「インファイターたちへ」NTTリーグワン2022第6節試合前コラム

チーム・協会

【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

ラグビーの魅力のひとつ、それは密集プレー

10人程度かそれ以上か、両チーム合わせた人の塊が回ったり動いたりしながら“ゴチャゴチャ”っと雪崩れ込むようにしてゴールラインを超えた。
押した方のチームは歓喜し、仲間を抱き起す。
押された方は、なお密集に体をねじ込み続け、トライを認めさせない。
審判は身を低くし、人の塊からボールを確認するとトライを判定する。
これは「モール」というプレーだ。ラグビーのプレーのひとつで、ラインアウトから作られることが多い。
そのモールからのトライはスピアーズの大きな得点源の一つだ。

今季クボタスピアーズ船橋・東京ベイのモールトライは2本だが、モールが起点となったトライや反則を誘うことで結果的に試合を有利に進めたことも多く、単なる得点源だけではないのがこのプレー 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

ボールを持った仲間がディフェンスに突っ込んだ。
相手チームがボールを奪おうと手を伸ばす。
それを断ち切るため、その隙間に首と肩を突っ込んでその脅威を取り除く。
ボールが地面にあるかどうか関係ない。まずはボールを守り、次の仲間に繋ぐこと。
なるべく早く、そして前に出て、相手を巻き込んで次に託したい。きっと次の前進に繋がるから。
これは「ラック」というプレーだ。1試合で両チーム合わせて100を超えるこのプレーでの攻防は、「ブレイクダウン」とも呼ばれ、ここで優位に立てば、相手の反則も誘え、試合のペースを握れる。

ラックを繰り返し形成しフェーズを重ね、徐々に攻撃に勢いを作るラグビーもスピアーズの特徴。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

8人対8人の集団が、頭を挿し込み合いながら押し合う。
タテにもヨコにもスケールがデカいひとりひとりが、指が入る隙間もないほど密度を高めた集団は、ひとつの意志を持っているかのように同じ方向に進む。
大抵この押し合いは、レフリーの笛が鳴るまで続けられ、その笛の判定ひとつで試合の流れが変わる。
判定基準が難しそうなことで、煙たがられるプレーだが、実は至ってシンプル。「真っ直ぐ押した方が強い。」
これは「スクラム」というプレーだ。

第6節のスクラムを組むフォワード8人の合計体重は900キロを超える 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

モール、ラック、スクラム、こうしたいわゆる「密集プレー」での多くの場合は、球技の主役であるはずのボールは、プレーヤーに隠れている。
観客には、その主役を守る選手たちの大きな背中が写るのみ。

だが、その背中のいかに頼もしいことか。
その密集の内側で戦う熱量が背中に滲み出る。

パスもある、キックもある。
そうした広いグラウンドを広く使うプレーがある中で、この狭いプレーが行われ続けてきた理由。

フィジカルの有利を活かせるから。
反則を誘えるから。
ディフェンスを集めることができるから。

様々な理由があれど、安全性を重視してきた近年のルール改正において、それでもこうした密集戦がなくならないのには、きっとラグビーはこの密集プレーが大きな魅力にひとつだからだ。

密集の中で戦う選手たち=インファイターたちに注目したい

スピアーズのクラブハウスにたくさんのドーナツが置いてあった。
コーチからフォワードの選手たちへの差し入れらしい。
これはモールでトライを奪った試合の翌週の恒例行事とのこと。
理由は極めてシンプル。
「大好きなモールでトライを奪ったご褒美に、みんなが大好きなドーナツを贈る。」

似たようなエピソードがある。
今季入団したヘル ウヴェ選手が入団間もない時期に、スクラム練習前にいった言葉だ。
「スクラムは俺たちにとってのチョコレートだ。大好きな時間なんだからもっとテンションあげようぜ。」
といった内容だ。

今季入団したヘル ウヴェ選手。第6節では4番で先発し、スクラムやラインアウトなどのセットプレーでの貢献や接点での強さに期待。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

ラグビー選手って甘党なの?といった疑問はさておき、この二つのエピソードが物語るのはプレイヤーも密集プレーが大好き(なはず)だ。
だからこそ、この競技を続けてきたのだ。


密集プレーは、痛い。
狭い隙間に差し込む頭は、耳が擦れるし、衝突も絶えない。

密集プレーは、苦しい。
前からも後ろからも押されるスポーツは稀だ。
息が切れた状態で、何人もの選手に押しつぶされる苦しさに慣れることなんてあるのか。

密集プレーは、分かりづらい。
「腕をたため。」「ケツを割るな。」「肩の下に肩。」
言葉だけでは想像もつかない練り込まれた技術が、そのプレーには隠れている。

密集プレーは、地味だ。
多くの場合、視界の大半は、地面か相手か味方の臀部。
前に進む方向は、感覚と仲間の掛け声が教えてくれる。
プレーがうまくいったかどうかの良し悪しは、審判の判定で初めてわかる。

だが、それでもこの密集プレーを愛するのは、そこに誇りと結束が込められているからだ。
それは、チームの皆で肩を寄せ合って話し合い、納得いくまで練習したあの時間。
同じポジションの選手が集まって「ああでもない、こうでもない」と自主練習を重ねたあの空間。

モールトライを奪った選手たちの喜ぶ姿は、そうした過程が色濃く写る。

こうした密集の内側で、歯を食いしばりながら戦う選手たちを、ボクシングで例えるならまさにインファイター。
痛い・苦しいを承知で、それでも一歩踏み込んで、接近戦に挑み、被弾しながらも打ち合い続ける。
外から見ていてはわからないような細やかな技術で、拳をねじ込み、体力を削り、ノックアウトさせる。
まさにそんなリングの上で行うような攻防を、グラウンドでも見ることができる。

明日の試合は、同じく密集戦で自信を持つであろうリコーブラックラムズ東京。
実力屈伸の両者のインファイトは、果たして何ラウンドに及ぶのか。
スピアーズは、リザーブに密集戦を得意とするフォワード選手6人を入れて、この試合に臨む。
終始密集戦を受け入れる準備は万端。

第6節は、密集の最前線で戦うインファイターたちのプレーに注目したい。




文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治

第6節で1番で先発予定の山本剣士選手。接点での強さでとワークレートが持ち味。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

6番先発予定のトゥパ フィナウ選手は強く速いランも持ち味だが、ラインアウトモールにおいても強さを発揮する 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】

  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

〈クボタスピアーズ船橋・東京ベイについて〉 1978年創部。1990年、クボタ創業100周年を機にカンパニースポーツと定め、千葉県船橋市のクボタ京葉工場内にグランドとクラブハウスを整備。2003年、ジャパンラグビートップリーグ発足時からトップリーグの常連として戦ってきた。 「Proud Billboard」のビジョンの元、強く、愛されるチームを目指し、ステークホルダーの「誇りの広告塔」となるべくチーム強化を図っている。NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23では、創部以来初の決勝に進出。激戦の末に勝利し、優勝という結果でシーズンを終えた。 また、チーム強化だけでなく、SDGsの推進やラグビーを通じた普及・育成活動などといった社会貢献活動を積極的に推進している。スピアーズではファンのことを「共にオレンジを着て戦う仲間」という意図から「オレンジアーミー」と呼んでいる。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント