「手作りのスタジアム」NTTリーグワン2022第4節試合前コラム
【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
新リーグを見据えていた3年前
午前中に芝生を湿らせた雨と、台風一過の日差しの影響で、グラウンドは蒸し暑い。
スタメンとリザーブ、そしてバックアップを合わせて30人程度になる選手たちは、ロッカールームからはみ出し、通路でテーピングを巻いていた。
大きな選手たちには少し手狭だが、ここは奈良県のラグビーに通ずる方なら親しみも思い出もある奈良県のラグビーのメッカ、天理親里ラグビー場。
2018年10月6日 トップリーグ2018-2019シーズンのクボタスピアーズ対リコーブラックラムズの試合前の光景だ。
ホームグラウンドの船橋、そして現在協定を結ぶ東京湾に沿った各ホストエリアとも遠く離れたこの場所で、クボタスピアーズは初の興行試合を行った。興業試合といっても完全なチーム主管というわけではなく、奈良県ラグビー協会との共同開催での運営となる。
当時のトップリーグの制度では、試合の運営は開催地ラグビー協会に一任される。チームの完全な主管はできず、チームがその試合にある程度の裁量を働かせるためには、こうした共同開催という形をとることになる。
だが、その共同開催ですら当時のトップリーグでは珍しいことだった。
主管権を持つことは大きな労力を伴う。試合の運営、集客、費用とあげればきりがない。
リーグが指定し、開催地協会が準備してくれた場所で試合を行うだけで、チームにとっては十分なエネルギーだった。
だが、それでもクボタスピアーズは、興業ゲームを行った。
それは、いつか来る新リーグに向けて、この経験が役に立つと思ったからだ。
奈良の地を選んだのは、選手たちに天理大学OBが多かったこと、そして過去にも試合経験があり、奈良県ラグビー協会の方々が協力的だったことが大きい。
夏場に汗だくで現場を下見して、どんな演出ができるか、駐車場はどうするか、どうやったらお客さんに来てもらえるかなど、様々なことをチーム関係者と現地の関係者で打合せを重ねた。
この試合の宣伝のために、8月の北見市の合宿から選手たちと共に直行で天理市に出向き、地元のイベントに参加したのが懐かしい。
試合当日は、奈良県ラグビー協会のイメージカラーで作られたグリーンのTシャツを、試合に出ない選手たちが来場者に配布した。
チケットの「もぎり」をしてくれたのは、天理大学ラグビー部の学生だ。その中には、現在チームで活躍しているマキシ選手や岡山選手、藤原選手もいた。
来場者に楽しんでもらえるように、様々な演出や催しを企画したこの試合だったが、来場者数を見て、大成功だったかと言われればわからない。
だけど季節外れの暑さの中、試合後に選手のサインを貰おうと、列に並ぶ子どもたちの笑顔が眩しかった。
トップリーグ2018-20192018年10月6日 試合後の様子 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
チームで作るホストスタジアム
リーグ側が指定した1万5000人というスタジアムの規模、Jリーグホームスタジアムとの共有、そして、そのスタジアム所有自治体との関係性など、多くの問題があった。
スピアーズもホームタウンとする船橋市、及び近隣エリアでのホストスタジアムの選定を視野に入れ、2018年末ごろからホストスタジアムの選定に向けて動き出していた。その候補の一つとしてあがったのが江戸川区陸上競技場だった。都県はまたぐが、湾岸沿いに位置するこのスタジアムは練習グラウンドからも近く、大学ラグビーを中心としたラグビー公式戦の実績もある。
会場アクセスもよく、これまで地域貢献活動を積極的に行ってきた千葉県のエリアや東京都東側からの来場も見込める。
スピアーズは2019年6月に、ここで2回目の興業ゲームを行った。
試合前の近隣ラグビースクールへの普及イベントや来場者へのラグビー体験イベント、そして地元商店街による出店や戦隊ヒーローショーなども用意した。
これらの企画はもちろん来場者のためだが、それに加えて江戸川区の方々にラグビーの試合を行うことの意義を感じてほしいという狙いがあった。
2019年6月22日に江戸川区陸上競技場で行われた試合では、試合前のグラウンドでスピアーズ選手によるラグビー体験イベントも行われた 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
その中で、チームはラグビーの特性や価値、チームの魅力、そして競技場の特性を掴み、来場者の方々がスピアーズのホストゲームに足を運んでもらうための施策を考えた。
試合会場でのラグビーを見る大きな価値のひとつ「迫力」を体感してもらうため、陸上競技場のトラックに仮設の座席を設けたピッチシート。
ラグビー特有といってもいい文化「ノーサイド」を意識した両チームに平等な試合演出。
江戸川区、そしてパートナー企業と共にSDGsの推進も目的とした試合会場でのリサイクル活動。
一周10分もあれば歩けてしまいそうなコンパクトな競技場で、グッズ販売やパートナー企業のブースを多数出展することで、チームカラーのオレンジが持つ「明るい・楽しい・元気」の雰囲気を会場内の活気で表現した。
2022年1月29日。
2018年から見据えてきたリーグワンでの待望のホストゲームが開幕する。
規模は小さく思えるかもしれない。
手作り感が隠せない部分もあるかもしれない。
けれど、それでも誇りを持って作り上げたホストゲーム。
チームスタッフ総出で、協力会社と共にゴールポストから準備したホストスタジアム。
自治体や企業など、たくさんの方々にスピアーズの価値を共感してもらって、ここまできた。
すべての取り組みには思いがあるし、施策のひとつひとつに血が通う。
あの蒸し暑かった天理親里ラグビー場から3年3か月。
チームが見たい景色はあのころと変わらない。
試合後は、きっといい笑顔が見られるだろう。
文:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ 広報担当 岩爪航
写真:チームフォトグラファー 福島宏治
江戸川区陸上競技場のスピアーズのホストゲームで、設営されるピッチシート。傾斜があり見やすい「NISHOシート」と選手と同じ目線で一番近くで試合が見ることができる「NISHIO”V”シート」がある。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
最初は手間取っていたゴールポストの設営も、今ではスタッフだけで数分もあれば設営可能に。 【クボタスピアーズ船橋・東京ベイ(ラグビー)】
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