【週刊グランドスラム134】2022年の新監督に聞く ◆File.2◆平田太陽監督(沖縄電力)
「部員の多さに驚きましたし、甲子園に出場した者もざらにいる。そんな環境では、自分をどうアピールできるかが重要だと感じました」
同期には、福岡工大城東高から入学した柴田講平と東海大甲府高から入学した仲澤広基がいた。
「二人とも堂々としていたので、はじめは先輩かと思ったほどです。そして、グラウンドに立てば、遠慮なく実力を発揮する。彼らを見ていて、自己表現することの大切さを強く感じましたし、しっかり自己表現することが自信につながっていくのだとわかりました」
だから、平田も大きな声を出し、柴田や仲澤に対する対抗心を燃やして自分の存在をアピールした。いつしか、小柄な体格はハンデではなく、反対に恰好のアピール材料になることも実感する。そうして4年間を過ごし、柴田は阪神2位、仲澤は巨人6位でプロの世界へ羽ばたく。平田は、故郷に戻って沖縄電力へ入社する。
甲子園で沖縄県代表校の戦いぶりを見ればわかるように、同じ環境で育った者の一体感は大きな武器だが、それで負けると「仲よし集団」というレッテルを張られてしまう。だが、それは沖縄育ちの気質だけが原因なのではなく、県外に出ないことで沖縄以外の文化を知らないからだと平田の目には映った。
「実際、私が入社した頃の沖縄電力も『選手個々の能力は高いけれど波がある』と見られていた。そこを変えていくにはどうすればいいか、ずっと考えながらプレーしてきました」
目配りや気配りで感性豊かな選手に
10年間プレーしてコーチに就いた時、平田は選手に向かって言った。
「これからは、思ったことをはっきり言うよ。後輩たちのことを信頼しているから、厳しい言葉も投げかけるよ」
前任の古謝景義監督の下で鬼軍曹となり、昨年は3月の東京スポニチ大会で2勝を挙げ、4月の四国大会はベスト4、5月の九州大会は準優勝と着実にステップする。それでも、都市対抗は沖縄県一次予選でエナジックに敗れるなど、少しでも歯車が狂うとガラガラと崩れてしまうのが課題である。そうした状況で監督に就任したからこそ、コーチ時代と変わらず辛口でチームを率いていくつもりだという。
「あくまで、目標は日本一です。ただ、現実には2014年以来、東京ドームからは遠ざかっている。昨年は県内でも負けたわけですから、目の前の試合に勝つというところからチームを作っていきたい。また、今年の新人も3名のうち2名は高校から県外に出ているように、最近の沖縄では他の地域の文化を体験している選手も増えました。だからこそ、技術面を鍛えるだけでなく、試合の流れを見る目も養い、勝利につながるきっかけを作れる選手に成熟してもらいたいと考えています。そこで、選手に徹底しているのは目配りや気配り。そうして感性の豊かな選手が揃ってくれば、全体の意識レベルも上がり、それが新たなチームカラーになっていくと考えています」
沖縄水産高が2年続けて夏の甲子園で準優勝した直後、1992年に創部されてから、沖縄電力は社会人球界の活性化にも貢献しながら歴史を重ねてきた。ちょうど30周年の節目に、初めて県外の大学出身者である平田監督が就任したのも、これから栄光の歩みを進めていくターニング・ポイントになる気がする。今季の戦いぶりにも、注目していきたい。
(文=横尾弘一)
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