【水戸】私のミッション・ビジョン・バリュー2021年第13回 濱崎芳己ヘッドコーチ「日本にフットボール文化を」
を目的とするプロジェクト「Make Value Project」を実施しています。
多様性と交流を基盤に、様々な業種の講師を招聘し、異業種の方々の価値観や使命感に触れることで、プロアスリートとしての存在意義や社会的な存在価値を選手たちに問い続けます。
その一環として、キャリアコーチと選手が継続的に面談をして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の策定をする取り組みが昨年から行われています。
ミッション・・・社会の中での自分の役割
ビジョン・・・ミッションを実現した理想の未来像
バリュー・・・日々のこだわり、行動指針
原体験を振り返り、自らのサッカー選手であるうえのスタンスや価値観、使命感を見つめなおすことでピッチ内外でのパフォーマンス、言動、行動の質の向上につなげていこうという取り組みです。
今季も選手・スタッフの今季策定した「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を紹介していきます。
2021年第13回は濱崎芳己ヘッドコーチです。
(取材・構成 佐藤拓也)
「3回ぐらい行いましたね。まあ、僕はいい年齢なので、ある程度、そういうことは考えていますし、あらためて言葉にするという作業を行ったという感じでした。MVVを作成するというよりは、自分の過去にまつわる話をするという感じでしたね」
Q.とはいえ、なかなか自分の過去や考えていることを他者に話す機会というのはなかったのでは?
「事あるごとになぜ自分がサッカーに携わっているのかとか、これからどうしていくのかといったことについて考えるいろんな機会があったので、考えのベースはありました。ただ、こうやって言葉にすることはなかったので、すごく新鮮でしたし、もう一度見つめ直すきっかけになったと感じています」
「世界に行けばフットボールという言葉が共通言語になっています。なので、日本においてフットボールという文化が根付くことが大事だとずっと思っていました。これまで若い選手を指導することが多かったのですが、その子たちが大人になってもサッカーを続けるという道筋を作っていくことがそのための大きな役割だと思って取り組んできました。なので、今回そういう言葉を選ばせてもらいました」
Q.濱崎さんは指導歴何年ぐらいになりますか?
「高校卒業後の93年に名古屋グランパスエイト(現名古屋グランパス)に加入させていただき、1年で契約満了となったんです。1年間に2度けがしたこともありますし、力の差も痛感していました。ある意味、早い時期に挫折を知ったんです。そのまま頑張るという道もありましたが、周りから『大学に行くのもあるんじゃないか』というアドバイスもいただき、大学進学を選択しました。大学卒業後に指導現場に立つこととなりました。なので、指導歴は約25年になりますね」
Q.これまで育成年代を指導してきた濱崎コーチですが、今年はじめてJリーグクラブのコーチを務めました。新たな挑戦でしたが、どんな思いで指導してきましたか?
「自分は今まで育成年代の指導に携わってきて、今はピラミッドの最上位のプロで指導させてもらっているわけですが、少しでも自分ができることがあればと思って取り組んでいます。自分は育成年代の指導がとても大切だと感じています。ただ、本当に自分は育成年代の選手たちを送るべき場所の実情が分かっているのかなと疑問に思うことがあるんです。Jリーグのチームによってはセカンドグループの若手選手の指導に力を入れていないところもある。そこは日本サッカーの大きな課題だと思っています。ただ、実際、プロの現場に身を置いて、チーム全体を底上げする難しさも感じています。なので、今はプロの現場で日本サッカーの課題克服のために、自分が何をできるかを意識して取り組んでいます」
「MISSIONを培った先にこの言葉があると思っています。たとえば、ホーリーホックの選手たちとプロとは何かということを一緒に考えるようにしていますし、Jリーガーは限られた人間しかなれない職業だということを理解してもらいたいと思っています。品行方正になる必要はないと思っています。でも、その意識を少しでも持つかどうかで今後のプロ生活は変わってくると思います」
Q.「日常を創る」ために必要なことは何だと思いますか?
「ずっと指導してきて感じたのは、日本ではサッカーをしている人がサッカーを見ないこと。サッカーをすることで忙しいんです。選手だけでなく、指導者もすごく大変で見ることができていない。もちろん、子どもたちのためにという思いでサッカーと向き合っていると思いますが、日本代表やJリーグになかなか目を向けることができていないんですよね。土曜日は自分の子どもや知り合いとサッカーを見て、日曜日に指導をするというような生活が日常にあることがいいと思うんです。海外に行くと、その国の雰囲気をすごく感じるんですよ。週末はサッカー場の周りに人が集まる雰囲気が好きで、子どもたちがサッカーボールを蹴っている。そういう雰囲気が好きですし、そういう社会になってほしいなと思っています」
Q.海外と文化の違いを感じているんですね。
「ずっとサッカーをしていると、何のためにサッカーをするのかを忘れてしまいがちなんですよね。でも、海外の人は合理的な考えを持っている人が多く、自分が取り組んでいることのゴールが見えているんです。そういうことも踏まえて、もっとフットボールが生活に浸透していけばいいなと思っています」
Q.サッカーを楽しむという文化ですね。
「『する』文化と『見る』文化がバラバラになってしまっている感じがしますね。そこをつなぎ合わせていくことが大事だと思っています」
「私は『これをやりなさい』というタイプではありません。どちらかというと選手たちに考えさせるタイプだと思っています。そして、これからの選手たちはそういうマインドを持っていないとやっていけないと思うんです。今後、いろんなチームに行く機会があると思いますし、いろんな監督に合わせていかないといけない。我々指導者が柔軟性を示すことによって、選手たちは対応力を身につけていくんだと思います。また、『柔軟性』という意味では、やり取りをしっかりしてあげることが大切だと思っています。最初から『これだ』と伝えたら、違う展開になった時に対応できなくなってしまう。また、選手に考えさせておいて、選手の考えを否定してしまったら、選手は考えることをやめてしまいます。なので、お互いに意見を出しながら考えて行くことが大切だと思っています」
Q.二つ目は「観察力」。
「指導者にとってすごく大事な要素だと思っています。やっぱり選手も人なので、機械のように同じ動きを続けることはなく、常に何かアクションを起こしていると思うんですよ。同じことを言うにしても、いつ言うかがすごく大事なんですよ。一番いいタイミングで言うことが大切なんです。その機を逃さないようにしています。鉄は熱いうちに打てという言葉がありますが、本当にその通りだと思います。冷えてから打っても響かないんです」
Q.どのように観察しているのでしょうか?
「今の若い人たちはあまりアクションをしない人が多い。もっと言うと、何か問題が起こると、無になる人が多い。その時間をやり過ごす感じになってしまう。気に入らないことがあると、怒ったり、すねたりするのではなく、その物事に興味を持たなくなってしまう。そういう人が増えましたね。でも、そういう人も、その後に何かアクションを起こすんです。たとえば、水飲みに行った後、目線をそらしたり、誰かにちょっかいを出したり。そういうしぐさを見逃さないようにしています。そういう一つひとつの行動を見逃さないことも僕らにとって重要な能力だと思っています」
Q.適したタイミングでアドバイスすることが大切なのですね。
「常に頭ごなしに言うことは簡単なんですよ。でも、それでは本質を伝えることはできません。言うべき時なのか、言われたくない時なのかを判断することが大切だと思います」
Q.特に水戸には若い選手が多いですから、スタッフ陣のアプローチはすごく重要だと思います。
「そうだと思います。一方、夏まで水戸でプレーしていた平野佑一は現在浦和で活躍しています。数カ月前までは我々と一緒にやっていたんですよ。なのに、いきなりあれだけ活躍できているのですから、たいしたものです。サッカーにおいて、選手は一定の速度で成長はしないんですよね。どこかで急激に伸びるんです。もっと言えば、急激に伸びる選手は一度落ちるんです。なので、大切なのはその成長期に入るまで何をするかということなんです」
Q.3つ目は「目的志向」とあります。
「ゴールを明確にすることが成長するための効率的な作業だと思います。ゴールを考えずに、どこに進んでいるかを聞くと『え?』となってしまう子が多い。時間が長くなればなるほど、そこはぼけてしまう。なので、このクラブではMVV作成などの取り組みをしているところがあると思います。また、目標を持っていても絵に描いた餅で終わることもあるので、フィードバックをしていくことが大事だと思っています」
Q.最後は「有言実行」です。
「あまり大きなことを言うのは好きじゃないんです。その反面、言ったことは必ず実行したい。プロとして、大きなことを言って自分にプレッシャーをかけることも大切ですが、言ったことを実現させる力をつけたいという意味合いを込めて、この言葉を選びました」
「フットボールという一つの言葉の中において、いろんな人と語り合うことができるようになるといいですよね」
Q.そう思うようになった原体験はありますか?
「2000年にドイツに行ったときですね。スポーツシューレにはじめて行った時、衝撃だったのは試合後に選手がスパイクを履いたまま帰るんですよ。日本人は片づけをしてからシャワーを浴びて、試合30分後に集合して解散という流れになりますが、ドイツ人はすぐに帰るんです。彼らにとってサッカーはサッカー、終わったらすぐに普段の生活に戻っていく。あくまでサッカーは生活の一部なんです。その後、フェイエノールトに行った時、週末のスタジアム周辺の雰囲気の素晴らしさも印象に残っています。夜の試合なのに、昼過ぎからサポーターが集まって楽しんで、好きなチームについて語り合っている。ブラジルに行けば、道端で子どもたちがボールを蹴っている。リオデジャネイロの競技場に行った時、椅子のないコンクリートのスタンドで子どもたちが試合を見ずにミニゲームをはじめたんです。文化の違いを感じましたね。日本は指導者も含めて、サッカーが生活のすべてになってしまっている人が多いんですよね。生活の一部になることが大切だと思っています。もっと楽しむ文化が根付くといいなと思いますね」
Q.水戸でそういうきっかけ作りができるといいですね。
「このクラブはそういう空気感がありますよね。大都市にはないまとまりというか、地域との関わりが強い。サポーターも温かいですし、一緒になって作り上げていけたらいいなと思っています」
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