれ、試合の流れを引き寄せる。

まずは自分の役割を全うするということが、チームを勝利に導く大きな仕事だ。
そして、プレーヤーひとりひとりはその仕事に誇りと拘りを持っている。

ポジションのひとつひとつに特異な役割があるラグビーというスポーツは、だからこそ多様な体格や能力の選手たちがプレーするスポーツだ。

だが、その役割を果たすことは、なにもフィールドの中だけの話、そして選手たちだけに限ったことではない。

試合前のロッカールームは、現場スタッフたちにより試合に向けてスイッチが入る準備が整えられる 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

コロナ渦で見えた各々の責任

多くのスポーツチームがそうであるのと同じように、ラグビーチームにも選手や監督以外に多くのスタッフが存在する。
コーチ陣にアナリスト、通訳、マネジメントスタッフといった様々な役職で、名前もないほど数多くある仕事をこなす。

極端に言えば、グラウンドとゴールポスト、楕円のボールに、1チーム15人のスパイクを履いた選手がいれば成立する競技において、これほど多くのスタッフがチームを支えるのは、ラグビーという競技が特徴的だからこそ。

ポジションも多く、その分だけ専門的な技術と知識が必要とされる。
身体的負担も大きく、怪我も絶えない。
コミュケーションのスポーツともいえるこの競技において、コミュケーションを円滑に進める環境づくりは、チームをより早く成熟させることに繋がる。

こうした特徴から多くの役割があるラグビーチームだが、昨シーズンからはさらに大きな責任が増える。それは新型コロナウィルスに係る責任だ。

今季もこの問題で多くの試合が中止となっているNTTリーグワン。
試合を行うことが当たり前だと思っていたシーズンから、キックオフの笛が鳴らされることに安心するシーズンが訪れた。

ラグビーの試合をせずして、ラグビーチームは名乗れない。
まずは無事に試合メンバーを準備することが、チームとしての大きな責務のひとつとなった。

リーグとして行うチーム全体へのPCR検査の対象者やスケジュールは、単に全員が受ければいいわけではない。対象者の選定や検査のタイミング、検査のための感染予防など実施するだけでも多くの調整が必要になる。それから検査結果を受けての対応を踏まえると、担当者が帰路に就くのは何時になるか。

感染経路を断ちつつ、選手のコンディションを整えるための工夫も必要だ。だが、その工夫は決してオートマチックではない。
ジムやグラウンドの定員を絞り、分単位のスケジュールで、選手全員のトレーニングを管理する日もある。さらには、こまめな器具の消毒といったような、手間と時間を避けては通れない。

コーチ陣は、感染予防に係る制限を言い訳にはしない。会えずとも直接指導できずとも、テクノロジーを駆使し、伝え方を工夫して、コミュケーションを取り続けることを諦めない。あえてこうした状況だからこそ、繋がり合うことの重要性を訴えた。例えばチームから離脱してまった選手に対して、あえてラグビー以外のことでラインする、こうしたちょっとしたことの積み重ねがチームの心をひとつに集める。

週間スケジュール、食事の場所、移動方法、休憩中の過ごし方。
感染予防を意識した生活は、これまでと様変わりする。それらひとつひとつにルールを作り、徹底する・させるのは選手・スタッフそれぞれの大きな責任だ。
この2年、耳に胼胝ができるほど聞いた「マスクをしよう。」「手洗いをしよう。」といった当たり前のことであるからこそ言いたくないことを、折に触れて言い続けてきたのはチームを思ってのこと。

こうした予防対策のすべては、だれかに指示されて行っているわけではない。各担当者が自分たちにできることを考え、当たり前かのように行動に移す。
そうしたそれぞれの主体的な努力なくして、試合を行うことはできないのだと改めて実感する。

検査対応や感染予防を取り仕切る吉田ヘッドトレーナーの貢献は大きい。選手が安心して練習するためには、スタッフによる環境作りは不可欠。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

ラグビーとは、自分の役割を実行する能力が試されるスポーツだ。
だがその役割を全うすることは、決して歯車になることではない。
自分の仕事とその目的を認識し、そこでいかにチームに貢献できるかを考える。
自分のプレーによって、いかにチームが勝利できるかを考える。
そうして身を粉にして繋がったボールだからこそ、トライ後は自分のことのように喜ぶことができる。

もしこれがラグビーの特徴だとするのなら、チームスタッフが行っていることもまたラグビーだ。
ボールを前へ進めるために、自分の仕事で貢献することは、なにもプレーヤーやフィールドに限ったことではない。


キックオフ前。
グラウンドの中央に置かれたラグビーボール。
あのボールが置かれるまでには、チームの勝利を願った多くの役割の全うがある。
託されるのは、フィールドに立つ15人の選手たち。
たくさんの責任と思いを乗せたそのボールを、奪い合い、前へ進めようと奮闘する選手たち各々の「役割」に注目したい。


文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ広報 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

試合メンバー以外(今季チームは「Wings」と呼ぶ。)は練習などでチームに大きく貢献するが、感染予防の観点から試合会場にいけないことも多い。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

試合中はウォーターパーソンも務める田邉コーチは、選手たちとのコミュケーションを欠かさない 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

感染予防のためマスクを着用して練習を行う日も。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

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著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

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