【浦和レッズスペシャルインタビュー】「背中から言ってもらっている感覚」柴戸 海が阿部から受け継いだ背番号と意思
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リーグ屈指の攻撃力でJ1リーグを連覇している川崎を無失点どころかほぼノーチャンスに封じたのはチーム全体の成果ではあるが、柴戸が見せた球際での強度とボール奪取力はそれに大きく寄与していた。
どんなときでも全力を尽くすことが信条だ。しかし、自身だけではなく誰もが目に見えて分かる変化が、全力を尽くそうとする気持ちをさらに奮い立たせた。
「背番号は僕の中で大きいです。今まで以上にしっかりとプレーしなければいけません。下手なプレーはできません。それは今までと違うところです」
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天皇杯決勝を最後に2021シーズンの全日程が終了し、チームはその日をもって解散。言うまでもなくクラブは以降も存在し続けるが、同じメンバーで戦うことはもう二度と、なくなった。
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人もまばらになったころ、真剣な様子で話す2人の姿があった。
柴戸と阿部勇樹だった。
「海はこれからレッズの中心になっていかなければいけない存在だけど、チームを引っ張っていく存在になれるから。責任感を持っていけば大丈夫。昨日の決勝のように、毎試合覚悟を持って戦え。そうすれば大丈夫。海なら大丈夫だから」
何度「大丈夫」と言われただろう。その言葉に何度うなずいただろう。真っ直ぐに目を見つめながら柴戸は、前日に現役選手としての役割を終えたキャプテンが発する言葉の一言一言を脳裏に焼きつけていった。
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調整の仕方は人それぞれだが、柴戸は試合前日こそしっかりとプレーしなければ、試合でも力を出せないと思うタイプだった。ずっとそう信じてきた。
加えて、自分のタイミングや球際のぶつかり合いでだけではなく、相手の間合いに入ってボールを奪えることになった。それは2021シーズンの成長の一つだった。
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足を踏んだ選手を責めるつもりはつゆほどもない。むしろ、自分の判断が招いたことだと自戒し、痛めた足を引きずりながらホテルへ戻った。
この状態で試合に出たらチームの迷惑になってしまうのではないか。この状態でチームを勝たせることはできるのか。他にも頼れる仲間がいるのだから、無理はしなくてもいい。無理をして大きなケガをしてはいけない。
不安で仕方がなかった。柴戸の心は欠場を訴えることに傾いていた。
その気持ちを変えた人物は、他の誰でもなかった。
「阿部さんに来てもらって、話をしました」
天皇杯決勝は阿部にとって現役生活最後の試合だった。同じポジションの柴戸が欠場すれば、ピッチで優勝の瞬間を迎えられるかもしれない。
それでも阿部は、試合に出るよう柴戸を説得した。
阿部の話を聞きながら、気持ちが変化していく。話が終わって一息ついてからではない。自分の経験を交えながら説得する阿部の言葉を聞きながら、柴戸は闘志がよみがえっていることに気付いていた。
「自分がピッチに立ってできることをやりたい、チームのために走って、闘って、チームを助けたい。そういう気持ちが阿部さんと話している中で大きくなっていったんです。出られるチャンスがあるなら出るしかない。決意が固まりました」
ケガに苦しむことも多かった。自分を犠牲にしても仲間のことを考え続けた。そんな阿部が、大ケガのリスクを顧みずに強行出場させるはずがない。そんなこと、柴戸は誰よりも分かっていた。
プレーできる状態なのであれば、タイトルを懸けた試合は何にも変え難い経験になる。阿部は誰よりもそれを知っている。そして現役選手として最後に、誰よりも柴戸に伝えたかったのだろう。
「経験がある選手だからこそ言えることだと思います。阿部さんに『一皮剥けることができる、成長できる舞台だから』と言ってもらったときに、経験というのはそういうことなんだと思いました」
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浦和レッズ史上初のアジア制覇の立役者の一人となったとき、阿部は26歳だった。
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レッズの3年ぶりのタイトル獲得に大きく貢献したとき、柴戸は26歳になったばかりだった。
