競技スポーツにおける誇り感情体験の分類 -大学生アスリートの感情エピソードに着目した探索的検討-

日本スポーツ産業学会
チーム・協会

【イメージ写真】

忍耐・努力は自分に、実績・活躍はチームに誇りを感じる傾向

アスリートが大会に臨んで抱負を語るとき、「誇りを胸に戦う」といった言葉を耳に(目に)したことはありませんか。いったい、アスリートが胸に抱く誇りとは、どのような感情なのでしょうか。

特定の感情体験は特定の行動傾向を動機づける機能があります。これまでの研究で、誇りは社会的地位を向上させるための達成行動や、良好な人間関係を維持するための利他行動を促進することが明らかにされています。

しかし、誇りと一言で言っても、その感情体験は様々なはずです。多岐にわたるアスリートの誇りの感情体験を分類整理して理解することができれば、誇りの中でもその感情体験の違いによって、異なる行動傾向を予測できるのではないかと考えました。本研究は、その命題を解明するための萌芽的研究です。

大学生アスリート195名に記述してもらった誇りの感情体験エピソードを、1)状況要素:どのようなとき誇りを感じるのか、2)人物要素:誰に誇りを感じるのか、そして3)事柄要素:どのようなことに誇りを感じているのか、の3つの観点から整理し類似する記述をカテゴリーに分類しました。さらに、回答を数値化し、各要素のカテゴリー間の関係を検討しました。

得られた結果の中でも特筆すべき事項は、チームスポーツのアスリートにおける事柄要素と人物要素の関係性です。スポーツを通じて得た人間性や競技を遂行する上で経験した忍耐・努力については、自分に誇りを感じる一方で、輝かしい実績や活躍、アスリートとしての能力といった、他者と比較して有能であることに関わる事柄については、チームメイトに誇りを感じる傾向にありました。

この結果についての解釈は2通り考えられます。
第一に、チームメイトへの誇りは、有能な他者への代理体験であり、 同じ集団に所属する自己の社会的地位を引き上げているのではないかという点です。
第二に、他者への誇りは、他者の能力を高く評価する一方で、 自分の能力や価値を低く評価する謙虚さや謙遜の表れであり、所属集団の良好な人間関係の維持に機能しているのではないかという点です。両者は、今後、個人の力より集団の力が試されるチームスポーツや、ビジネスを中心としたパフォーマンス集団における実力発揮を考察する上で、重要な視点であると言えるでしょう。

近藤 みどり 大阪体育大学大学院
菅生 貴之 大阪体育大学
土屋 裕睦 大阪体育大学
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

日本スポーツ産業学会は「スポーツ産業の健全な発展に寄与できる学会」「産官学の共同による開かれた学会」「国際性豊かな学会」等を中心テーマとし、平成2年に設立されました。 当学会が運営している「SPORTS BUSINESS ONLINE」は、論文誌「スポーツ産業学研究」、情報誌「Sports Business & Management Review」に続く第3の情報媒体として2021年に開設したWebジャーナルです。 コンセプトは「スポーツビジネスのあらゆる情報が集結するオンラインジャーナル」。 本学会が主催するセミナーや学会大会などの情報(案内・プログラム・講演録)や、論文記事情報などを中心に様々な情報を発信しています。

新着記事

編集部ピックアップ

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着コラム

コラム一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント