車いすバスケットボール男子日本代表、グループ2位突破を支えた鳥海連志の献身
【photo by kyodo】
「ディフェンスで世界に勝つ」
「ベリーハードワーク」
京谷和幸ヘッドコーチをはじめ選手たちが事あるごとに口にしてきた、車いすバスケットボール男子日本代表の合言葉であり、コンセプトだ。
17歳で出場したリオから5年
車いすバスケットボール日本代表の鳥海連志(右) 【photo by kyodo】
鳥海はクラス2.5(1.0〜4.5まであり低いほど障がいが重い)のミドルポインターだ。ミドルポインターは座高が低い背もたれ付きの競技用車いす、いわゆる「バスケ車」に乗ることが多い。しかし鳥海の場合、四肢に障がいはあるが体幹が効くため、ダイナミックな動きが可能で、バスケ車もハイポインター仕様。しかも、チーム最年少の17歳で出場したリオ大会の後、タイヤのサイズを大きくし、座高も高くしたという。
「バスケ車を大きくすると、その分重くなるため、チェアワークのスキルが落ちるのではないかとずいぶん言われました。でも、サイズアップしてもできることを証明したかった。そのため、チェアスキルを磨き、筋トレに取り組んで体も大きくしました」(鳥海)
その過程では苦しい時間もあったと明かす。しかし、それが無駄ではなかったことは、試合中の軽やか、かつ機敏なチェアワークを見ても明らかだ。鳥海が自身にレベルアップを課したのには、理由がある。
「チームのテーマとしてディフェンスを掲げているからには、僕が一番その体現者でありたいと思いました」
リバウンドは全部自分が取る!
カナダ戦、車いすバスケットボール界のマイケル・ジョーダンとも呼ばれるパトリック・アンダーソン(左)と競り合う鳥海(右) 【photo by kyodo】
「リバウンドは、次への切り替えに不可欠なプレー。誰かがやらなくてはいけないなら、僕がやろうと。リバウンドを取った後、ドリブルやパスでボールをさばくところまで、こだわってやっています」
鳥海のリバウンドが攻撃の起点となっているのは明らか。予選リーグではまさに「ディフェンスから勝ちにつながる試合」(鳥海)ばかりだった。
「ディフェンスで、代表チーム内でのキャラクターを確立してきたと自負しています。泥臭いプレーでチームに貢献するのが僕の役割」
その意識はプレーの選択にも見て取れる。バスケットボールの醍醐味といえば、やはりシュートだ。もちろん、鳥海はシュート力もあり、実際、初戦のコロンビア戦では、15得点、16リバウンド、10アシストと3つのプレーで2けたとなる「トリプルダブル」を記録している。
コロンビア戦でトリプルダブルを達成した鳥海。この日、SNSで「鳥海選手」がトレンド入りした 【photo by kyodo】
仲間を生かす視野の広い連携プレー
例えば、5月の有明特別強化試合で、チームメイトの古澤拓也(3.0)との連携について尋ねられた際は、
「拓ちゃんはシュートレンジが広い。拓ちゃんが動きやすいようにとか、ゲームをコントロールしてもらいやすいよう、常にコミュニケーションを取ることを意識している」
と語っていた。これは今回、古澤のみならず、ほかの選手たちとの間でも見て取れた。鳥海がシュートを打ってもおかしくないタイミングでも、今回絶好調で、得点を重ねている香西宏昭(3.5)や秋田敬(3.5)らがいい位置にいれば、パスを回す。ハイポインター陣がシュートを打ちやすいよう、相手選手をブロックするシーンもたびたび。ディフェンスをしながら、あまたあるプレーの中から最適解を見つけ出し、コントロールしていた。
視野が広く、周りを活かすプレーも持ち味 【photo by kyodo】
スタミナ強化で「走れるチーム」に
「鳥海には、運動量を求めてきた。また、鳥海をはじめ選手たちには、40分間8試合フルで出場できるスタミナをつけろといってきた。どこよりも走れるチームになっている」
これからいよいよメダルへ向けた戦いが始まる。鳥海はきっとマークされる。それでも鳥海なら、ディフェンスからいい流れを作れるはず。勝負は最後の1秒まで分からない。これまで以上に目が離せない。
準々決勝進出を決め、赤石竜我(左)と喜ぶ鳥海。 【photo by kyodo】
text by Masae Iwata
photo by kyodo
※本記事は2021年9月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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