「メダルは逃したが、悔いはない」アーチェリー・岡崎愛子、東京パラリンピックでの戦いを振り返る

チーム・協会

【photo by kyodo】

東京2020パラリンピックでアーチェリー(W1)に出場し、女子個人5位、混合(ミックス)チーム6位と2種目で入賞を果たした岡崎愛子。東京大会閉幕後、自身の戦いを改めて振り返り、「メダルを狙っていたし、獲らなければいけなかったと思う」と同時に、「悔いはない」と明かす。スポーツを心から愛するパラアスリート岡崎の東京大会での戦いぶりとパラスポーツへの思いに迫った。

暑さを感じないほど緊張した予選

アーチェリーは、工夫次第で障がいの種類や程度、有無に関係なく戦えるスポーツだ。そして、岡崎は、最大限の工夫と努力を重ねることができたからこそ、東京大会という最高峰の舞台にたどり着いた。

「そもそも私の場合は、首から下にまひがあり、握力がなく、体幹も不安定。そんな私でもアーチェリーができるのか、競技を始めたころは疑問に思っていました。でも、体を支えるために左肩や足をベルトで固定したり、フィンガーレスリリーサーを取り入れたりと、時間をかけて自分に合う方法や用具を見つけ取り入れていくことで、戦えるようになっていきました」

今大会で戦い抜くために必要だった工夫は、暑さ対策だろう。パラリンピックデビュー戦となったアーチェリー女子個人W1のランキングラウンドが行われたのは、東京大会競技3日目の8月27日の午前中。会場となった夢の島公園アーチェリー場には、夏の日差しが容赦なく照り付けており、まさに暑さとの戦いとなった。かつて「(頚髄損傷という)障がいの特性上、体温調節ができないため、日差しや暑さ、湿気対策が重要になる」と語っていた岡崎が用意したのは、ジェルタイプの保冷剤をセットして使うアイスベストだ。

「アイスベストは、すごく冷たいというわけではなく、体温の上昇を緩やかにしてくれるというイメージ。本当はもっと冷やしてほしいぐらいだったんですけどね」と岡崎は話す。

とはいえ、ランキングラウンドの前半、岡崎は暑さを感じていなかったという。

暑さとの戦いとなったランキングラウンド 【photo by Kyodo】

「朝9時のスタートだったため、気温もさほどではなかったこともありますが、何より暑さを感じる余裕がないほど、プレッシャーを感じ、緊張していました」

アーチェリーのランキングラウンドでは、前半36本、後半36本、計72本の合計点で順位を決める。岡崎のスコアを見ると、確かに前半は272点、順位も12人中10位と振るわない。試合直後は、「原因はわからないが、3エンド目まで手の震えが止まらなかった」と語っていたのだが、その点について改めて尋ねると、「あれも多分、緊張だったと思います」と振り返る。

「弓を持つ方の手に筋収縮が起き、ドラえもんの手のようにグーッと手が握り込んで戻らなくなってしまったんです。アーチェリーはグリップがわずかにずれただけで当たらなくなるので、これはもう仕方ないと思いながら射っていて。矢取りの間にトレーナーさんに手をマッサージしてもらったおかげで、4エンド目からはなんとか筋収縮が落ち着きました」

後半は目標設定通りに点を重ねていく。一方で、暑さを感じるようにもなっていった。「暑いと熱が体にこもり、めまいや息切れで、その場にいられなくなることもある」という岡崎は、実際、この時も最後の2エンドは「最後まで射ち切れるか」というほど苦しかったという。しかし、「気合と集中」で乗り切り、計304点と全体の3位で終了。トータルでは576点で9位となり、女子個人と混合の決勝ラウンドに進んだ。

楽しめたミックス戦

翌28日、岡崎は大山晃司とチームを組んでのミックス戦に登場。ここからは、対戦形式(※)での戦いとなり、射場も雰囲気もがらりと変わる。そのため、岡崎も緊張したというが、試合が始まると、さらに緊張する出来事が起こる。

※1チーム対1チーム、1人対1人で競い合う。W1のミックス戦は、1エンドにつき1人2射ずつの計4射、4エンド16射の総合得点で勝敗を決める。

「(1エンド目の後半で)相手のイギリスチームと4点差になったんです。なんとか挽回しなきゃと焦ったら、また手の筋収縮が出てしまいました」

4点差がついたのは、ミックスのパートナーである大山が2点を射ったことも一因だった。思わず「申し訳ない」と謝る大山に、「岡崎さんは『気にしないで』と言ってくれた」と、試合後、大山は振り返っている。ミックス戦ではいつどちらが外すかもしれず「お互い様」であり、だからこそ「フォローし合おう」という意識があったからこそだ。また、4点差は残り3エンドで十分巻き返しが可能な点差である。しかも2点を射ってもその点差で収まったことは希望を感じさせた。それだけに、岡崎も「挽回を」と力が入ったのかもしれない。

大山とのミックス戦は、楽しめたと振り返った 【photo by Kyodo】

岡崎は手の筋収縮が出たとはいうものの、2エンド目、9点と7点を射っている。8点以内を射ち続けることを目標としていた岡崎にとっては、合格点だ。このエンド、日本チーム34点、イギリスチーム35点と互角。ただし、合計点を見ると、あと2エンドで5点差をひっくり返さなければならなくなった。

