【冬季パラ競技に挑戦】元アルペンスキーヤー戸田雄也、15年ぶりに雪上へ〜前編〜

チーム・協会

【photo by Hiroaki Yoda】

パラ・パワーリフティングなどで活躍するパラアスリート・戸田雄也。26歳から車いす生活を送るが、学生時代は第一線で活躍するアルペンスキーヤーだった。全国中学校大会の回転種目で6位入賞し、年間ランキング全国1位になったこともある。そんな元トップスキーヤーが約15年ぶりに「スキーをしたい!」と思い至り、冬季パラリンピックの花形競技、パラアルペンスキーを体験することに! パラサポWEBが密着した。

全日本学生スキー選手権大会出場時の勇姿 【写真:本人提供】

戸田選手がチャレンジする理由

戸田選手:車いす生活になったあとも「スキーしようよ!」とか「始めればメダル狙えるんじゃない?」という声はいただいていたんです。でも、5歳でスキーを始めて、その楽しさを知っているだけに、またどっぷりハマるのが怖かった。アルペンスキーヤーがどんな生活をしているか、よくわかっていますからね。


戸田は中学卒業後、親元を離れ、オリンピック代表の皆川賢太郎や佐々木明を輩出した名門・小樽北照高校で寮生活。法政大学スキー部では主将も務めた。そんな経歴ゆえにポールを攻め続ける生活とは、1年中、雪を追い求め世界を渡り歩く日々であることを知り尽くしている。だからこそ、戸田はスキーとは距離を置き、家族との時間や仕事を大切にしたかった。

戸田選手:実は、妻・春美もアルペンスキーヤーという影響もあって、この冬、小学2年生の長男が本格的にアルペンスキーを始めたんです。だったら、僕だけ留守番ってさみしいじゃないですか。一緒にやりたいなって。せめてスキー場では自力で動いて、息子が大会に出るときのお手伝いだけでもしたいと思いました。

頑なに遠ざけていたスキーを再開する理由。そこにあったのは、愛する家族の存在だった。

20歳のころ、いまは妻となった春美さんと志賀高原の西館山スキー場でパチリ 【写真:本人提供】

パラリンピアンが直接指導!

そんな戸田の願いを叶える頼もしい存在も現れた。

夏目堅司氏:こんにちは、夏目堅司です! チェアスキーのことならお任せください!

日本障害者スキー連盟・パラアルペン委員長の夏目堅司さんだ。2018年の平昌パラリンピックのあと現役を引退した夏目さんは、ソチ大会、バンクーバー大会にも出場した経歴を持つ。

ソチ2014パラリンピック冬季競技大会に出場した当時の夏目堅司さん  【photo by X-1】

夏目堅司氏:戸田さんは経験者だから習得が早いかもしれませんね。僕も楽しみです。さあ、チェアスキーのフィッティングから始めましょう!

チェアスキーは、体にフィットするシート(座面)と、滑走中でも脚を動かないように固定するフットレストを備えているのが特徴。これらはサスペンションによって、スキー板&ビンディングにつながれている。今回、市販のチェアスキーを用意してもらった。

スキー操作に影響するため、体にできるだけぴったりとしたシートを使用する 【photo by Hiroaki Yoda】

戸田選手:うわー。チェアスキー、カッコいいですね。僕、こういうマシン見ると、ウキウキしちゃうんです。でも、お尻、入るかなあ。座ってみると、ビチビチすぎるくらいぴったりですね。安定もしないから、ちょっと怖い……。皆さん、介助なしで乗り降りしてるんですか?

夏目堅司氏:乗り降りは慣れれば一人でも大丈夫! 必ずできるようになりますよ。チェアスキーは、体にぴったりしているからこそ、雪上で思い通りに操作できるんです。おっ、よかった。このシート、戸田さんにぴったりだ!

胴体や足もバックルで固定する 【photo by Hiroaki Yoda】

戸田選手:実は、ここに来る前、僕が一番心配だったことは、チェアスキーではどうやってターンするんだろうということなんです。健常者の場合、足の母指球(親指)でスキー板を押さえて角づけ(雪面に対してスキーの角を立てること)し、ターンしますよね。チェアスキーだと、どういうイメージなんですか?

夏目堅司氏:チェアスキーでは、母指球ではなく、座骨や腰骨でスキー板を押してカービングしていく感じですね。だから座面がいかに自分に合っているかが大事。スキー同様、チェアスキーもカービングが楽しいもの。エッジを使う感覚さえつかめれば、上達は早いと思いますよ。あとは、とにかく滑ってみましょう!