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阿部がお世話になった人たちへの引退の報告を直接することにこだわり、そのために引退発表記者会見の日をできるだけ後ろ倒ししたように、柴戸もまた自分の口で阿部に直接伝えることにこだわった。
「22番を付けさせてもらいます」
いつか22番を背負いたい。阿部が現役を退く以前から、柴戸はそう思っていた。昨季まで4シーズン背負った29番も阿部の影響だった。
「阿部選手を超えられるような選手になるという意味でも29番を付けさせていただきました」
新加入選手記者会見でそう話していた柴戸はこの4年間、阿部の背中を追い続けた。
柴戸が22番を背負えることになったのは、阿部が引退したから。空かない限りは背負うことができない。だが、空いたから簡単に背負える番号でもない。柴戸は理解していた。
22番にどれほどのおもいを重ねてきたのか。
「何から話せばいいのか…」
背番号が発表された数日後、つぶやくようにそう発してから整理するのにしばらくの時間を要したことが、その強さを表していた。
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2021シーズンは成長できた実感があった。ボールを受けてからターンをして前線にパスを送るプレーは2020シーズンから少しずつ成長していたが、狭いスペースでもターンできるようになるなど、飛躍的に伸びた。
「でも、それはもともとできなかったわけではないんですよね」
技術的に向上したという評価を柴戸は否定する。
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そうすることによって、ターンすべきかどうかを判断することができる。ターンできないと適切に判断できればミスは減る。自分の技術でターンできると判断できれば、狭いスペースでも問題はない。状況判断が早く、適切になったことで、周囲にはターンがうまくなったように見えたのだった。
また、ポジショニングや周囲の状況を把握することは、守備にも好影響を与えた。
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そしてプレー面の成長に加え、2021シーズンの天皇杯、特に準決勝と決勝であらためて気付かされたこともあった。
実直で献身的にプレーする柴戸にも、欲が出ることもある。
「自分のためにプレーすることもあります。でも、そういうときはだいたい、いいプレーができません」
では、どんなときに力を発揮できるのか。柴戸は直前に歪めた口元を締め、言葉を紡いだ。
「誰かのためにプレーしたり、人のおもいを背負ったりしているときです」
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大事なチームメートとファン・サポーター。『仲間』のためにプレーする。
「そういうおもいでプレーしたことで良さが出たと思います。その気持ちが優勝に貢献できた理由だと思います」
人のおもいを背負う。それならば今季はもう、一つのおもいは背負っているではないか。あの人の、22番を背負って戦い続けてきた人のおもいを。
「そうです」
柴戸は力強くうなずいた。
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憧れ続けた22番。それでも、『二番煎じ』になるつもりはない。それは他でもなく、阿部が望んでいないことだからだ。
「気負い過ぎず、重く受け止め過ぎず、海は海らしく。そうすれば大丈夫だから」
その言葉をまた心に刻み、柴戸は決意した。
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そして、ふとつぶやくように、誰かに伝えるというよりも自分に言い聞かせるように、言葉を発した。
「22番を付けているからこそ、本当に怠けられないと思います。背中から言ってもらっているような感覚なんですよ」
脳内に響く。あの声が。
「海、やれよ」
3年計画の『結実』の年。柴戸は新たな背番号とさまざまな人たちの『おもい』を背負い、毎試合覚悟を持ち、クラブの目標であるとともに『あの人』もなしえることはできなかったJ1リーグ優勝を目指す。
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そして力を込める。
「これからが本当の戦いです」
阿部に憧れ、阿部の背中を追ってきた。「まだまだ遠い」と感じたまま、その背中は消えてしまった。見えなくなった背中はイメージするしかなく、今まで以上に遠く感じるが、これからも追い続ける。
レッズに関わる全ての人が一丸となって突き進む中で大役を果たしたとき、柴戸は追い続ける背中に近づき、「浦和レッズの22番といったら柴戸」と誇れるのだろう。
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