ここから岡崎は、本人いわく「相手からのプレッシャーにのまれ、ミスを連発」してしまう。3エンド目は2本とも7点、最終エンドは7点と6点を射ったのだ。一方の大山は、10点1本、9点2本、6点1本と、決して悪くなかった。だが、対するイギリスは10点3本を射つとともに、ほかの矢も7点以内に収めてみせ、勝負がついた。

試合後、岡崎は、「あの舞台で、自分の射ち方ができる人が勝つ。パラリンピックのこわさをすごく感じた」と振り返っている。ただし、岡崎と大山はミックス戦に臨むにあたり、「楽しくやっていこうと決めていた」(大山)。その点、岡崎は「2エンド目以降は、周りも見えてきて、この雰囲気を楽しめた」とも言っており、大会後のインタビューでも試合を明るく振り返っている様子を見ると、目的を達成したと言ってよさそうだ。

石橋を叩いて渡った個人戦

翌28日、岡崎は大山晃司とチームを組んでのミックス戦に登場。ここからは、対戦形式(※)での戦いとなり、射場も雰囲気もがらりと変わる。そのため、岡崎も緊張したというが、試合が始まると、さらに緊張する出来事が起こる。

※1チーム対1チーム、1人対1人で競い合う。W1のミックス戦は、1エンドにつき1人2射ずつの計4射、4エンド16射の総合得点で勝敗を決める。

「(1エンド目の後半で)相手のイギリスチームと4点差になったんです。なんとか挽回しなきゃと焦ったら、また手の筋収縮が出てしまいました」

4点差がついたのは、ミックスのパートナーである大山が2点を射ったことも一因だった。思わず「申し訳ない」と謝る大山に、「岡崎さんは『気にしないで』と言ってくれた」と、試合後、大山は振り返っている。ミックス戦ではいつどちらが外すかもしれず「お互い様」であり、だからこそ「フォローし合おう」という意識があったからこそだ。また、4点差は残り3エンドで十分巻き返しが可能な点差である。しかも2点を射ってもその点差で収まったことは希望を感じさせた。それだけに、岡崎も「挽回を」と力が入ったのかもしれない。

石橋を叩いて渡った個人戦

岡崎の最後の戦いとなったのが、女子個人戦だ。岡崎は決勝ラウンドの会場に「慣れてきた」こともあり、「適度な緊張感で臨めた」と語る。実際、1回戦目は合計128点で勝ち上がった。しかし次の2回戦、岡崎は敗退する。対戦相手は、ランキングラウンドで1位通過し、最終的に女子個人の金メダリストなった陳敏儀(中国)だった。この試合、岡崎自身は非常に落ち着いて臨んでいるのだが、それは難しい試合になるとわかっていたからこそと明かす。

「もちろん、相手が強いとひるみます。でも、アーチェリーは、だれが相手でもやることは一緒。いかに自分がど真ん中に当て続けられるかが勝負なんです。だから、開き直って射つしかありません。そもそも普段から、練習よりも試合のほうが点数がいいですし、強い相手と当たると分かっている方が、集中力が増すんです」

個人戦の準々決勝では第1シードを相手に善戦した 【photo by Kyodo】

実際、129点とほぼ実力通りの点数を出せており、対戦相手によっては勝ち上がれただけに惜しかったと、本人も言葉の端々に悔しさをにじませる。もともとスポーツ好きで、「スポーツをする際は、必ず上位に行きたいと常に思っている」というだけに、負けず嫌いで肝も据わっている印象だ。それは勝つために必要な準備を怠らない点からも見て取れる。

「私は石橋を叩いて渡るタイプ。考えつくあらゆるリスクとその対応策を考えておかないと不安になるんです。ですから、例えば個人戦は、世界選手権や今回の会場の動画を見ながら繰り返しシミュレーションしていましたし、リリーサーという用具が壊れる可能性を想定して、スペアを多めに用意したりもしていました」

今回の戦い、「やっぱりメダルを取りたかったし、取らなければいけなかった」と岡崎は語る。

「トータルで見ると、試合内容は決して悪くなかったので、悔いはありません。ただ、このような状況下で大会を開催していただき、たくさんの方に応援していただきました。出場する者の責任として、結果を残さなければいけなかったと思っています」

なお、岡崎は2005年のJR福知山線脱線事故の被害者としても知られているが、自身のSNSで「入院日数は書かれているのに順位や結果が無いのは悲しくなっちゃう」と発信。この真意を改めて尋ねると――

最後は自分の射ができ、悔いはないと語った 【photo by Kyodo】

「パラスポーツの記事って、その人の人生が主に書かれる場合がありますよね。そこを伝えたいのはわかります。でも、私ももう16年ぐらい書かれ続けているので、そろそろいいのでは、と。パラスポーツに注目していただいているので、これからはもっとスポーツに重きを置いて伝えていただけたら、という気持ちがあります。結果が出なければ批判していただいてもいいんです。ネガティブな報道があることで、パラスポーツも強くなっていくと思うから」

東京大会を機に、日本のパラスポーツは新章に突入した。さらに広がり、根付くかはこれからが勝負。アーチェリーの普及に意欲を示す岡崎の今後の活躍に期待したい。

text by TEAM A
photo by Kyodo

※本記事は2021年9月に「パラサポWEB」に掲載されたものです。
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