いよいよ雪上へ!

そして、舞台は長野県・菅平へ。2日間にわたる夏目さんのレッスンがスタートした。

シート(座面)に体が入らないピンチ! 体を入れたくてもスキー板が滑り、安定しない! 【photo by Hiroaki Yoda】

戸田選手:うーん! 寒さで座面が硬くなってなかなか座れない。やっぱり雪上だと勝手が違いますね。スキー板が滑るから、車いすから乗り移るのも大変……。でも、約15年ぶりのスキー場、「本来の場所に帰ってきた!」という感じがします。

夏目堅司氏:では、まずアウトリガーを使って後ろ向きに進み、緩い斜面を登りましょう。おおっ! さすがパワーリフター! 普通は力がなくて、なかなか斜面を登りきれないんですが、しっかり登れましたね。

パラ・パワーリフティングでは140kgを挙上する、上半身のパワーをフル稼働! 【photo by Hiroaki Yoda】

いよいよ初滑り! 約5mの緩い斜面をまっすぐ滑り降りた。

戸田選手:ホーーーーッ! ソリみたい!! 機動力アップだ〜。楽しいな。早くカービング(スキー板のエッジを雪面に食い込ませて鋭くターンするテクニック)がしたい!

記念すべき初滑降は転倒なし! 

夏目堅司氏:すごいバランス力! 転ぶ気配が全然ないのはさすがですね。今後、チェアスキーにもっと乗れるようになれば、車いすよりずっと速く動けて楽しくなりますよ。このあとは数本、真っ直ぐ滑って、そのあとカービングしてみましょうか。

続いてカービングにチャレンジ! 戸田は何本か緩やかに曲がる動きを練習したあと、いよいよ果敢に体をややクの字にして、キューンと動きを曲げ始めた。「キターッ!」と夏目さん。しかし、その後、バランスをとれず、初めての転倒……。

どこまで体を「くの字」に曲げていいか加減が分からないのも転倒の原因…… 【photo by Hiroaki Yoda】

戸田選手:やっぱり簡単じゃない! 曲がるために角づけしようと思ったら、うまくいきませんでした。これってエッジを使う感覚がわからないせいですよね……。なので夏目さん、僕、デラパージュ(横滑り)の練習がしてみたいんですけど……。

夏目堅司氏:えーーっ。さすが優秀。初日からそんなことしたいって言える人なかなかいませんよ。でも、たしかにスキーのエッジをズラす感覚を覚えたほうがいいから、やってみましょうか。

横滑りでは体の向きを変えてそれぞれ練習した 【photo by Hiroaki Yoda】

今度はこれまで以上の急斜面を登り切って、横滑りを開始。またも夏目さん、「これを登るとは、さすがパワーリフターだな」とびっくり。チャレンジャー戸田は、急斜面で転倒したときの起き上がり方を学びつつ、スキーのエッジを使う感覚を学んだ。

そして、雪上初日のレッスンはここで終了!

チェアスキーでの初滑りは?

戸田選手:やっぱり難しい! まだカービングやデラパージュがうまくできないから、自分で思ったように曲がれないし、止まれない。だから、まっすぐ滑って緩やかになったところで勝手に止まるのを待つ感じでした。アウトリガーも使いこなせず、横に滑らせてしまうから、ごまかし、ごまかし、バランスをとって滑り降りるような状態……。でも、やっぱりスキーは楽しいです! 明日は、リフトに乗って、なんとか曲がれるようになり、自分だけで練習できるような状態にもっていきたいです。頑張ります!

後半はいよいよゲレンデで滑ります! 【photo by Hiroaki Yoda】

■体験した人:戸田雄也(とだ・ゆうや)
1982年、北海道・枝幸町生まれ。26歳の時に新婚旅行先のハワイで突然足が動かなくなり、車いす生活に。カーリングのオリンピアン、本橋麻里選手に声をかけられたのがきっかけでパラスポーツに出会う。地元・北海道で車いすカーリングに打ち込んだ後、東京パラリンピック開催決定をきっかけにパラ・パワーリフティングを本格的に始め、国内外の試合に出場している。北海道庁所属。2021年4月より日本財団パラスポーツサポートセンターへ出向中。

【photo by Hiroaki Yoda】

text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda

※本記事はパラサポWEBに2022年1月に公開されたものです。
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著者プロフィール

日本財団パラスポーツサポートセンター(パラサポ)が運営するパラスポーツの総合サイトです。パラスポーツの最新ニュースやコラム、競技・選手の紹介、大会・イベントの日程を広く、深く、お届けします。

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